The days when I forgot it 04
少し古びた木製の扉をゆっくりと開く。
落ち着いた雰囲気のある外観に「なんの店だろう?」と首を傾げていたミルフィーユだったが、扉の先に広がった光景に、彼はここが一体なんの店かを瞬時に理解した。
それほど広くはない店内一杯に並ぶ大きな棚と、そこに敷き詰められた多種の書物。
「……そうか、本屋か」
少し埃っぽいが、なんとなく落ち着く静かな店内にミルフィーユは無意識に笑みを零す。するとリコリスがミルフィーユのわきを抜け、即座に店内の本棚を夢中で眺め始めた。
「……」
今まで見たことのないほど真剣な眼差しで、書物を物色するリコリス。
(本、好きなんだろうか)
そんな様子の彼女にミルフィーユは少し驚くも、しかしすぐに彼も珍しさからか本棚を眺め始めた。
店内の疎らな客たちに混じり、ミルフィーユは本の一冊一冊を真剣に目で追う。そして、本の背表紙に書かれた文字で気になったものを時たま手にとり、パラパラとページをめくって簡単に読み流す。
しばらくはそんな感じで店内を回っていたミルフィーユ。だがそのうち彼は、自分には理解出来ない文字で綴られた本をいくつか見つけた。
自分はどうやら一般的な、いわゆるこの大陸の標準語を解して話しているという事に最近気付いたミルフィーユだが、たまに見かけた自分にはよくわからない言語はどこか別大陸の言葉なのだろうか? と、彼は首を傾げる。
少し気になったミルフィーユは、リコリスに聞いてみようと店内を見渡して彼女を捜した。
やがて彼は店の奥の本棚で、やけに熱心に書物を読むリコリスの姿を見つける。
「リコ……」
すぐ彼女へ声をかけようとしたミルフィーユ。だが、しゃがみ込んでまで熱心に本を読むリコリスの様子に、ミルフィーユの動きはピタッと止まる。
驚くほど真剣な表情で、なにやら分厚い書物に視線を落とすリコリスに、ミルフィーユは邪魔をしてはいけないなと思って声をかけるのを止めた。
しかし一方で、こんなにも真剣に本を読むリコリスの姿が珍しく、しばらくミルフィーユは黙ってリコリスが読書に没頭する様子を眺める。
「……?」
するとミルフィーユの視線に気付いたのか、リコリスは不意に顔を上げてミルフィーユを見つめ首を傾げた。
「なにか用?」とでも問い掛けるような彼女の仕種に、ミルフィーユは慌てて
「あ、いや、ごめん。読書の邪魔をするつもりはなかったんだが……」
と言って頭を掻く。しばしリコリスは首を傾げたままじっとミルフィーユを見つめていたが、やがて彼女は気にする様子もなく首を横に振った。
そうして彼女は手元の本を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。
「……」
本を3冊ほど手にした状態で、しきりにそれらの本を交互に見遣るリコリス。
そんな彼女の謎の行動を不思議に思ったミルフィーユが「どうした?」と声をかけると、リコリスはチラッとミルフィーユを一瞥し、しかしすぐにに視線を再び本へと戻す。
「?」
ミルフィーユがしばらく様子を窺っていると、彼女は何度も本の内容を確認したり値段を見たりと、どうやら本を買おうかどうか迷っているようだった。
「……欲しいのなら買えばいいんじゃないか?」
「……」
思わずミルフィーユが問うと、リコリスは小さく首を横に振る。
その反応を不思議に思ってミルフィーユが「どうしてだ?」と再度問うと、リコリスは本を一旦棚に戻してメモ用紙をポーチから取り出した。
――どれも欲しいけど、全部買ったら旅の邪魔になる。でも欲しいから1冊だけ、どれを買おうか迷ってる
「……なるほど」
手早くメモしたリコリスの言葉に、ミルフィーユは納得したように頷いた。そして彼は、リコリスの欲しいという本のタイトルを横目で確認する。薬草や調合、それに魔法薬学などと書かれた本の背表紙を見ながらミルフィーユは
「でも、なんだかよくわからないが自分のためになる本のようだし、気にせずに買ったらどうだ?」
と、リコリスに告げた。
「ほら、3冊くらいだったら別に俺が持つし……」
ミルフィーユが軽く微笑みながらそう言うと、リコリスは一瞬キョトンと目を丸くした
だがすぐに彼女は首を横に振る。
――本は重い。だからミルフィーユが大変。
「う~ん……でも、多少重くても俺は別に平気だと思うけど……」




