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第25話 レンは『走馬灯』を見た

 ーー全てがスローモーションに見える。


 光の矢の雨を受け、衝撃波の直撃を食らい、まだ意識があるのが不思議なくらいだ。



 この世界に来てからの景色が、順々に頭の中を駆け巡る。



 ーー走馬灯か。前にも似たようなことがあったな。



 遷宮寺の怒りを剥き出しにした表情。

 クラスメイトたちの冷たい視線。

 エレーナさんの汚物を見るような目。

 黙り込んだイヴァンナさんの姿。

 国王の憎らしい顔。



 ーーもっといい思い出もあっただろ。



 アンナと初めて出会った時の表情、心を開いて見せた涙。

 フォルニスから眺めた景色。

 別の孤島で出会った村人青年。

 ダグラスが戦場で勇敢に立ち上がる姿、初めて会話を交わした時の不思議そうな目。

 カティアがダスラスと仲睦まじげに会話をする様子。

 やけに身辺の世話をしてくれる王宮の老執事。

 騎士団の連中の笑い声。



 ーー多くの人に出会ったな。



 初めて出会った黒熊の魔物。

 アンナが来てすぐに戦った狼の魔物。

 丘が丸ごと背中だった巨大な亀の魔物。

 光線を放ってきた大きな鯨の海獣。



 ーー確かに魔物との戦いも数えきれないが、" 大事なもの " が抜けてるぞ。



 雨に濡れながらじっとこちらを見つめる銀髪の少女。



 ーーそう、それだ。



 魔物の肉を食べる時の膨れた頬。



 ーー大体、食べ過ぎなんだよ。どうやって消化してるんだ。



 戦闘時に見せる覚悟の眼差し。



 ーーあいつは心も強いからな。俺も尊敬している。



 時折見せる怒ってるっぽい表情。



 ーーもうちょっと表情筋を使った方がいいと思うんだがな。



 魔物を焼き尽くしてしまった時のシュンとした様子。



 ーーあれは申し訳ないと思ってるんだよな、わかりにくいが。



 菓子を食べている時の嬉しそうな姿。



 ーー美味しい物を口にした時は、いつもよりほんのちょっとだけ感情がわかりやすい。



 覗き込んでくる蒼い瞳。



 ーーちょっと考え事をしていると、すぐ心配そうにこちらを見てくるんだ。



 朝日を見つめる綺麗な横顔。



 ーー写真にでも収めておきたいくらいだ。うかうかしていると目が離せなくなる。



 シズクの姿が、次々と目の前に現れる。

 いつも隣にいてくれた少女の存在は、いつしかレンにとってかけがえのないものとなっていた。



 その時、ふらっと自分の体が傾くのを感じる。



 ーー倒れてたまるか。



 必死に足を動かそうとするが、全く前に出ない。



 ーー動け!



 どれだけ念じようと、足は神経が切れてしまったかのように微動だにせず、自分の体では無いという錯覚さえ覚える。


 なんとかまぶたを持ち上げると、ぼやけて二重にも三重にも見える世界の中、倒れているシズクの姿が映る。



 ーーここで倒れたらどうなるだろうか。



 ふとそんなことが脳裏をよぎる。

 カルガンディアの勇者とやらは、おそらくレオナントを皆殺しにするだろう。もちろんアンナやシズクも含めてだ。



 ーーバカ言うな。それなら……



 “ 死んでも倒れるわけにはいかねえ “



 辛うじて右足が動き、倒れゆく体を支えた。


「……ンさん……!」

「レ……もう……て……!」


 ……遠くから声が聞こえる。ダグラスとアンナの声だ。

 心配しているのか? 俺はどんな風に見えているのだろうか。やはりボロボロのズタズタなんだろうな。



 視線を前に移すと、右手に黄色い剣を携えた黒髪少女が向かって来ていた。確か鳳蝶あげはとか言う名前だったか。勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


 そしてその剣は無慈悲に迫り、



 ザシュッッ!



 俺の胸元を突き刺した。



 叫ぶ気力すら残ってはいない。

 鋭い痛みが一瞬で全身を支配し、次いで耐えがたい熱さが襲い来る。



 ーー熱い、熱い。



 尋常ではない熱の源へと目を向ける。もちろん炎の熱さではない。


 実体を持った剣は正確に俺の心臓を貫き、赤い血がとうとうと流れゆく。ポタポタと地面に降り落ち、じわっと染み込んでいる。



 ーー俺の……血……?



