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第19話 レンは『ダンジョン』に潜った

「むむむ……」


 レンは前方を見つめながら唸っていた。


「あーん」

「……ん、なんだ?」

「レン、難しい顔してた」

「まぁな」

「あーん」


 シズクが口元に差し出してきた白くて丸い物を食べてみる。


「ん……!うまいな」

「美味しい」

「てかどんだけ食べてんだ」


 シズクはさっきからその餅のようなお菓子を1秒に1個くらいのペースで食べ続けている。


「お口に合ってよかったです」

「故郷にも似たような食べ物があってな」

「”元いた世界”ということですか?」

「ああ、その世界では”モチ”っていう名前の菓子だった」

「なるほど……」


 ダグラスとカティアには、俺たちが異世界から来た”勇者”であることを教えておいた。


 2人はそこまで驚かず、『あの強さを目の当たりにした以上、疑いようがありません』とか言って納得した様子だった。

 最近は2人にとって驚くことばかりで、未知の出来事に対する耐性のようなものがついてしまったのかも知れない。


「ところで、レオナントの騎士団をどのように見られますか?」

「……なんというか、気合いだけは十分だな」


 戦いから1週間ほどが経過し動けるまで回復している戦士も多かったので、レンはダグラスに兵士たちの強化を図ろうという話をした。

 そこで今日は王都から最も近いダンジョンに来て、魔物相手に特訓を行っている。王都を留守にするのもなんなので、カティアとアンナには残ってもらった。


 本来、他人を強化するなんて言う面倒なことには気が乗らないのだが、この先の戦いを考えると騎士団の強化は必要不可欠だ。

 それに騎士団の皆は得体の知れない俺たちのことを気前よく迎え入れてくれた。正直この国の連中のことは気に入っているので、レン自らダンジョンに赴くことにしたのだ。


「この程度の魔物に苦戦しているようじゃ先が思いやられるな。確かに連携は取れているが、個々の力が足りない」

「そうですね……。これまで何度か防衛戦を生き抜いて来ましたし、兵士たちも勇敢に戦ってくれています。しかし実際、私とカティアが前線で戦っていたからなんとかなったというのが正直なところです」


 ダグラスとカティアはレベル4に達しているものの、騎士団の中でレベル3以上の者はいないようだ。戦力が偏り過ぎている。


「なるべく1人で戦うように言ってみてくれ」

「分かりました」


 ダグラスから聞いた話によると、カルガンディアは”勇者”の召喚に成功している国の1つであり、レベル6以上の戦士もいるらしい。前回のソアラやガルドを超える化け物がいるということになる。このまま黙っているとも考えにくいので、近いうちにまた仕掛けてくるのは確実だろう。


 それにしてもあの2人がレベル5だと聞いた時には少し驚かされた。俺とシズクもレベルは5だが、そこまで強いとは感じなかったからだ。俺たちはレベル5の中でも強い方なのかも知れない。


