表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Endless KILL  作者: ユズリ
01.nobody ノーバディ
1/253

lost 01

――人は生を与えられたら、皆等しく死を迎えます。

それが一つの命に必ず与えられる条件だから。

”生”とは、一過性のもの。限られた時間だけを、生きられる。

短く、儚い。きっと神様と世界が定めた制約なのでしょう。

死を克服することは、人にとって永遠の課題であって、そして不可能に近い事。



――……けど、だからこそ人は”生きる”んだと私は思います。



――私が貴方と出会ったこと、私が今まで出会った人達のこと、

私はいつか死を迎えて忘れてしまうでしょう。

だから私は世界に、人々に自分の事を覚えておいてもらいたい。

生きて、私の記憶を刻みたい……そう、思うの。





(CCK注入 記憶処理開始)





――……だから、貴方も忘れないで。私の事。






(パターンAに記憶固定 …処理完了)





――約束よ……ミルフィーユ。






(意識深層レベル3に低下 覚醒可能領域です)






『……さぁ、目覚めの時間だ』




◇◆◇◆◇◆




「……俺、は?」


紫電の瞳が見上げたのは、青い空。

”彼”はぼんやりする意識の中、無意識にそんな短い言葉を吐き出した。

緑の木々が生い茂り、その隙間から覗く青の色と太陽の光が”彼”を見下ろして照らしていた。木々の靡きにつられるように”彼”の銀色の髪も優しく風に誘われて揺れる。それを心地よいと感じながら”彼”はゆっくりと起き上がった。


パサリ……と、額から何かが落ちる。


「……?」


それを拾い上げて見る。どうやら僅かに水で湿ったタオルのようだ。

「これは? ……っ!?」

タオルを掲げて眺めた視界の先に、”彼”をじっと座り込んで見つめる女性の姿を見つけて”彼”は酷く驚いた。

まるで気配を感じなかったのだ。その人物は無表情に、どこか無機質な紅色の瞳をこちらへと向けている。長い黒髪とソレは酷く神秘的で、なにより”彼”を驚かせた1番の要因はその人の美しさだった。長い睫毛が彼女の目に淡く影を作り、人形のような無機質さが儚い美を感じさせる。

何も発しようとしない彼女に”彼”はしばし困り果てた。しかし直ぐに気付く。

「あ、もしかして君がこのタオルを……?」

その”彼”の言葉に彼女は小さく頷いた。

その彼女の行動に”彼”はほっとしながら、思い出したように付け加えた。

「……ありがとう。えっと、俺はミルフィーユ」

ミルフィーユはそう言って、少しぎこちない笑みを彼女へと向けた。

介抱してくれたことに対しての御礼なのだが、その「ありがとう」に彼女は少し困惑したような視線をミルフィーユへと返す。

そのことを不思議に思いながらも、ミルフィーユは自分が何故こんな森の中で気を失っていたのかを考え、記憶を辿った。




しかし……




「……あれ?」


「?」


アメジストのような瞳を呆然とした表情で、どこへともなくさ迷わせるミルフィーユ。彼女は訝しげに首を傾げる。


「……」

鮮血色の唇を僅かに動かし、何かを問い掛けるような仕種をとるも、彼女は何も発する事なく再び唇を固く結んだ。


「……俺は……?」


ミルフィーユは焦点の定まらない瞳を、そんな彼女へと向けて呟いた。



「……記憶が……無い」


「!?」


頭を抱えて小さく左右に首を振る。吐き気に似た感覚が押し寄せ、ミルフィーユは思わず呻いた。

酷い頭痛。目眩。


「ぐっ……」

「……」


柔らかな大地へと手をつき、口元を押さえる。自分が今まで何をしていた思い出そうとすればするほど、不快感は強くなりミルフィーユはうっすらと額に汗を滲ませた。まるで、自分の記憶を思い出すことを身体が拒否するかのようだ。


何も思い出せない。

そう、ミルフィーユという自分の名前以外……。


「……なぜ?」



――記憶が、ないの?



細い木の枝が、ミルフィーユの目の前で大地へとそう文字を綴った。はっとしてミルフィーユは顔を上げる。そこには先程となんら変わらぬ無表情の彼女の姿。じっとこちらを見つめる彼女の細い指先には、先程大地へと文字を綴った木の枝が握られている。


「君……」


不思議そうな面持ちで彼女を見つめると、再びミルフィーユの目の前で彼女は木の枝を動かし始めた。


――何も覚えてないの?


「……」


彼女の問い掛けに、ミルフィーユはとりあえず頷いた。

それを見た彼女はやはり表情を変える事なく、虚ろな瞳をミルフィーユに向けた。

「……君、喋れないのか?」

「……」

彼女は頷くことなく、唯真っ直ぐにミルフィーユを見つめた。それを肯定ととったミルフィーユは「そうか」と小さく呟く。

何だか複雑な気分になり、ミルフィーユは溜息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