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第29話 世界は『レオナント』のことを知った

 ーカルガンディア王城・王の間ー


「こ、国王陛下!」

「どうしたのかね。そんなに息を切らして」


 国王の間に、汗をたらたらと流した王城の護衛兵が駆け込んで来た。国王の前に立て膝をつき、身を屈めた。


「大変申し訳にくいのですが……」

「用件があるなら早く言いたまえ」

「……先ほどレオナントを殲滅に向かっていた軍が帰還致しました」

「そうか! アゲハ達には褒美をやらんといけんな」

「いえ、それが……」

「……なんだね」

「……アゲハ様とヒナ様が、タイガ様に抱えられて帰ってこられたのです」

「なっ……!?」

「帰ったぞ」


 その時、王の間の入口に大牙たいがが現れた。鳳蝶あげは姫奈ひなの姿は無い。


「……何があったと言うのかね」

「何もねーよ。鳳蝶あげはさんが負けた、それだけだ」

「ア、アゲハが負けた……?」


 国王は口をぽかんと開け、顎が外れてしまったかのような間抜けな顔で呆然としている。


「な、何かの間違いであろう」

「間違いでもねぇし、冗談でもねぇよ」

「タ、タイガよ……。お主、自分が何を言っているのか分かっているのかね……?」

「あたりめぇだろ。俺だって信じられなかったが、俺が様子を見に行った時にはもう、鳳蝶あげはさんはボロボロになって倒れていた。姫奈ひなも力が抜けたようにへたり込んでたから、2人を抱えて帰ってきたんだ」


