第18話 レンは『約束』を結んだ
カルガンディアの軍を迎え撃った荒野を含めても、レオナントの国土はそこまで大きいとは言えない。
1日あれば端から端まで移動することが可能だと言う話だ。
現に戦場から王都までは、片道1時間ほどの短い道のりだった。
戦場の端にフォルニス達が待っていたので飛んでいくことも出来たのだが、さすがに俺たちだけ先に行く訳にはいかなかったので、騎士団と共に歩いて来た。
王都に着いた時、レン達は街中の様子に少し驚いた。
人々はかなり貧しい身なりをしており、痩せ細った老人や子供の姿も見られた。特別華やかな街並みだと言う訳ではないし人の往来が多い訳でもない。それなのになぜか、皆が笑顔で騎士団を迎えていたのだ。
結果、奇跡的に死者はいなかった。だが皆ボロボロで、歩くのがやっとと言う状態の者も少なくない。そんな敗戦さながらの様相を呈する騎士団でも、国民達はその帰還を心から喜んでいた。
「それにしても、お前国王だったのか」
レン達は今、王宮内の食卓に並んで座っている。シズクが空腹を訴えると、料理を御馳走してくれると言う話になったのだ。
「はい。ですが、あまり気を使わないでください。歳は同じくらいでしょうし」
「そうか。じゃあお前も敬語なんて使わなくていいのに」
「いえ、あなた方は国の恩人です。国王である私が先立って敬意を払わなければ」
名はダグラスと言うようだ。確かにこの国王なら国民がついていくのも理解できるような気がする。この世界の戦争事情は知らないが、さすがに戦場で前線に立つ国王はいないだろう。
「レンさん、1つお聞きしてもいいでしょうか?」
「ああ」
ちなみに俺たちの自己紹介は、名前だけ済ませておいた。
「レンさん達の旅の目的は何なのでしょうか……?」
……目的か。
本音を言うと”戦争を終わらせる”と言う随分現実離れしたような目的なのだが、果たしてダグラス達にそれを伝えていいものだろうか。この場にはダグラスとカティアしかいない。そんなに大騒ぎするような真似はしないと思うが………。
レンがそんなことを考えていると、シズクが先に口を開いた。
「私たちの目的は、戦争を終わらせること」
「……えっ?」
ダグラスとカティアは2人揃って目をパチクリさせている。
ーーだが少しすると、なぜか納得したような表情に変わった。
「……なるほど。だからカルガンディアの軍を撤退させたのですね」
「まあな」
もしかしたらダグラス達は、俺たちが”撤退”を要求したことに疑問を持っていたのかも知れない。あの状況なら殲滅することも容易だったからな。
「その……もしよろしければ」
ダグラスが少し神妙な口ぶりで切り出す。
そして力強い眼差しでレンを見つめて言った。
「……その目的、私たちにお手伝いさせて頂くことは出来ませんか……?」
「……は?手伝い……?」
予想もしていなかった言葉に、レンは思わず聞き返す。
「ええ。このまま大陸中を回って戦争を止めに入る、と言うのもいいかも知れません。ですがそれでは、一時的な解決にしかならないのではないでしょうか?戦争そのものを止めるためには、各国の戦いの根元を断つ他ないと思います」
どうやらダグラスはレン達の目的を真剣に受け止めている様子だ。
確かにダグラスの言葉は的を得ている。戦争を止めたところで交戦意思が続いていては意味がない。
「確かにな。具体的にどんな手伝いをしてくれるんだ?」
「レンさん達は、このレオナントの戦士として戦場に参加するのです」
「……どういうことだ」
「戦争の結末には”勝利国”と”敗北国”が必要です。レンさん達がこの国に加わり”勝利国”に導いて下されば、結果的に戦争は終結を迎えることになります」
「……なるほど」
極端な考えだが、それが一番手取り早いかも知れない。だが俺たちやアンナが望むのは”戦争の惨状”を無くすことだ。それには1つ大きな条件がある。
「……俺たちの目的を詳しく言うと、戦争によって悲しい思いをする者を無くすことだ。言いたいことがわかるか?」
「分かっています。レオナントは決して”侵略戦争”をしないと誓いましょう。無力化を第一目的として戦います」
ダグラスはレンの言葉を待っていたようにはっきりと告げた。
「大丈夫」
シズクが横で呟く。信用していいと言うことだろう。
「ああ、そうだな」
レンはダグラスに向き直り、手を差し出した。
「分かった、しばらくお世話になることにしよう。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
そしてレンとダグラスは固い握手を交わし、協力を約束した。
この約束が後に”戦場の英雄”と”稀代の賢王”の運命的な出会いとして語り継がれることになるとは、今はまだ誰も知らないーー
*
ーカルガンディア王宮内ー
「ガルドよ。今回の件について何か言い訳はあるか?」
「……単に敵が強かった、そう申し上げるしかございません」
「ソアラも連れておきながらか」
「……国王陛下。お言葉ですが、私の詠唱魔法もまるで通用しませんでし……」
バキッ!ドゴッ!
ソアラの言葉を待たずして、国王の間に鈍い音が響く。
「がはっ……!」
「うっ……!」
「あなた方、何か勘違いをしていませんこと?」
「国王様が聞いてんのはそんなことじゃねぇんだよ」
金髪をくるっと巻いた縦ロールの女と、真っ黒な髪をオールバックに掻き上げている目つきの悪い男が、ガルドとソアラを尋問している。
「負け犬がどの面下げてのこのこ帰って来たのかと聞いているのですわ」
「ひっ……!」
縦ロールの女がソアラの顎をくいっと上げて顔を近づける。
「簡単な話、雑魚は死ぬまで戦ってこいってことだよ」
「姫奈、大牙。その辺にしておくでありんす」
その時、王の横に立っていた少女が2人を制止した。まるで日本人形のような艶のある黒髪で、着物のような装いに身を包んでいる。
「鳳蝶さんはお優しいこと」
「まぁそれが鳳蝶さんじゃねえの」
「今回の件、レオナントの兵力を小さく見積もり過ぎでありんした。国の判断にも非がありんす」
「ふむ、確かにそうかも知れんの。しかしカルガンディアが敗走したのは事実。このまま黙っている訳には行かぬ」
「ガルド様とソアラ様を圧倒する力。相手はレベル6という可能性も考慮するべきでありんす」
鳳蝶は王の横を離れ、姫奈と大牙の方へと歩き出す。
「戦いの日は近いでありんす」
「少しは本気で戦える相手だといいのですけれど」
「んな相手、近くじゃホルスマキナの勇者以外にいねえだろ」
鳳蝶は1人、何かを思案しながら王の間を後にするのだった。
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