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Endless KILL  作者: ユズリ
03.Scarlet スカーレット
16/253

pain 04

――腕、平気?


「……ん? あ、あぁ……」


じっと紅い瞳に覗き込まれ、一瞬ボーッとしていたミルフィーユは慌てて頷いた。しかしすぐに彼は、何故か心ここに在らずといった表情となり、リコリスの書いた「ありがとう」の文字を見つめたまま眉をひそめる。


彼の頭の中でまた、突如あの曖昧で不可思議な感覚が甦った。


(……? なんだ、この感覚……)


ミルフィーユの様子に、リコリスが不思議そうに首を傾げる。だがミルフィーユは気付くことなく、ただ不意に甦った『懐かしい』ような感覚に頭を抱え込んだ。


(『ありがとう』……? なんだ、これは……)


かつて……おそらく記憶を無くす前、自分はこの言葉を誰かに言われたような気がする。

そしてそれは、とても大切な記憶だったはず。


(誰に……?)


確かそれはさっきのように、魔物に襲われていたその人を助けた時に言われた言葉。


(あれは……あの人は……)



刹那、一瞬にして目の前が全て闇と化した。



「!?」


ハッとしてミルフィーユは紫電の瞳を見開き、勢いよく顔を上げる。


「な……俺は……?」


「?」


一瞬なにが起きたのかわからず、ミルフィーユは呆然とした顔で呟く。

そして額に再び汗が滲んでいるのに気付いて、ミルフィーユは無言でそれを拭った。

彼の目の前ではリコリスが不審そうに眉をひそめ、ミルフィーユの顔を覗き込んでいる。

そんな彼女にミルフィーユは「何でもない」と反射的に答え、そしてまだぼんやりする思考にかかった靄を振り払うように、強く頭を左右に振った。


(なんだ、今のは……)


一瞬だけ脳内に浮かんだ映像。それは明らかに、喪失する前の記憶だろう。

突如としてほんの僅かだけ垣間見えた記憶のかけらは、しかし彼自身の脳がやはり記憶を取り戻す拒むかのように、瞬時に闇色へ塗り潰されて――消えた。

あと一歩というところでブラックアウトした記憶の一部だったが、しかし一つだけ確実に思い出したことがあった。

それは自分はかつて誰かを助けたことがあった、ということ。


だが一体自分は誰を助けたのだろうと、ミルフィーユは静かに思考する。


思考する彼の脳内に、少女の笑顔が浮かんだ。


(……マヤ?)


1番始めにその名前が浮かんだが、しかしすぐに彼は「違う」と首を横に振った。全く根拠は無いが、だがミルフィーユはそれは違うと確信に近いものを抱く。不思議と『マヤ』という人物ではないということは、なにも覚えていない彼にもわかった。


じゃあ、一体……?


間近で唐突に『パンッ!』と、手をたたく音が聞こえる。


「わっ!」


完全に自分の世界で思考していたミルフィーユは虚をつかれ、驚きの声をあげながら目を丸くした。

見ると彼の目の前でじっと様子を伺っていたリコリスが、好い加減痺れを切らしたのか自分の存在を主張するため、まるで悪戯するようにミルフィーユの鼻先で強く両手を叩いたのだった。


「な、なんだ?」


「……」


恨めしそうにこちらを睨むリコリスと目が合う。ミルフィーユは慌てて「悪い」と言って、自分の非を認めた。


「ちょっと考え事をしていた……その、うん、もう大丈夫だ。本当に」


まだ疑わしげな視線を向けるリコリスに、ミルフィーユは苦笑いしながら両手を合わせて謝る。そして話を逸らすかのように、彼は「そういえばさっきのあの緑色の液体は、薬かなにかなのか?」とリコリスに問い掛けた。

突然話を変えられて一瞬リコリスは不審そうに目を細めるも、すぐにいつもの無表情に戻ってコクリと頷いた。

そして再び指先を大地へと近づけて、言葉を綴る。


――私が作った薬。傷に効くはず


「え、リコリスが作った?」


彼女の答えにミルフィーユは驚いて、思わず声をあげた。

その声にリコリスはもう一度頷き、地面に「薬剤師」という単語を刻んだ。

そうして顔を上げ、彼女はミルフィーユの反応を伺う。


「くすり……?」


案の定ミルフィーユは首を傾げた。

リコリスは小さく息をつき、どう説明すべきか困ったように指先をぐるぐると無意味に回す。

そんな彼女の様子からミルフィーユは彼女の困惑を察して、曖昧に笑いながら


「よくわからないが、リコリスは薬を作れるんだな?」


そう言ってリコリスを見遣る。


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