 血を流すことなどいつぶりだろうか。

 炎による回復スキルの効果で、この世界に来てから血を流したことなどほとんどなかった。


 ……つまり、全神経を集中させても回復が追いつかないほどの傷だと言うことだ。



 ーーまずいな。



 激しい痛みや猛烈な熱さすらも次第に遠くなりゆき、体が置いてけぼりにされるような感覚が訪れる。



 意識が飛ぶ……いや。



 これは『死』だ。



 ーーそういやあの時もこんな風に死を悟ったな。そしてその時……



 ピロンッ



 ーーそうだ、こんな感じのポップなシステム音がして……って、え……?



 レンの目の前に、見覚えのある画面が浮き上がった。



『レベルが6に上昇しました』


『詠唱魔法【堕熊の目覚め(フェイタル・ゾーン)】の解放条件が満たされました』



 ーー詠唱……魔法……?



 とその時、意識がすっと身体に引き戻された。



 同時に訪れる、とてつもない痛みとの再会。胸部をそのままくり抜いて、今すぐキンキンに冷やしたいような熱さ。



 ……しかし地獄のような苦しみの中、一筋の光を見出す。



 ピントがバッチリと定まって澄み渡る視界。確かな感触と共に大地を踏みしめる両足。抑えきれないほどに溢れ出す力。そして、湧き上がる闘志。



 辺りを見渡し、この灰色の戦場で蒼く輝く瞳と目が合う。



 ーー安心しろ。



 そう言わんばかりに、シズクに向けてニヤッと笑ってみせる。



 ーーまた死にかけたな。命は1個しか無いっての。



 ピクリと右手が動く。



 ーー全く、正確に心臓を貫いてくれやがって。心の底から殺す気じゃねえか。



 ゆっくりと右腕を持ち上げる。



 ーー何が ” 勇者 “ だ、下らない。異世界に召喚されて、大きな力を得て、人間を殺して、それで英雄気取りか?



 そして、胸に突き刺さった剣をがっちりと掴んだ。



「……本当にくだらねぇ」

「えっ……!?」


 鳳蝶あげはとかいう少女の顔が、余裕の表情から一転、驚きで塗り替えられている。



『詠唱文は以下です』



 再び表示が目の前に現れ、続けて金色の文字が綴られていく。


 その文字を、そのまま口に出して読んでみる。



「 " 我が背負う大罪の名は【怠惰】 " 」



「な、なにが起きているでありんすか……?」


 足元に大きな魔法陣が描かれ始めた。



「 " 欲望を解き放ち、神の断罪を受け入れん " 」



 詠唱が完了し、同時に魔法陣も完成する。


 何が起こるのか、俺にもさっぱり見当がつかない。だが、何かしら起こることは間違いない。


 そう確信し、最後に表示された魔法の名前を低い声で呟いた。



「【堕熊の目覚め(フェイタル・ゾーン)】」



 魔法陣が紫色の強烈な光を放ち、そして、消滅した。



「うがああぁぁぁぁっっっっ!!!」



 その直後、戦場にこだまする断末魔のような叫び声。



 ーー他でも無い、レンの声だ。



 四方八方から剣で突かれたような痛烈な痛みが全身に走る。


「ふふっ……自滅でありんすか?」


 確かに端から見れば、魔力が暴走して自滅したかのように見える光景だ。



 これは半分正しくて、半分間違っている。



 ドンッッ!!



 突然、衝撃音が響いた。

 そして、鳳蝶あげはが後方に飛ばされる。



 一回転してなんとか着地するも、威力を殺しきれず、ぽっくり下駄が地面を削って後退した。


「くっ……けほっ! けほっ!」


 鳳蝶あげはが腹部を押さえながら、苦しげな声を漏らす。



 ーーレンが拳を突き出して静止している。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をしながらスッと立ち直り、胸に刺さった剣を抜く。


 抜かれた剣は投げ捨てられ、カランッという音を立てて地面に転がった。そして魔力の刃がパラパラと崩れ落ち、ただの扇子に戻ってしまった。


「い、一体何がどうなって……」

「まああれだ、こっからが本気の戦いってとこだな」

お読み頂き、ありがとうございます。

広告の下の☆☆☆☆☆から評価を頂けると、大変喜びます。

(厳しい言葉でもいいので感想クレメンスゥ……!)

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