第16話 レオナントは『詠唱魔法』を見た
「バルカン様だ!皆、邪魔をするな!」
『はっ!』
カルガンディア軍の前線隊長と思しき人物が声を上げる。
奥から茶髪の、いかにも血気盛んそうな男が歩いて来た。
「ちっ……雑魚が何人いようが変わんねえんだよ!引っ込んでろ!」
キンッ!カンッ!
「来たわね……。皆!ここは任せます!」
「分かったぜ!」
「踏ん張るぞ!」
カティアは仲間達にその場を託し、その男と対面する。
「はっ、こんなガキにやられてんのかよ」
「あなたが”戦鬼バルカン”ね……?」
「だったらなんだよ。お前か?”風来のカティア”とか言うのは」
「ここは通さないわ」
「止めれるもんなら止めてみろよ、弱小国の雑魚団長がっ!」
そう言ってバルカンはカティアの方に走り出した。
「【鬼刃】!」
「【風纏剣】!」
ガキンッッッッ!!!
カティアの風を纏った剣とバルカンの双剣が、大きな金属音を立ててぶつかった。
バァンッッ!
そして直後、衝撃で周りにいた兵達が吹き飛ばされる。
「こ、これがレベル4同士の戦いか……」
「すごい圧力だ……俺たちには近づくことすら出来ねえ……」
「ぼーっとしてる場合じゃねえ!俺たちは俺たちで戦うんだ!」
「そうだな!」
タタンッ
カティアとバルカンはお互い後方に距離を取り、間合いをはかっている。
「ちっ……今のを受けるとはな、めんどくせぇ」
「すごい力……”戦鬼”と呼ばれているだけあるわね……」
ダッ……
カキン!キンッ!キンッ!キンッ!
バルカンが無数に繰り出す斬撃を、カティアが冷静に受けている。反撃に剣を突くが、今後はバルカンも双剣を交差させて受ける。
ほぼ互角の戦いだ。
「埒が明かない……!【暴風剣】!」
カティアがバルカンから距離を取り、空砲を放つ。
「来たな……【双瞬撃】」
「……えっ?」
次の瞬間、空砲をかわしたバルカンが目にも止まらぬ速さでカティアに肉薄し、その刃はすでにカティアの首元に向けられている。
そう、バルカンはカティアが遠距離攻撃をする際に生まれる隙を待っていたのだ。
”斬られる”
カティアがそう思った時だった。
「【空力衝撃】」
ドゴーンッッッッッ!!
「ぐはっっ……!」
なぜか攻撃を仕掛けていたバルカンの方が、爆風で遥か後方にぶっ飛ばされた。
「おい!今の攻撃は……!?」
「この衝撃、まさか……」
周りの兵士達が騒ぎ出す。
「……えっ?ちょっと!ダグラ……陛下が出て来るところではございません!」
「いいだろ、こんなところで苦戦しているわけにもいかない」
「そ、そうですが……」
カティアのすぐそばには、凛々しい顔つきをした銀短髪の男が立っている。
ーーダグラスだ。
かなり身軽な格好だが、最低限の防具は装備している。
「かはっ……!」
「ちょっとバルカン〜?なにやられてんのよ!だらしない」
「ちっ……まともに食らった……」
「もー、【回復水】。自分だけ先に行くからでしょ〜?」
「くそっ……あの攻撃は間違いねえ、現国王のダグラスだ」
「へえ〜。国王自ら死地に出撃するなんて、ラッキーじゃない?」
「いや、あいつは手強い……気を付けろ」
吹き飛ばされたバルカンのもとに、1人の女が到着している。
「あれは……”激流のリン”……強力な水魔法に加えて回復魔法も使える魔道士だと聞いたことがあります」
「前線にレベル4が2人も出て来るなんてな。もう一回行くか」
ダグラスは右手を広げて前に出し、言い放った。
「【大地激震】」
ドオオォォォンッッッッ!!!!
