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第27話 レンと鳳蝶は『命』をかけて戦った

 鳳蝶あげはからすると、予想だにしない展開だった。




 ーー刺激的な日常。



 名家に生まれ、外回りを繰り返す日々。面白くも無い大人たちの話を延々と聞かされ、いい子ちゃんぶって振舞う。



 そんな " 前の世界 " での退屈な日常を抜け出して、" 勇者 " として召喚された時には心が躍った。



 全く知らない世界での新しい生活、勇者として期待されているという適度なプレッシャー、そして戦いの中で得られた生の実感。


 この世界に来てからの日常は、刺激を求めていた鳳蝶あげはにとって、本当に楽しいものだった。



 だがそれも、徐々に物足りなくなっていった。



 どんどん強くなりゆく自分に、ついて来ることが出来た者はいなかった。ダンジョンに行っても、戦場に赴いても、対等に " 生死を争う " ような敵はいなくなってしまった。


 ただ圧倒的な力を振りかざし、敵を蹂躙する。


 刺激は無くなってしまったが、それはそれで悪く無いと思い始めていた。いや、刺激を求めるのを諦めてしまったのかも知れない。



 ーーしかし、この男から受けた腹部への " 痛み " に、忘れていたあの頃の感覚が呼び覚まされた。



 強敵と戦う楽しさ。

 死と隣り合わせの状況に瀕して、初めて得た『生きている』という確かな感触。


 それこそが、自分が本当に求めていたものだと思い出したのだ。



 ーーああ、こんなにたのしいことはない。



 心の奥底から湧き上がる感情に、思わず頬が緩む。平静を保とうとしても、何かに引っ張られるかのように、自然と口角が上がってしまう。



 目の前の男は、自分と対等に渡り合える存在かも知れない。

 もう一度、あの頃の " 快感 " とも呼べるような喜びを、味わわせてくれるかも知れない。



 そう思っただけで、体のうずきが止まらない。



「ふふふっ……あははははは!!!」

「……狂ってやがる」



 ……快楽殺人でもしでかしそうな奴だ。

 こんな狂人の相手をしていたんじゃ、心も身体も持ちそうに無い。



「一瞬でカタをつけてやる」

「そんな寂しいことをおっしゃらないでおくんなし。うちは今、最高に……」



たのしいでありんすよ」



 鳳蝶あげはが再び扇を広げ、ひらひらと動かす。今度は赤い魔力が鳳蝶あげはの周りに出現し、舞に合わせて大きくなっていく。


 そしてスッと身体に集まった時、言った。



「【獅子舞ししまい】」



 その瞬間、鳳蝶あげはを中心として強烈な赤い光が広がった。あまりの眩しさに目を瞑る。


 レンがゆっくりと目を開けると、そこには赤い魔力を全身に纏った、鳳蝶あげはの姿があった。



「あなた様も、本気を見せて下さるでありんすよね?」

「……見せ物じゃねえよ」



 だが鳳蝶こいつの魔力。圧倒的な威圧感。

 出し惜しみをして勝てる相手では無い。


「……来い」


 レンの言葉に伴って、突如上空に暗雲が立ち込める。

 黒い雲は次第に渦巻き始め、巨大な台風のように回る。


「……想像以上でありんす……ふふっ」



「【美悪魔の夜刀(ペオルス・マグナ)】」



 ……ズドンッッ!!



 台風の目から1本の黒い大剣が降り落ちて、レンの目の前に突き刺さった。

 漆黒の刀身は、レンの姿を反射するほどに美しく輝いている。


 レンが白い柄を掴むと、大剣は紫色の光を帯びる。


 大剣を抜いて右肩に乗せ、鳳蝶あげはの方へと向き直った。



「……いくぞ」

「ふふふっ……」



 2人は同時に地面を蹴り、一瞬にして距離が詰まる。



 ガキィィンッッ!!!



