第26話 レンは『鳳蝶』の笑みを見た
「……本気の……戦い?」
「ああ。命をかけた、戦いだ」
俺は視線の先、鳳蝶という少女を見据える。
腹部を押さえながら膝をついていた彼女だったが、すでにゆっくりと立ち上がろうとしている。
……かなり全力で殴ったんだがな。
視線を動かし、シズクとその横に倒れている金髪縦ロールの少女を目に映す。
この少女も勇者なのだろうか。
俺が見た時には、シズクはこの少女に対して劣勢に戦っているように見えた。だがいつの間にか、2人して地面に伏している。
ーーもしかすると、シズクもレベルが上がって『詠唱魔法』というのを使えるようになったのかも知れないな。この少女はレベル6で、同じくレベル6になったシズクに負けた。
と言うことは目の前の鳳蝶は……
ーーレベル7。
先ほどまでの圧倒的な力の差。レベル6でステータスがオールSとなったであろう今でも、渡り合えるか分からない。それだけレベルの差とは大きいものだ。
俺は心の中で、" ステータス " と念じる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レン・アヤノ
レベル:6
体力:10/2000
〈称号〉
【怠惰の大罪】
〈能力値〉
魔力量:S(+C)
攻撃:S(+C)
防御:S(+C)
魔攻:S(+C)
魔防:S(+C)
敏捷:S(+C)
〈魔法〉
不死鳥の炎翼
怠惰の波動
堕熊の目覚め(詠唱)
〈スキル〉
怠惰の使徒 (パッシブ)
罪獣の加護〔不死鳥〕
神器召喚〔美悪魔の夜刀〕
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ん……?」
能力値の部分に "(+C)" という表記が増えている。
それに体力も底を突きかけていた。よくこの残り体力で力が湧き出てくるものだ。重ね重ね “ スキル “ というのは不思議なものだな。
ーー【堕熊の目覚め】……か。
魔法を発動した瞬間に襲った、全身を刺されたような痛み。
恐らくこの詠唱魔法は、体力を極限まで削って能力値を底上げする魔法だ。残り体力が少ないほど能力値が上昇する【怠惰の使徒】ありきの効果というわけか。
しかし能力値に上乗せが加算されているのは初めて見た。【堕熊の目覚め】の付与効果みたいなものだろう。
ーーこれならやれるかもしれない。
俺は軽く身を屈め、足腰に力をいれる。
鳳蝶の姿をしっかりと捉え、地面を思い切り蹴って走り出した。衝撃で地面が抉られ、後方に土煙が舞い上がる。
「……!? 【守護の舞】!」
鳳蝶の舞に合わせて、黄色い魔力が踊り始める。その魔力は鳳蝶が翳した手の前に集結し、膜のような防御壁を形成した。
ガキンッッ!!!
まるで金属がぶつかり合ったかのような大きな音がして、レンの右足と鳳蝶の防御壁が衝突した。
「この……!」
「くっ……!」
レンの右足が弾き返されると共に、鳳蝶の防御壁もパリンと割れる。
互いに少しずつ後退し、体制を整えて向き合う。
先に次の攻撃へと動き出したのは鳳蝶だった。
懐からもう1本の扇子を取り出して、軽快なステップを踏み出す。風に靡くかのように腕を運び、手首を返して滑らかに舞う。
そして扇子をレンの方に突き出して、言った。
「【破魔の舞】」
大地が割れ、岩石が巻き上げられる。轟音と共に、強烈な衝撃波が大気を揺らしてレンへと向かう。
「【不死鳥の炎翼】」
レンは両手を広げ、巨大な紫炎の翼を形成する。10メートルほど伸びた翼を折り畳み、炎翼で全身を覆うように構えた。
「がはっ……!」
それでもなお、全身に響く衝撃波。しかし先程のダメージからすると驚く程に軽減出来ている。身体中に紫炎が燃え、すぐさま回復を行う。
ーーもういい。
そう念じると、炎はシュンと消えた。
この戦い、今のステータスを保ちながらでなくては太刀打ち出来ない。能力値が少しでも落ちた時は、それは敗北ーー即ち『死』を意味するだろう。
バッと翼を開き、炎が晴れる。
対面している少女ーー鳳蝶の姿が見える。
その人形のように整った顔は、レンからすると少し意外な表情を浮かべていた。
怒っているわけでも無ければ、恐怖しているわけでもない。” 驚いている “ というのも少し違う。
ーーぜんまいが回りきってしまった人形のように、ただキョトンとしていたのだ。
大きな黒目全体が見えるくらいに目を見開き、半開きの口はそのまま放置されている。
言うなれば、” 間が抜けた “ というのが1番的を得ているだろうか。
「……これは想定外の事態でありんす」
「まさか小国の名もしれない戦士に、攻撃を受けられるとは思わなかったか?
「ええ」
次いで少女は何故か、イタズラを考え付いた子供のような、無邪気な笑みをこぼした。
「戦いの中で、強くなられたようでありんすね」
「……まぁな」
「まさかうちが止められるとは」
鳳蝶はさらに口角を上げ、ニッと笑って言った。
「喜ばしい限りでありんす」
その瞬間、少女から膨大な魔力が吹き出す。
魔力の放出は大気の流れを作り出し、鳳蝶を中心として軽い竜巻が起きている。
「喜ばしい……?」
「久々に全力で戦えると思うと、胸の高鳴りが収まりんせん……」
鳳蝶はさらにもう一本扇子を取り出し、両手でそれぞれ広げて交差させ、奇妙な程につり上がった口元を隠した。
「はしたない顔をしてしまったでありんすね」
「お前まさか……」
ーー “ 戦闘狂 “ ってやつか。
「もう止められないでありんす。この衝動…」
「受け止めておくんなんし」
そう言って鳳蝶は、両手の扇を器用に操り、舞い始める。放出されていた魔力が収束し、黄色い光となって周る。
そしてパチッと扇を閉じて、言い放った。
「【魔扇の舞】」
言葉と同時に、魔力が一点に集中する。閉じた扇が、黄色く輝いた。
「全力で行くでありんす……!」
その瞬間、鳳蝶が突然目の前まで迫る。
ーー速い。
見失いかけた姿をなんとか捕捉し、左から迫る扇を間一髪でかわす。扇は空を切り、風圧を生み出して地面が削られる。
続いて右側から叩きつけられる扇を、右腕で受ける。
「ぐっ……!」
なんて破壊力だ。じんと骨に響く衝撃。
そのまま勢いに任せて回転し、今度は反撃に蹴りを繰り出す。
鳳蝶は少し後方に飛び、蹴りをかわした。
「ふふっ……」
そしてこちらを見たまま、不気味に微笑んだ。
「楽しいでありんすね……」
「お前だけだ」
ーー全く、勘弁してくれ。この強さで、しかも戦闘狂。面倒にもほどがある。
鳳蝶も異世界から来た勇者らしいから、なんとか説得することも考えていたが……。
「ふふっ……」
却下だ。
負けを認めさせるしかない。
お読み頂き、ありがとうございます。
広告の下の☆☆☆☆☆から評価を頂けると、大変喜びます。
(厳しい言葉でもいいので、感想も是非……!)




