第17話 レオナントは『旅人』に助けられた
その男は2人の前に立ち塞がり、襲い来る炎の槍を正面から受ける。
ドカンッ!ズドンッ!
「なっ……」
「え……?」
2人は驚きのあまり、その場で魂が抜けたように立ちすくんでいた。
……
数秒後、攻撃が終わる。
「久しぶりにちょっとは効いたな」
「は……?」
「う、嘘……」
あの威力の攻撃を受けて、人間が原型を留めていられるはずがない。
正面から受けたなら尚更だ。一瞬で灰になるに決まってる。
……しかしその男は、攻撃を全て受け切っていた。
「大丈夫か?」
「あ……ああ……」
さらに信じられないことに、何事もなかったかのようにその場に立っているのだ。そして彼が纏っていた紫炎は徐々に消えていく。
「なっ……私の詠唱魔法を受けて……ほぼ無傷……?」
詠唱魔法を放ったローブの女も、露骨に驚いた顔をしてこちらを見ている。
ドンッ!バンッ!
「ちょっとレン!勝手に1人で降りないでよ!」
「仕方ないじゃないか、ギリギリだったんだよ」
「仕方ない」
立て続けに2人、銀髪の色白少女と赤髪の獣人少女が落ちてきた。
「あ……あり得ない……あり得ないっ……!」
その瞬間、ローブの女が杖を振りかざす。
「”火の精霊、汝が力を与え給え”」
再び上空に巨大な魔法陣が描かれていく。
「【炎天隕石】」
彼女が言い放つや否や、魔法陣から超巨大な隕石が出現し、そのままレン達の真上に落下してくる。
「シズク」
「うん」
シュルシュル……
シズクの背中から2匹の龍が首を出す。
「な……」
「は……」
後ろの2人はもはや驚きを通り越して声にもならない。
「【冥獣の息吹】」
ドゴオォォォンッッッッ!!!
シズクの龍が放った光線は隕石に命中し、そして次の瞬間。
バアァァァンッッ!!!
爆音と共に隕石が木っ端微塵に砕け、炎が霧散する。
「う……うそ……」
「なんだ?見かけのわりには大したことない魔法だな」
「余裕」
ドサッ
「な、なんなの……あなたたち……」
ローブの女が戦意を喪失したようにその場に膝をつく。
「なあ」
「……」
「聞いてるのか?」
「……あ、ああ」
目を疑うような光景を前に呆然としていたダグラスは、ようやくレンの言葉に気がついた。
「こいつらちょっと追い払ってもいいか?」
「え……?はい……」
「よし」
レンは少し前に歩き出て、カルガンディア軍の方を見据えている。
「アンナ、そいつらを守ってやってくれ」
「分かったわ」
ダッ!
そう言って2人は、カルガンディア軍の方に走り出す。
「シズク。分かってると思うが殲滅じゃない、撤退させれば大丈夫だ。加減しとけよ」
「善処する」
『ソアラ様の攻撃が……』
『嘘だろ……レオナントにこんな強い奴がいたのか……?』
ローブの魔道士は”ソアラ”という名前らしい。
彼女の攻撃が通じなかったのを目の当たりにして、さすがのカルガンディア軍も怯んでいる。
戦意を削ぐなら今だ。
「【不死鳥の炎翼】」
レンの両腕に紫炎の翼が形成されていく。いつもより少し大きめだ。
『な、なんだあれ……』
ズバンッッッ!
大きな翼を横に薙ぐ。
翼は兵士達に直撃し、巻き起こった風圧で後ろの兵士もまとめて吹き飛ばされる。
「【冥獣の息吹】」
ヒューン……ドカーンッッ!
やはりシズクの魔法は範囲も威力も絶大だ。2匹の龍が様々な方向に光線を放ち、兵士たちは成す術もない。
「す……すごい……」
「シズクはちょっとやりすぎてるけどね」
「あ、あの」
「何かしら?」
「あなた達は一体、何者なんですか……?」
「そうね……。”通りすがりの旅人”かしらね?」
「旅人……?」
「……今はね」
レンとシズクの攻撃は止まらない。
『うがああぁ!』
『くそっっ!』
カルガンディアの軍が徐々に後退していく。
『こ……こんなのどうすりゃいいってんだ……』
『とても俺たちにどうにか出来る相手じゃない……』
カルガンディアの中にも、戦意を喪失し始める兵士が現れている。
「……あいつか?」
レンは敵陣深くにいる、軍隊長と思しき大男を視界に捉えた。
「シズク!任せたぞ!」
「うん」
バサッ!バサッ!
そう言うと、レンは大きな炎翼を広げて上空へと飛び出していく。
タンッ
『こいつ……!』
『仕留めろ!』
一瞬で大男のもとに辿り着き、敵陣のど真ん中に着地した。
『かかれっ!』
ズバンッッ!
着地と同時に周りの兵士が一斉に攻撃を仕掛けるが、レンはひと薙ぎで全員を吹き飛ばす。
「……貴様……何者だ」
「さあな」
「……仕方ない……俺が相手をしてやろう」
ズズズッ……
大男が右腕に力を込めたかと思うと、その腕がみるみる巨大化していった。
「……でけえな」
「お前ごとき、押し潰してくれる……!」
そう言って、巨大化した右腕を振り下ろす。
「【巨人の剛腕】!」
バンッッ……ドォンッッ!
