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第2話 レンは『異世界』と出会った

「ん……ここは……」


 目が覚めると、そこには見たことのない光景が広がっていた。


 豪華な赤い絨毯に、突き抜けるような高い天井。

 窓の外に見える景色は、さながら中世ヨーロッパのような様相を呈している。


 辺りを見てみると、俺を含めて教室にいた20人ほどの生徒が、同じように目を丸くして周囲を見渡していた。


「くっ……今のはなんなんだ……?」

「んもーっ、美桜ちゃんビックリしちゃった……」

「つーかさっきの魔法陣、あれ何ー?」

「はっ!み、みんないる……良かった……」


 遷宮寺たちも、まとめてここにいるようだ。


 それにしても、一体何が起こったんだ……?


 レンはあの時の状況を、詳しく思い出してみる。


 魔法陣が展開されたと思ったら、そこら中が光に包まれた。咄嗟にドアに手を伸ばしてみたが、なぜかドアは開かなかった。鍵がかかっているとかではなく、そもそも隔離された空間にいるようだったのだ。その証拠に廊下にいた他の生徒たちは、俺たちの教室の異変を感じることもなく、ただ前を通り過ぎていた。


 ……これはもしかして、『異世界召喚』と言うものなのではないだろうか。


 俺はアニメやラノベの類がかなり好きだ。急に異世界に召喚され、活躍するような物語も多く知っている。さすがに現実と空想の分別くらいはわきまえているつもりだが、そうでないと説明がつかない。


 レンの仮説が事実だと判明するまでに、そう時間は要しなかった。


「せ、成功です!」

『おお!』


 周りが騒がしい。顔を上げると、そこにはファンタジーで出てくる魔道士のような、白いローブを身にまとった人間たちが嬉しそうにこちらを見ていた。


「こ、国王さま!」

「うむ。ご苦労だった」


 声の方向に目を向けると、王冠を被って白髭を生やし、金色の豪華な衣装に身を包んだ男が立っている。歳で言うと、60歳手前くらいだろうか。

 この人が『国王』なのだろうか。


「諸君、よくぞ来てくれた。私はこの国『シュバルツリーテ王国』の現国王『アルキメデス・ロイ・シュバルツリーテ』という」


『なんだ……?』

『おい、誰だよ!あのおっさん!』


 皆が事態を受け入れられず混乱している中、遷宮寺が口を開いた。


「国王……?その、俺たちはどうなったんでしょうか?」

「うむ。確かに気が動転するのも無理はない。簡単に言うと、君たちは元いた世界からこの世界に『召喚』されたのだよ」

「召喚……?と言うことは、ここは元の世界とは全く別の世界と言うことですか?」

「ああ、そうだとも」


『おい!まじかよ……』

『早くおうち帰りたいよ……』


 それぞれに不安を口にする。それもそうだろう。


 さっきまで教室にいたかと思えば急に別の世界に召喚されたなんて、すぐに受け入れられる訳がない。想像しようとすら考えないだろう。


「……なぜ俺たちを『召喚』したのですか?」

「ふむ。確かに伝えておく必要があるな。エレーナ!」

「はっ!」


 国王の言葉に応じ、一人の女性が歩み出た。

 国王の服装とは少し違った、正装と思しき格好をしている。元いた世界で言うところのスーツみたいなものか。

 メガネをかけた、いかにも出来る女と言う印象を受ける。


「私は国王秘書の1人、『エレーナ・ヴァルティス』と申します。現在、この世界では⦅第三次世界大戦⦆が勃発しようとしています。そこで各国は別世界から人間を召喚し、国力を蓄えている最中なのです」

「……1つ聞きたいのですが、それならわざわざ異世界から召喚しなくても、国民を育てればよいのでは?」


 遷宮寺が問いかける。もっともな疑問だ。


「ええ。それについてなのですが、皆さん心の中で『ステータス』と念じてみて頂けますか?」


 言われた通りにやってみる。


 ……!?


 なんと目の前に、ゲーム中のステータスのような画面が展開された。


「こ、これは……?」

「はい。この世界のすべての人間が使えるものです。そこに皆さんの現在の能力値や魔法、スキルが掲載されています」

「魔法……!?」


 これには遷宮寺も驚きを隠せないようだ。

 実際、俺もかなり驚いている。本当に異世界に来てしまったようだ。まるでゲームの中みたいだな。


「こ、これがどうかしたのですか?」

「はい。どういうわけか、異世界から召喚された者たちは、能力値が全体的に高い傾向にあるのです。もちろん王国内にも高い能力を持っている者はおりますが、それだけでは数が不足している、と言うのが現状です」

「……なるほど。つまり異世界から人間を召喚すれば、将来性の高い有望な人材を、効率良く集めることが出来る、と言うことですね」

「おっしゃる通りです」

「……では、俺たち以外にも召喚されている人間はいるってことですか?」

「いえ、この国にはおりません。もちろん召喚技術を持っているような他の大国にはいるでしょう。しかし現在の技術では、各国1回が限度だと思われます」

「……わかりました。最後にもう1つ。僕たちが元の世界に帰ることは出来るのでしょうか?」

「……今のところ、帰る手段はありません」

「えっ……!?」


『今、帰れないって言ったよな?』

『嘘だろ……家族に会いてえよ……』


 これには皆、狼狽ている。

 そりゃ俺たちにも、元の世界での暮らしがあったのだ。一方的に連れて来ておいて帰れないと言うのは、都合が良すぎるのではないか?