 直後、レンが振り下ろした大剣を、鳳蝶あげはが扇を交差させて受けた。


 ギリギリと刃が擦れ、2人の力が拮抗している。



「おらぁっ!」

「くっ……!」



 力任せになぎ払う。

 しかし鳳蝶あげはは空中で体勢を整え、着地と同時に地面を蹴った。



 ギィィンッッ!!!



 黒剣と扇が再び衝突する。


 今度はレンの攻撃の軌道をわずかに逸らし、回転して扇を鋭く振ってきた。


「ふふっ……!」


 即座に大剣を立て、刀身で扇を受ける。

 立てた大剣を軸にして、身体を浮かせて横から蹴りを入れる。


「このっ……!」


 鳳蝶あげはは即座に反応し、しっかりと蹴りを受け止めて、少し後方に距離をとった。



「ああ……なんという愉悦ゆえつ……!」

「……お前、どうかしてるだろ。……!?」



 地面に吸い寄せられるかのような、強い重力が身体を襲う。地面に伏しそうになりながら、剣を立てて何とか踏みとどまる。



「もっとぉ……もっとぉ! ふふふっ! あははっ!」

「くそがっ……!」



 重い身体を突き動かし、鳳蝶あげはの猛攻に応じる。

 大剣を振り、攻撃を受け、また攻撃を受けられ、一進一退の攻防を繰り返す。



 ーーもっと速く。もっと強く。



「まるで動きが見えない……」

「次元が……違う……」

「レン……」


 ダグラスやカティア、アンナでも目で追えないほどの戦い。

 レオナントの皆は固唾を飲んで、ただ見守っている。


鳳蝶あげは……さん……」


 ヒナには見えているようだ。

 久しぶりに見る鳳蝶あげはの楽しそうな姿に、ヒナは目を奪われていた。


「レン……すごい……」


 シズクも蒼い瞳を輝かせ、レンの雄姿をじっと見つめている。


 ……そしてシズクは、1つの "違和感 " を覚えるに至った。


「……速く……なってる……?」



『はぁ……はぁ……』



 両者、肩を上下させながら向き合う。


「まさか、まだこれだけの力を持っていらっしゃるとは……ふふっ……」

「ああ……俺が一番驚いてるよ」



 当のレンも驚いていた。



 ーーレンは攻防を繰り返すにつれ、キレを増していたのだ。剣を振る速度、攻撃の威力、動きの速さ。その全てが少しずつ上がっていった。



「……次で終わらせてやる」

「愉しい時間は、あっという間でありんすね……」



 お互いの身体から、膨大な魔力が放出される。


 レンの紫色の魔力と、鳳蝶あげはの黄色の魔力が、真正面からぶつかった。

 荒野全体を飲み込んでしまいそうな大きな魔力のぶつかり合いを経て、2人は同時に踏み出した。



 ーー戦場は突然、静寂に包まれる。



 レンと鳳蝶あげはの位置は一瞬で入れ替わり、レンは剣を振り切った体勢で、鳳蝶あげはは扇を前に突き出した体勢で、それぞれ静止していた。



 ーー勝敗が決した。



 誰の目から見ても明らかだった。


 倒れるのはどちらか。


 カルガンディアの兵たちが、レオナントの軍勢が、ヒナが、ダグラスが、アンナが、そしてシズクが、息を止めて注目している。



 ……バタッ



 倒れたのは……レンだった。


 ガコンと地面に落ちた大剣は、さらさらと砂のように消えていく。



鳳蝶あげは……さん……!」

『うおぉぉぉ!!!』


 カルガンディア軍が、歓喜に包まれる。



 ……が、その時。

 うつ伏せに倒れたレンが、ごろんと回転して仰向けになり、言った。



「もう無理だ、さすがに立ってられねえ」

「がはっ……! とんだお人好しで……あ……りん……す……」



 そうして鳳蝶あげはが、力無く倒れたのだった。

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