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第24話 レンは『勇者の猛攻』を受けた

「ぐっ……」

「レオナントの最大戦力はあなた様でありんすね」


 地面に叩きつけられたレンは、炎と共に体力を回復している。


 ーー目の前に立っている女。


 右手を口元にかざしてこちらを見下ろす大きな瞳は、吸い込まれそうなほどの綺麗な黒色だ。黒髪を後ろでまとめ、金色と銀色のかんざしで留めている。深緑の生地に赤と黄色の装飾がなされた着物のような身なりも相まって、花魁というのか踊り子というのか、どこか華やかで、かつ落ち着いている優美な雰囲気だ。


 しかしそんな外見とは裏腹に、想像を絶する破壊力。最大速度で回復しているが、今だに追いついていない。背中にじんと響き続ける鋭い痛みが、レンを地面に釘付けにしている。


「お前……は……」

「先に自己紹介をしておきましょう。うちは椿つばき 鳳蝶あげは。カルガンディアに召喚された勇者でありんす」

「勇……者……」

「あなた様もそうでありんしょ?」


 なんで俺が勇者だとわかるんだ? 確かに最初こそ制服を着ていたが、シュバルツリーテに召喚された夜、この世界に合わせた服に着替えた。スラっとした黒のズボンに、白いシャツをまくっているという何の変哲もないスタイルだ。スニーカーも、先がピンと尖った焦げ茶色のブーツに履き替えた。


「なぜ……?」

「髪の色でありんす」


 髪の色……? そういえば、この世界で黒髪というのはかなり珍しい。アンナやレオナントの人間を含め、皆結構カラフルな髪色をしている。


「痛っ……」


 起きあがろうとすると、腰の上あたりに激痛が走る。


「おや? 軽く蹴り落としただけでありんすよ」

「……!?」


 その瞬間、鳳蝶あげはの姿が消え、直後にドンッという鈍痛が響く。ぽっくり下駄が腹部を強打し、筋肉にめり込んでそのまま蹴り飛ばした。


「かはっ……!」


 信じられない激痛に、認識が追いつかない。


 やっと状況を理解した時、周りの景色が目にも止まらぬ速さで前方に移動していく。地面スレスレを高速で飛んでいた。


 サッと銀髪の男の姿が通り過ぎる。


「……え? レンさん……!?」


 レンはカルガンディア軍とレオナント軍が戦いを繰り広げていたど真ん中を、一瞬で横切って行った。


 ダグラスが後ろを振り返った時には、大きな衝突音と共に、レオナント軍の後ろにある山で大きな土煙が上がっていた。



 ーーレオナントの国境沿いには大きな山が複数あり、入りくんだ地形をしている。この荒野は山で囲まれた場所にあり、大軍がレオナントを攻めようとするとここくらいしか進撃可能な場所がない。迎え撃つにはもってこいの場所というわけだ。これまで防衛戦が成功して来た一因でもある。


 しかしながら、こちらは撤退することが出来ない場所でもある。レンが飛んで行った山を超えると王都が見えてくる。ここが破られると後がないのだ。



「レ、レン……!」


 アンナが驚いて後ろを見ていると、前方でトンッと言う着地音が聞こえる。


姫奈ひな、何を寝ているのでありんすか?」

「あ……鳳蝶あげは……さん……」


 鳳蝶あげはがカツカツと下駄を鳴らして歩いて来ている。倒れている姫奈ひなを見つめ、次いで横に倒れている少女に目を移す。


 ーー綺麗な銀髪ロングの少女。髪の合間から尖った耳が垣間見えている。目を瞑っていてもわかる、本の中から出て来たような整った顔。白のカッターシャツと紺色のロングスカートからは、色白の手足が伸びている。明らかに制服のままだ。


「……勇者でありんすか。姫奈ひなを倒したと」

「わ……わたくしは……まだ……」

「大人しくしておきなんし。すぐに終わらせるでありんす」


 その時、後方の山からドンッと言う音が聞こえる。



「【守護しゅごまい】」



 鳳蝶あげはが懐から扇子を取り出して右手に広げ、日本舞踊のようなステップを踏む。直後、目の前に黄色がかった透明のバリアが形成された。



 ガキンッッッ!!!!