「このことに関しましては、深くお詫び申し上げます。現在も試行錯誤を続けている段階です。ですが……!うっ……私達も自らの国を守りたいのです。どうかお力を貸して下さい!皆様に対しては、王国を挙げてサポート体制を整えます……!どうか……ううっ……どうか!」


 エレーナさんが涙ながらに訴えている。周りの騎士や王族のような人たちも、同じく涙を湛えていた。


 確かに今は無いかも知れないが、一方通行というのは考えにくい。一応、帰る手段は模索しているらしいから、信じてみるのも良さそうだ。と言うか、それ以外に現状出来ることが無い。


 遷宮寺が立ち上がり、皆に訴える。


「ここは現状を悲嘆するんじゃなく、いつか見つかると期待してこの国に尽力しよう。それが今の俺たちに期待されていることであり、唯一出来ることだと思う。みんな、どうだろう?」


『そ、そうだな……!』

『遷宮寺が言うなら……ついて行くぜ!』

『それしか無いもんね』

『ちょっと楽しそうじゃない!?』


 遷宮寺の言葉に、みんな決意を決めたようだ。


「よーっし!美桜ちゃんも頑張っちゃうぞ〜!」

「つーか、なんか楽しそうじゃんー?」

「っしゃー!俺もまじ頑張んないと!」


 実のところ、元の世界に戻れないならば他にすることがない。まあみんなが戦ってくれるなら、俺は怠惰に異世界生活を満喫することにしよう。


「あ……ありがとうございます……!」


 エレーナさんは、心の底から感謝している様子だ。


 トントン


 俺がその様子をぼーっと見ていると、誰かに肩を突っつかれる。


「……なんだ?」


 天宮さんだった。


「ねえ、蓮くんはどう思う?」

「どうって、何が?」

「私達、この先どうしたら良いんだろう。だって戦争って、多くの人が傷つくってことだよね……」


 天宮さんは、少し悲しげな表情をしている。


「そうかもな」

「私、そんなのに協力するなんて嫌だよ……」

「……それしかすることがない」

「でも……」

「……ほら、能力によっては傷ついた人を治すことも出来るんじゃないか?」

「そっか……。うん、そうだよね!」

「お、おう」


 そう言って天宮さんはすぐに遷宮寺たちのところへ戻っていった。気を使ってくれたのだろうか?


「では皆さん、順番にステータスを見せて頂けますか?」


 確かに、一応現在の能力は確認しておきたいところだろう。


「分かりました。じゃあ俺から行こう」


 先陣を切って出たのは、これまた遷宮寺だった。


「他の人に見せるには、どうすれば良いですか?」

「『ステータス開示』と念じて頂ければ」

「そうか。ステータス開示」


 遷宮寺が口にした途端、先ほど見たような画面が展開される。


「……!なんと!」

「こ……これは……!」


 周りの魔道士達も騒ぎ出している。


「どうなんだ?」


 遷宮寺のステータスは、こんな感じだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 リント・セングウジ

 レベル:1


 〈称号〉

 【光魔剣士(ひかりまけんし)


 〈能力値〉

 魔力量:A

 攻撃:A

 防御:A

 魔攻:A

 魔防:A

 敏捷:A


 〈魔法〉

 光剣(ライトニング・レイ)


 〈スキル〉

 勇者(ゆうしゃ)加護(かご)(パッシブ)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すごい……能力値オールA……。初期値では最大の値です!」

「そうか!」


 話によると、能力値にはSABCDEFの7段階があり、レベルが上がるとFにリセットされるようだ。

 現時点での最高レベルは8で、戦いや鍛錬の中で能力値が上がって行くと、いずれレベルが上がるという仕組みらしい。それだけレベルによる差が大きいとも言える。


「これならすぐにレベルが上がりそうです!今後に期待ですね!」

「ありがとう」


 その後も順番にステータスが開示され、その度にエレーナさんや周りの人たちは、驚いたり嬉しがったりしていた。


 ちなみに今井の『称号』は【炎龍騎士(えんりゅうきし)】、結城は【氷大魔道士(こおりだいまどうし)】、夏原は【魔装武闘家(まそうぶとうか)】だったようだ。どれも戦闘職であり、ステータスもなかなかだった気がする。

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