第28話 レンは『寝室』で目覚めた
数センチ先に映る蒼い瞳。
頬にさわっと触れている銀色の長髪。
「うおっ……!?」
俺は驚いて、ベッドから転げ落ちた。
「いっつ……」
身体の節々が軋む。頭がズキズキと痛み、軽い目眩に襲われる。
頭を押さえて下を向いていると、床に影が映った。
「へ……?」
何かと思って上を見上げると、シズクが空中に浮いていた。
銀色の髪が俺の頬を掠め、白い腕が視界を通り過ぎる。
ふわっといい匂いが全身を包み込んだ。
ーーシズクが俺に抱きついたのだ。
「レン、よかった」
「……!? あ、ああ……」
そうか、気を失っていたのか。
鳳蝶との戦いの末、神器の負荷に耐えきれなくなってしまった。
その後すぐに記憶が途切れている。
「……俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「3日」
「み、3日も……!?」
あの疲れからしてしばらく再起不能だと思ってはいたが、まさか3日も寝たきりだったとは。
それにしても……
「……近くないか?」
「近くない」
「いや、近いだろ」
「全然」
シズクは俺の頬に両手を当てながら、なぜか鼻先が触れるくらいの距離で話している。
「ちょっとだけ離れてくれないか」
「それは無理」
「……なんでだ」
「なんでも」
蒼い瞳は真っ直ぐに俺の顔に向けられている。
まるで俺の存在を確認するかのように、まじまじとこちらを見てくる。
ーーシズクなりに、かなり心配していたのだろうか。
確かに3日も起きなければ、不安にもなるだろう。
「……心配かけたな」
俺は右手を持ち上げ、シズクの頭の上にぽんっと置いた。
「うん」
シズクは一見、いつも通りの無表情を浮かべている。
ーーだが俺にはわかる。これは喜んでいるな。
「ちょっとシズク、レンはまだ起きたばっかりなんだから、その辺にしときなさいよ」
アンナの声が聞こえる。
シズクが俺の胸元を離れると、後ろにアンナが立っていた。
「それにしても、目が覚めてよかったわ」
「ああ。そういえば、あの後どうなったんだ?」
あの時すでに、カルガンディア軍の大部分を無力化出来ていたようだった。鳳蝶と縦ロールの女も倒れていたから、戦力の大部分は削れていたように思う。
しかしまだ強敵が残っていたという可能性もある。アンナは無事らしいので、戦いが長引いたとは考えにくいが、その後の戦場がどうなったのかは気になるところだ。
「その辺も含めて、ダグラスに話してもらった方がいいわね」
その時、ガラッと部屋の扉が開き、ダグラスとカティアが入ってきた。
「レ、レンさん! お目覚めになったんですね!」
「よかったです! 死んだように起きる様子が無かったので……!」
見た感じ、ダグラスとカティアも大した怪我は無いようだ。
「お身体は大丈夫なのですか……?」
「ああ、この通り全回復だ」
俺はすくっと立ち上がり、ダグラスと向き合う。
「そうですか! ご無事で何よりです」
「あの後の話を聞かせてくれないか?」
ぐうぅ……
「おっとすまない、さすがに腹が減ったな」
「それでは、食堂にお越しください。お話はそこで致しましょう」
「助かるよ」
そう言って俺は寝室を後にし、食堂へと向かうのだった。
*
「なるほどな」
俺は出されたステーキや野菜のスープを食べながら、ダグラスの話に耳を傾けていた。
ちなみに王宮で出てくる料理は、決して豪華絢爛とまではいかない。シュバルツリーテでの食事に比べると、どちらかといえば庶民の食事に近い雰囲気だ。
しかし量もちょうど良いし、なぜか口に馴染むような味付けになっている。きっとシェフの腕がいいんだろう。
ダグラスの話をまとめるとこうだ。
あの後、黒髪オールバックのおそらく " 勇者 " と見られる男が来たのだが、男は鳳蝶と縦ロールの女を抱えて帰って行ったらしい。
鳳蝶が倒れているのを見て露骨に驚いていたようだったが、『鳳蝶さんが最優先だ』とかなんとか言って、交戦意思は無かったみたいだ。
それとカルガンディアの兵を1000人程捕らえてあるので、そいつらに対する処遇を決めて欲しいとのことだ。
「ごちそうさま。ありがとう」
「お口に合ってようございました」
後ろからスッと執事がやってきて、瞬時に食器を片付けていった。
「そういえば、この料理はあんたが作っているのか?」
「そうでございます」
「……すごいな」
「恐縮です」
執事はペコっと頭を下げると、早足にその場を後にした。
「まあなんだ、とにかく全員無事でよかったな」
「ええ。本当に奇跡です」
「それにしてもレンと鳳蝶とかいう勇者の戦いはすごかったわよね」
「はい。正直、目で追うことすら出来ませんでした」
「私はちゃんと見てた」
実のところ、俺も一瞬一瞬に集中していたから、あまり覚えていない。
確かに鳳蝶は異次元に強かったし、それに応戦出来た自分が信じられないくらいだ。
「レン、強くなってた」
「ああ」
戦いの中で感じた、自分自身の成長。
あれは戦闘技術の上昇とか場慣れとか、そういう類のものでは無かった。
単に、俺の基礎能力が向上していったのだ。
ーーもしかすると、これも【怠惰の使徒】の効果なのか?
これまで長期戦を経験したことはあまり無かった。特にあれだけの時間、戦闘に集中したことは初めてだった。
だからこれまで気付いていなかったのかも知れない。
おそらくだが、攻撃を仕掛けたり攻撃を受けたりを繰り返すことで、さらに能力値が上がっていくのだろう。
「今はまだ確かなことは言えないが、スキルの効果だろうな」
「レン、よく頑張った」
「シズクもな」
「……そう言えばお二方とも、以前にも増して強くなっておられましたが」
「レベルが6に上がったんだ」
「そ、そうでしたか……! ではあのカルガンディアの勇者もレベル6だったということですか?」
「いや、鳳蝶は多分レベル7だ。俺の体力はすでに残りわずかだった。加えて詠唱魔法を使って更に能力値を上乗せした状態でも、互角の戦いだったからな」
「なるほど……」
いつものことだが、使い勝手が悪すぎる。
最大の力を出すのに極限までダメージを負う必要があるなんて、諸刃の剣もいいとこだ。しかも神器とかいうのを使う度に動けなくなっていたら、本当に身体が持たない。
あの炎だけが唯一の救いだな。痛みや苦しみも掻き消してくれればもっといいんだがな。
「話は少し変わりますが、カルガンディアの兵たちはいかが致しますか?」
「あー、なんでもいいだろ。適当にその辺に逃しとけよ」
「……レンさんらしいですね。分かりました。一応武器の類は押収しておきます」
その後『失礼します』と一礼し、ダグラスとカティアは食堂から去って行った。
ちなみにこの時逃したカルガンディアの兵たちが、命を助けてくれたことに感銘を受け、レオナントの騎士団に志願してくるのは、また後の話だ。
お読み頂き、ありがとうございます。
広告の下の☆☆☆☆☆から評価を頂けると、大変喜びます。
(土日に上げられず申し訳ありませんした!)