「恐らく近いうちに、カルガンディアはもう1度攻めて来ます。次はレベル6以上が出てくるかも知れません。私達も強くならなくては」

「……確かにそうだな」


 もし次の戦いにレベル6以上が出てくるとしたら、その強さは本当に未知だ。少なくとも前回のようには行かないだろう。


「そういえば、ここのダンジョンはどのくらい下まで続いてるんだ?」

「分かりません。私も15階までしか降りたことが無いもので」

「じゃあ行けるとこまで降りてみないか?」

「いいですね、行きましょう」


 現在は5階にいるのだが、ダンジョンは下に行くほど強い魔物が住みついているらしい。俺たちも下に降りて戦うとしよう。


 ダグラスが騎士団の連中にその旨を告げ、俺たちは下に降り始めた。



 *



「はぁ……はぁ……。さすがですね……」

「シズク、今何階だ?」

「25階、たぶん」


 少しずつ魔物も強くなり、ダグラスからすると強敵になっているようだ。しかし正直歯応えはない。普通のダンジョンってのはこんなものなのだろうか。



 ……とその時、視界がぐらつくような地震とともに巨大が物体が地面に衝突する音が響いた。


「なんだ……?」

「あれ」

「なっ……あれは……!」


 少し遠いが、それでもはっきりと見えるシルエット。この大きさには見覚えがある。孤島で見たような10メートル級の大きな魔物が天井から降ってきたようだ。


「……久しぶりに見たな」

「ちょっとは楽しめそう」

「あ、あれは……魔物なのでしょうか……?」

「俺たちの知ってる魔物はどっちかって言うとこっちだな」

「うん」


 普通に戦ってもいいのだが、それでは急成長は見込めない。


 俺たちには俺たちなりのやり方がある。


「シズク、そろそろ満腹か?」

「うん。ステータスは全部Fになってる」

「よし」


 レンの身体を紫の炎が包み、体力を回復させていく。



 ……そう、俺たちは体力や満腹度を全回復させることで能力値が格段に落ちる。これによって一時的に自分の力を落とすことが可能なのだ。つまり自分自身が弱くなることで、強敵と戦っているような状況に追い込むことが出来る。

 減少体力に対する能力値の上がり幅というのは、徐々に上がっていく。最近では体力を7割くらいに留めているだけで、ほとんど全てがAになっていた。しかし全回復状態の今、ステータスを見てみると、能力値は全てFだ。



 その後立て続けに大きな落下音が聞こえ、ダンジョンが崩落するのではないかと思うほどの地響きが起こっている。

 巨大魔物が何匹も出現しているのだろう。


「ダグラス、お前も戦える範囲で戦っておけ」

「……し、しかし1匹でもあの大きさ、数が多過ぎます!」

「こんくらいじゃないと強くはなれねえよ」


 あの孤島でいくつもの死戦を乗り越えてきた。次から次へと強力な魔物に襲われる日々。夜中の戦いだって珍しくなかった。何度も死にかけながら、自らの能力と向き合いながら、必死に強さを求めてきたのだ。


 強くなるには自分を窮地に追い込む必要がある。レンとシズクはそのことを身をもって学んできた。


「……分かりました。やってみます」

「よし、いくぞ」

「うん」


 3人は一斉に、巨大な魔物の群れに向けて走り出す。


「ダグラスはあまり前に出過ぎるな、俺が攻撃を受ける。シズク、頼むぞ」

「うん」


 俺は空中に飛び上がり、魔物達の気を引きつける。


『グガアァァッッ!』


 1匹の魔物が拳を繰り出してきた。


 ーー直後、階層全体にこだまするような衝突音が発生する。全身に衝撃が走りながらも、俺はしっかりとその拳を受け止めていた。


 炎で瞬時に体力を回復させ、今度は魔物の懐に飛び込んで横腹に渾身の蹴りを入れる。

 俺の蹴りは魔物の表皮を歪ませ、そのまま押し飛ばす。


『グオォ……』


 しかし威力が不足しているようだ。魔物はゆっくりと立ち上がった。


「やはりFだと戦闘能力が桁違いに低いな」

「がんばる」


 シズクの元に魔物が向かっている。いつもなら何も心配することはないのだが……。


「【冥獣めいじゅう息吹いぶき】」


 シズクが放った光線が魔物に命中する。もちろん威力は高いが、やはりいつもに比べると格段に弱い。

 その証拠に、光線は魔物の片腕を焼き尽くすに留まっている。


 俺はすかさずシズクの前に立ち塞がり、巨大な魔物の踏みつけを全身で受ける。


「ぐっ……」


 衝撃で足が地面にめり込んだ。片手で止めれるはずの攻撃がこんなに重いとは。

 魔物のパワーに押され、身体中の筋肉が悲鳴を上げている。力が抜けそうな感覚に襲われながらも、俺は必死に声を絞り出す。


「シズクっ……!」

「任せて」


 俺が声を上げた時には、すでにシズクは魔物の頭上に飛び上がっていた。



「【大悪魔の双銃(ゼブル・アサルト)】」



 同時に、シズクの両脇に巨大なライフルが出現した。黒い銃身は大きな超電磁砲レールガンのような姿をしており、緑色のオーラを纏ってシズクの傍に浮いている。


「穿て」


 そして次の瞬間、緑の光で形成された槍のような銃弾が無数に双銃から放たれ、目の前の魔物へと降り注いだ。

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