衝突により、周囲に大きな衝撃波が巻き起こった。
……だがよく見ると、レンは片手で攻撃を受け止めている。
『う、嘘だろ……ガルド様の攻撃を……』
『化け物だ……』
「なっ……!?」
「……これだけの大軍のトップとなるとそれなりに強いと思ったんだが」
バコンッッ!
次の瞬間、レンの蹴りがガルドの腹を直撃する。
「ぐ……ぐはっ……!」
「ちょっと力を入れすぎたか」
レンはうづくまる大男のもとに歩を進め、
ガンッッ!
今後は顔面を蹴り上げた。
「ガルドって言ったか?……すまねえな、お前に恨みはないんだが」
「が……」
ガルドは今にも気を失いそうになりながら倒れている。
ガシッ……バサッッ!
「な……なに……を……」
レンはガルドの防具を掴み、上空へと羽ばたいた。そして、
「ほらよっ」
ドガンッッッ!!!
戦場の真ん中に、ガルドを投げ落としたのだ。
『え……?』
『ガ……ガルド様……?』
『どうしてガルド様が空から落ちてくるんだ……?』
カルガンディア軍は動揺を隠せず、静まり返ってしまった。
滞空しているレンは、上空から言い放つ。
「お前らがどこの国かは知らねえが、こいつを連れてさっさと帰れ」
「ガ……ガルド……!?」
ソアラも正気を取り戻し、気を失ったガルドを見て愕然とする。
「あ、あなた達は……何者なの……?」
「あーそうだな……”通りすがりの旅人”ってところか」
「そんな訳ない……!ただの旅人がこんなに強い訳……」
「……うるせえな、帰れって言ってんだろ」
「ひっ……!」
レンが上空からソアラを睨みつけると、彼女はまるで虎を前にした子羊のように怯えきってしまった。
……そしてついに、ソアラは震えを押し殺しながら声を上げる。
「……カ……カルガンディア軍に告ぐ……撤退します」
『お……おい……』
『き、聞き間違えじゃない……よな……』
『俺たちが……撤退……?』
ーー”カルガンディア軍の撤退”。それは絶対にあってはならないことだった。
大陸の中でも名の知れた軍事大国であるカルガンディア。騎士団や兵団の規模は最大級であり、勇者の召喚にも成功している。それにソアラやガルドをはじめ、レベル5以上の戦士も数多く存在している大国だ。⦅第三次世界大戦⦆の開戦後、敗戦したことは1度も無かった。
国に帰ったところで、ソアラ達にはある程度の処分が下されるかも知れない。
だがソアラからするとそんなことよりも、目の前にいる男に対する恐怖の方が大きかった。
レベル5である自分たちを凌駕する戦闘力、能力の種類も分からない得体の知れなさ。そして何より、死地を掻い潜って来た男のどこか達観した目つきが、ソアラを圧倒していたのだ。
カルガンディア軍の誰も、こんな結末を予想していなかっただろう。
……そしてそれは、レオナント側からしても同じことだった。
「し、信じられない……」
「私達は……守りきれたの……?」
ダグラスとカティアも、夢かと思うような現実を目の前にして事態を飲み込みきれていない。
「き……聞こえなかったのですか。カルガンディア軍は……”撤退”します」
戦場の中心で1人、ソアラが再び声を出す。
『……て……撤退!』
『りょ、了解……!』
バサッ!
「1ついいか?」
「……ひっ!?」
レンは座り込んでいるソアラの真横に着陸し、話しかける。
「もうそんなに怖がるな、お前達が撤退するってんなら追撃したりはしない」
「……な、なに……?」
「お前の国はなんて言う名前なんだ?すごい兵士の数だが」
「……えっ」
これにはソアラも呆気に取られる。兵士の中には国旗を掲げている者も多数いた。
それで分からないということは、この男は本当にカルガンディアのことを知らないことになる。
「カ、カルガンディア……」
「なるほど。お前の国にはもっと強い奴がいるのか?」
「……な、何人か」
「……そうか。じゃあな」
そう言ってレンは、ソアラの元を離れていった。
「本当に……何者なの……?」
しばらくして、カルガンディア軍はソアラに率いられて撤退していく。
「シズク、お疲れ様」
「お腹減った」
「シズクはいつもじゃない」
レン達が話していると、ダグラスとカティアが歩み寄って来た。
「……こ……この度はありがとうございます。本当に助かりました……」
ダグラスが第一声、頭を下げて謝辞を述べる。
「いいさ。たまたま見かけただけだからな」
「そう言うこと」
「……あなた方が何者なのかについては深堀り致しません。ですが一度、私たちの国に来て頂けませんか……?この度のお礼をしなければ、国としての面子が立ちません……」
「わ、私からもお願いします!」
カティアも横で頭を下げた。
「あー、いいよ。そういうのは」
「ちょっとレン、せっかくなんだから行ってあげてもいいじゃない?」
「お腹減った」
「……」
レンは少し面倒そうな表情を浮かべたが、頭を下げるダグラスとカティアの様子を見て心を決めたようだ。
「……そうか。なら分かった、お言葉に甘えよう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
こうしてレン達は、レオナントに招かれることになった。
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