A requiem 05
暫く彼女はそのまま何も感情の無い瞳で、ミルフィーユの消え去った後も同じ人込みを見つめ続けた。
そこに、彼女の背後から小さな足音が近づく。
「リオ、捜したぞ」
背後から自分の名前を呼ぶかたい声に、一度瞬きをしてリオは振り返る。その顔には、笑顔。
「……あ、ソフィー!」
先程ミルフィーユを見送った時の無感情な瞳は完全に消え、彼女は無邪気な笑顔を向ける。
微笑む彼女の視線の先には、少し異質な容姿の背の高い少年が立っていた。
白い短めの髪に、薄紅色の鋭い瞳。
リオに「ソフィー」と呼ばれた彼は無愛想な表情で、自分のその異質な髪色と瞳を隠すように街の住人と同じような白色の布を頭から被っていた。異質な容姿のため普通にしていれば目立つ彼だが、今は頭に被った白い布が街の住人たちと同化して馴染んでいる。
「リオ、だから俺はソフィーじゃなくてソフィルア……」
ソフィルアは白い布の隙間から、僅かにしかめた顔をリオへと向けた。しかしリオは、ニコッと笑って答える。
「いいじゃん、ソフィルアって長いよ。ソフィーの方が呼びやすいと思うんだけどなぁ……」
リオのぼやくような言い分に、ソフィルアは少し首を傾げて考え込む。しかし直ぐにどうでもよくなって、彼は「まぁいい」と呟いた。
「じゃ、やっぱりソフィーでいいね」
「あぁ、もう好きにしろ。それより……」
喜ぶリオに彼は、咎めるような視線を向ける。
「勝手に宿からいなくなるな。心配したぞ」
「あ……もしかして捜しに来てくれたの?」
「……初めに『捜したぞ』と言った気がするんだが……」
突然泊まっていた宿屋から、忽然と姿を消したリオを彼は心配して捜しに来たのだった。それに気付いてリオは「ごめん、ごめん」と、笑顔で両手を合わせて彼に謝る。
ソフィルアは相変わらず無愛想な顔で、しかし意外にも口調は優しく彼女へと言葉を返した。
「いい。無事に見つかったら、それで」
鋭い彼の瞳も、どこと無く妹を心配する兄のような優しさと安堵が半々にあらわれている。本気で彼女を心配して、ソフィルアは今まで探していたようだ。
リオはソフィルアのその気持ちを察して、流石に「ごめん……」と、今度は心から申し訳なさそうに呟いた。するとソフィルアの無愛想な表情が、困ったようなものへと変化した。
「いや……そんなに謝られても……困る。だから、もういい。別に怪我とか無いなら……」
シュンとするリオに焦ってか、ソフィルアは困り果てた口調でそんな事を言った。口下手な彼らしく上手く文章になっていない言葉に、リオは思わず微笑む。
「……うん、でもごめんね。……ちょっと気になることがあって、勝手に抜け出しちゃった」
「……気になる、こと?」
今度はリオが困ったような顔で笑う。彼女は僅かに目を伏せ、小さく呟いた。
「うん。……君は気にしなくていいんだ、ソフィー」
「……リオ?」
「……」
リオの言葉にソフィルアは、何か引っ掛かるものを感じて首を傾げる。
しかし彼女はそれ以上その事について語る事はなく、ただひどく曖昧な笑顔を彼へと向けた。
「さぁ、宿に戻ろう。そろそろ、次の街へ向かう準備もしなくちゃ!」
「……あぁ」
ソフィルアは何かを隠すような笑みを浮かべるリオを気にしつつ、しかしそれ以上は問わずに、彼女の提案に素直に頷いた。
◇◆◇◆◇◆
「……何処へ行ったんだ?」
人込みから離れた街の外れ。
住人のあの歌声が、微かに風に吹かれて聞こえてくる。しかしそれ以外には人影も見当たらない静かな路地を、ミルフィーユはリコリスを捜して歩いていた。
何となく彼女は人込みが苦手そうだと思い、もしかしたら人気の無い所で一人休んでいるのかも知れないとソフィルアは考えたのだった。
「……」
しかしミルフィーユの予想も虚しく、街外れのこの場所には全く人の気配がない。ここでは無いか……と、ミルフィーユは溜息をついて、来た道を戻ろうと彼は踵を返す。
すると……
「うわっ……!」
「……」
ミルフィーユは思わず小さく声を上げた。
いつの間にか振り返った先に、リコリスが無表情に立っていたのだ。
まるで気配を感じさせず、音すらなかった。突然現れた彼女の姿にミルフィーユは驚くも、しかし見つかった事への安堵もあって大きく息を吐き出す。