 バリアが形成された瞬間、レンの拳とバリアがぶつかり合う。


 レンが地面を蹴り、高速で向かって来たのだ。


 山から音がしてほんの5秒足らずの出来事だ。誰1人レンの動きを追えなかった中、鳳蝶あげはは余裕の表情をしている。


「まだ戦えるでありんすね」

「くっ……!」


 ーーついにバリアがレンの攻撃を弾き返した。

 それと同時に、鳳蝶あげはが再び軽くステップを踏む。先ほどとはわずかに違うようだ。


 舞に伴い、鳳蝶あげはの周りに無数の弓矢が形成されていった。黄色いオーラで作られた魔力の矢だ。



「【五月雨さみだれまい】」



 言葉に従って、矢が一斉にレンの元へと降り注ぐ。

 魔力の矢は次から次へと貫通し、レンは声にもならない悲鳴を上げる。



 ーー攻撃が終わり、訪れる静寂。



「あ……あ……」


 メラメラと紫炎を燃やしながら、今にも倒れそうな状態で、レンがふらっと立っていた。シャツはボロボロに切り裂かれ、上を向いて魂が抜けたようにゆらゆらとしている。



 その様子を見て、立て続けに鳳蝶あげはが舞う。

 今度は右手の扇を閉じて、先をレンの方に向け、言い放った。



「【破魔はままい】」



 その瞬間、扇の先から強烈な衝撃波が生まれる。


 衝撃波はレンの身体を貫き、後方の大地をごそっとえぐった。


「……」


 気を失っているのか、レンは声も出さない。


 ふっと全身が傾き、前のめりに地面へと向かう……



 ドンッ!



 とその時、レンの右足が一歩前に踏み出し、すんでのところで踏みとどまった。

 鋭い目を開き、垂れた前髪の向こうから鳳蝶あげはを睨みつける。


「レンさん……!」

「レン! もうやめて……!」


 ボロボロに成り果てたレンを見て、ダグラスとアンナが声を上げる。アンナは瞳に大粒の涙を湛えている。


 すでにカルガンディアの軍を押さえ込んでいるが、この戦いに加勢したところで雀の涙にもならないことは一目瞭然だった。



 一方的すぎる蹂躙を前に、レオナント軍の皆はただ唖然として立ち尽くすことしか出来ない。



「まだ息があると……。凄まじい生命力でありんす」



 鳳蝶あげははそう呟いて扇を広げ、再び舞を始めた。

 両手をしなやかに動かし、足を地に擦って移動させる。徐々に魔力が現れ出す。



「【斬魔ざんままい】」



 鳳蝶あげはがパチンと扇を閉じると、その先に魔力が伸び、黄色く輝く剣が作られた。


「これで終わりにしんす」



 ザシュッ!!



 次の瞬間、レンの元へと肉薄した鳳蝶あげはが、その剣をレンの胸へと突き刺した。



 ーー時が止まったように静まり返る戦場。

 ヒュウッと風が通り過ぎる音さえもしっかりと聞こえるほどの静けさだ。



「レン……!! レ……うっ……」


 少ししてアンナが泣き崩れる。



「レ……ン……」


 シズクがなんとか目を開き、蒼い瞳でレンを見つめる。



 ……だがシズクの瞳に映ったのは、" 死人の顔 " ではなかった。



 ーーその蒼い目に映っていたのは、ゆっくりと目を開けるレンの姿。

 シズクにとってその細い目は、この世の誰よりも生命力を感じさせる力強い目だった。


 そしてレンはシズクと目を合わせ……



 ニヤッと笑った。



「レン……!」


 シズクの目から、一滴の涙がこぼれ落ちる。


 その涙の直後、戦場の誰もが目を疑う事態が起こった。



 ガシッ



「……え?」


 レンの右手が、剣を掴んだのだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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(厳しい言葉でもいいので感想クレメンスゥ……!)

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