 ついに国王は立ち上がり、大牙たいがの元へドタバタと駆け寄った。


 そして涙ながらに大牙たいがすがって言った。


「う、うそじゃ……。わしをからかっているならやめてくれ……!」

「嘘じゃねぇ」


 大牙たいがは冷たい目線で国王を見下ろしている。


「じゃあな。鳳蝶あげはさんと姫奈ひなは下の治療室で寝かせてある」


 そう言って大牙たいがは、王の間を後にした。



 ーーカルガンディアの敗北。



 国王は項垂うなだれて膝をついた。


 近衛兵達も、信じられないといった表情でざわついている。



 だがその中でただ1人、ニヤッと白い歯を見せた者がいた。



 *



 ーホルスマキナ・城下町ー


「聞いたかい、カルガンディアが負けたらしいよ」


 サラサラの金髪をふわっと風になびかせ、小柄な少年が話し出した。黒い目はくりっと真ん丸で、一見女の子のような可愛らしい美少年だ。


「せやなー、ちょっとびっくりしてもーたわ」


 それに答えるのは、つり上がった目をしている少女だ。オレンジ色のショートヘアをぽりぽりと掻きながら、右手には露店で買った串焼きを持っている。


「そうだね、相手はレオナントとかいう聞いたこともない国だった」

「どーせグーゼンやろ〜」

「……どうかな。つよしはどう思う?」


 2人の後ろを歩いている大柄タンクトップの男が、腕をムキっと見せびらかせて答える。


「相手が誰であろうと、鍛え上げた肉体の前には無力!」

「つ、つよしくんに聞くのは人選ミスな気が……」


 か細い声で言ったのは、黒紫色の髪を目にかかるくらいまで伸ばしたメガネの少女だ。杖を両手で持って、トコトコと歩いている。


「ははは、そうかもね。胡桃くるみはどう思う?」

「へっ……!? わ、私は……もっと頑張らなくちゃ……とかかなぁ」

「確かに、僕たちものんびりしている訳にはいかない。もしかすると、レオナントとか言う国に僕たちよりも強い戦士がいるかも知れないからね」

「なんや宇宙そら、冗談きついでー!」

「冗談なんか言ってないさ。カルガンディアにはレベル7の勇者がいるんだ。あの鳳蝶あげはと言う少女の強さは本物だった。それを打ち破ったとなると、十分にあり得る話だ」

「ふーん、そんなもんやろかー」

「でも妙だね……。" カルガンディアが負けた " というのは耳にするけれど、傘下についたとか国土が縮小したなんて話は全く聞かない」

「ほなカルガンディアが負けたってこと自体、嘘なんちゃう?」


 その時、宇宙そらの腰辺りにトンッと誰かがぶつかった。


「ご、ごめんなさい!」


 下を見ると、頭の上に毛の生えた耳を持っている少年が転んでいた。


 ーー獣人の少年だ。


 頭にタオルを巻いており、ズボンは泥だらけになっている。

 軍備品を整備したり運んだりしていたところなのだろう。


 と次の瞬間、


 ドンッという音がして、獣人の少年が蹴り飛ばされる。


 ーー宇宙そらが足を振り切っていた。


「げほっ……!」

「ちっ、どこ見て歩いてるんだい? 汚いなぁもう」


 そして宇宙そらは、その男の子に顔をぐっと近づけて、冷たい声で言った。


「僕を誰だと思ってる。二度と視界に入るんじゃない」

「ひっ……! ごめんなさい……」


 獣人の少年は恐怖に塗れた表情を浮かべ、腹部を押さえながらヨロヨロと立ち去って行った。


「ほんま気味悪いなぁ、獣人てのは」

「王城に帰ったら、獣人を街中に歩かせるなとでも言っておこうかな」

「それがいい! ガッハッハ!」

「うん……」


 胡桃くるみは1人、浮かない顔をしてその少年の後ろ姿を見ていたのだった。



 *



 ーエルフの国・ファルファラー


「カルガンディアが落ちたと」


 いかにも優等生という身なりの少年が、メガネをクイっと動かして言う。


「いや、戦に負けただけだと聞いたが?」


 黒い長髪を後ろで束ねた、物静かそうな少年が答える。


 金髪のボブヘアーに水色のリボンを付けた、洋風の顔立ちをした少女が立ち上がって言う。


「大国と言えども、所詮はパワーだけのザコだったってことですネ!」

「……私達も動き始めねばなりませんね。どこか、世界の情勢が変わり始める。そんな気がします」


 青色の髪をすらっと腰まで伸ばした少女は、目を瞑りながら思考にふけっている様子だ。


 彼女は誰にも聞こえないような小さな声で、呟いた。


しずく……」



 *



 ーシュバルツリーテ・謁見の間ー


「カルガンディアが小国に負けた……?」

「先程視察に行っていた者から伝達が入ってのう。その小国はレオナントと言う国らしいのじゃ」

「まぁ偶然でしょう」

「わしもそう考えておる。カルガンディアは大国と言えど、所詮は数が多いだけの軍じゃ。レオナントとか言う小国にも強い奴がおった、あるいは策士がいて上手く行っただけじゃろう」

「どっちにしろ、美桜みおちゃん達には何の問題もないねー!」

「つーか、最近敵弱すぎじゃねー」

「普通に戦えてるって感じ?」


 カルガンディアとレオナントの戦いの結果は、シュバルツリーテにも伝わっていた。


 しかしカルガンディアは元々大軍で押し勝って来た国であり、 “ 勇者 “ の召喚によって力を蓄えたものの、猛者が多い訳では無いと知られている大国でもあった。


 そのためシュバルツリーテは、この “ レオナント “ という小国のことを気に留めるには至らなかったのだ。


「それよりリント。先の戦いも見事であった」

「ええ。僕たちに刃向かう者達は、全員この手で従わせて見せます」

「これは頼もしいのう! フォッフォッフォ!」


 現にシュバルツリーテは、遷宮寺をはじめとした勇者の活躍により、大躍進を遂げていた。今や大陸の中で3本の指に入る強国として知られている。


「で、でも凛斗りんとくん! あんまり無意味に傷つけるようなことは……」

「無意味じゃないさ。戦争で敵を滅ぼし、栄光を手にする。それこそが僕たちに与えられた使命なんだ。今では僕たちもかなりの力を手に入れた。力でねじ伏せることが必要な時もある。正義のためだ」


 天宮さんの言葉に、遷宮寺が答える。


「わかるよね? 雪音、これからも僕たちを支えてくれ」

「……うん」



 レオナントの大金星に揺れる各国。


 しかし、この時の彼ら、彼女らはまだ知らない。

『あの時、事の重大さに気づくべきだった』と後悔する日は、そう遠くなかった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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(厳しい言葉でも構いませんので、感想も是非……!)

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