前方広範囲に衝撃波が巻き起こされる。轟音が響き渡り、大地が割れる。
「おいリン!やべえぞ!」
「わ、分かってるわよ!【水流防壁】!」
広範囲の衝撃波は前線にいた兵の大部分を吹き飛ばし、地面に叩きつける。まともに衝撃を食らった兵たちが次々と再起不能になっていく。
「ダグラス様……さすがの破壊力だ……」
「ああ……何しろあの方はレベル4の中でも最高峰の強さだ。格が違う」
ダグラスのレベルは4だが、ステータスはオールAに近いという。称号は【空圧術士】であり、大気を圧縮して解き放つ衝撃波はものすごい威力を誇っているのだ。
「聞け!レオナントの勇敢なる戦士達!戦いはここからだ、気を抜くな!」
『おお!』
ダグラスの前線参加で更に勢い付いたレオナント軍は、カルガンディアの猛攻を次々と退けていく。
先のレベル4の2人もダグラスの攻撃に巻き込まれ、起き上がることが出来ないようだ。
「1人でこの火力……さすがです、陛下」
「だからもう”陛下”はよせって」
「……そうね。でもレベル4の2人を無力化出来たのは大きいわ。もしかするとこのまま……」
「この戦いにカルガンディアがどれくらいの戦力を投入しているか分からない。そう簡単に行くといいが……」
だが実際、レオナント軍は驚くほどの快進撃を見せている。
騎士団と魔法兵団の連携も取れているし、ダグラスの攻撃でカルガンディアの前線隊は壊滅的状況だ。
残存兵の数には圧倒的な差があるが、それでもレオナントは前線を維持しながら戦うことが出来ている。
「【空力衝撃】」
「【暴風剣】!」
その後も止め処なく続くカルガンディア軍の侵攻を、尽く跳ね返していく。カルガンディアの兵もすでに3分の2ほどまでに減っただろう。倒しても倒しても敵が湧いてくるが、このまま続けていれば守り切れるかも知れない。
ーー皆がそんな希望を抱き始めた時だった。
わずかな希望は、一瞬にして絶望へと変わる。
「……こんなにやられてしまったのですか。『大国カルガンディア』の軍隊ともあろうものが、不甲斐無いですね」
少し後ろに佇む、1人の女の人影。
赤いローブを羽織り、同じ色のとんがり帽子を被っている。右手にあるのは木製の杖だ。
「もういいです。終わらせましょう」
その女はふわっと地面から浮き上がり、杖を天に掲げた。
「”火の精霊、汝が力を与え給え”」
彼女が言葉を発すると、突如上空に巨大な魔法陣が描かれる。
「ダグラス……あ、あれ……」
「ああ……『詠唱魔法』……」
ダグラス達が魔法陣に気づくが、時すでに遅かった。
「【灼熱の弾幕】」
ヒュー……
ドゴンッ!バコンッ!
直後、魔法陣から直径1メートルほどの巨大な炎の玉が無数に出現し、レオナント軍の頭上から降り注ぐ。
『うがぁ!』
『ごふっ!』
あちこちから爆発音と悲鳴が聞こえる。攻撃はまだ止まない。
ドゴンッ!ドカンッ!ズドンッ!
「な……なんて威力……」
「くそ……【大地激震】!」
ダグラスが攻撃を打ち消そうとするが、火球の猛攻は衝撃波すらも貫通して勢いを増すばかりだ。
「無駄です。その程度の衝撃波では打ち消すことなど出来ません」
「ぐはっ!」
「きゃあっ!」
ついにカティアとダグラスも直撃を受けてしまった。
「ぐ……がはっ……」
「ダ……ダグラス……」
しばらくしてようやく攻撃が降り止んだ。戦場は静まり返っている。
すでにレオナント軍は壊滅状態、息のある者だけでも半数ほどしか残っていない。
……だがそんな中でもただ2人、土煙の中で立ち上がる若者達がいた。
「立ちますか、見上げた精神力です」
「バカ言うな……こちとら命捨ててここに来てんだよ……」
「私達の覚悟を……舐めないでもらいたいわね……」
あの威力の魔法を見せつけられて、実力差を体感して、まだ心が折れないことの方が異常だ。ローブの女はその気力に鬼気迫るものを感じていた。
「……そうですか。ではあなた達の気概に敬意を表し、最大威力の魔法で葬って差し上げます」
「くそ……墓に埋める骨も残してくれないってか」
「つまり本当に……”ここが私達の墓場となる”ってことかしらね……?」
立ち上がるのさえギリギリな状態で、再びあのような威力の魔法に耐えられる可能性はゼロだ。
……しかしどうしてか、2人の目の光はまだ消えていない。
死を覚悟し開き直っているのか、はたまた現実逃避してありもしない希望にかけているのか。
ローブの女は、2人の目がなぜこんなにも輝いているのか、理解出来なかった。
「……死になさい」
ローブの女は再び杖を天に掲げる。
「”火の化身、汝が渇望を放ち給え”」
そして杖をダグラス達の方に向けると、その先に巨大な魔法陣が描かれた。
ローブの女は軽く息を吸い、静かに言い放つ。
「【炎槍の鎮魂歌】」
彼女の言葉に合わせ、炎の槍が無数に飛び出す。
ダグラスとカティアを狙い澄ました、一極集中の詠唱魔法だ。
炎の槍は全てを焼き尽くさんと言わんばかりに燃え滾り、大気を裂いて襲い来る。
……ここまでか。だが悔いは無い。俺たちは戦場で華々しく散る。
ダグラスとカティアが悟った時だった。
ドンッッ!!
「ちょっと前を失礼」
戦場にいた誰もが目を疑う出来事が起こった。
ダグラスとカティアの目の前に、1人の男が現れたのだ。
……いや、正確には”降ってきた”と言った方が正しい。
その男は2人の前に立ち塞がり、紫炎の翼を広げる。
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