第15話 レオナントは『最後の戦い』を迎えた
「それにしても、まだお若いのに強いですね!」
「そうかもな」
「はい!巨大な魔物の死体を10体ほど持ち帰った時には、村の者全員が驚きましたよ!」
俺たちは今、大陸に向かって空に飛び出したところだ。
あの島の魔物は数も多くなく、孤島にいたものより数段弱かった。小一時間で全て倒すことが出来るほどに余裕な戦いだったな。
村長がお礼に大陸まで案内すると言うので、お言葉に甘えてついて行っている。と言っても村長ではなく、村の青年が案内役として俺たちを先導してくれているのだ。
「お前は大陸に行ったことがあるのか?」
「いえ、実は僕も初めて行くんです。ですが1度すぐ近くまで行ったことがあるので、ご安心ください!」
「分かった。助かる」
「いえいえ、助かったのは僕たちの方です。あのままでは村は壊滅の危機に瀕していたかも知れません。改めてお礼を致します」
……これまでの人生で人に感謝されることなんて全くなかったからか、少しむず痒いな。だが悪くは無い。
「それで1週間くらいはかかると言っていたが、どうやって行くんだ?」
「基本的には適当な島を見つけて、中継しながら進んでいくという感じです。何しろフォルニスもずっと飛んでいるわけにはいきませんし、僕たちもどこかで寝る必要がありますから」
「すぅ……すぅ……」
横を見ると、シズクがフォルニスに掴まったまま寝ている。シズクに関しては陸で寝る必要は無さそうだがな。
「そういえば、どうして大陸を目指しているのですか?旅人と聞いて、てっきり大陸から来たのかと思いましたが……」
「ちょっとやりたいことがあってな」
「やりたいこと……?」
「話すようなことでも無いさ」
さすがにここで”戦争を終わらせに行く”なんてことは言えない。島の住人が”第三次世界大戦”のことを知っているかは分からないが、特に言う理由も無いからやめておこう。
「そうですか。あ、前に島が見えて来ました!あそこで少し休憩しましょう!」
「おう」
こんな感じで島を渡り飛びながら、俺たちは大陸へと向かって行った。
結局のところ嵐に見舞われたり島で魔物を倒したりしているうちに、大陸が見えて来た頃には10日ほどが経ったようだ。
ちなみに普通の魔物というのはそこまで大きく無いらしく、あの村があった島以降は巨大な魔物を見かけることはなかった。
「見えて来ました!あれが大陸です!」
「おぉ……」
「……大きい」
「本当ね……どこまでも陸地が続いているわ」
バサッ
「すまないな、こんな長い旅路を案内してもらって」
「いえ!こちらこそありがとうございました!また是非、島にも遊びに来て下さい!」
「……俺たちが行くより探しに来てくれた方が早いと思うぞ」
この青年は大陸までの道のりをしっかりと記憶しているようだった。正直感心している。
「あ、確かにどこにあるかなんてもう分かりませんよね……。でもまたいつか会えると信じています!」
「私たちも」
「ええそうね、またどこかで会いましょう」
「はい!お元気で!」
バサッ!
そう言って青年は飛び立って行った。
俺たちの名前は教えたが、あいつの名前も聞いとけばよかったな。
「さて」
俺は陸の方へ向き直る。
「ついに来た」
「やっと着いたわね」
そうだ、俺たちは2年の歳月を経てついに大陸へと帰ってきたのだ。ここが大陸のどこなのかは全くもって分からない。だが確かに俺たちは、この時を待ち望んでいたのだ。
と、これからの旅路に胸を馳せるのはいいのだが……
「ここどこだよ……何も無いな」
「無い」
「なんだってこんな田舎スタートなのかしら……」
そう、周りには森しか無い。人の気配がまるで無いのだ。
「仕方ない。飛ぶか」
「飛ぶ」
「それしか無いわね。情報を得ようにも、人がいなきゃ始まらないわ」
俺たちの戦いは、こうして始まりを迎えたのだったーー
*
「国王。この戦い、苦戦は必至です。陛下だけでもお逃げになって下さい」
「恐れながら、私めからも進言致します。カルガンディアからの宣戦布告が届いて1週間、明日の正午には戦いが始まります故、亡命するなら今のうちかと……」
カルガンディアは大陸でも有数の騎士団を誇る大国であり、その大国が攻めてくるというのだ。それに噂では『勇者』の召喚にも成功していると聞く。”苦戦”どころの騒ぎでは無い。このレオナントの全兵力を結集したところで、敗走するのは火を見るよりも明らかだった。
だが国王の心の中には”逃げる”という選択肢はない。
「……民が戦っているのに、王が逃げてどうする」
若き王は低い声で語り始めた。
「今までお前達には苦労をかけたな。……カティア、お前は騎士団長としてこの国の兵士たちをまとめ上げてくれた。この小国がこれまで他国の侵攻を許さなかったのも、お前の尽力のおかげだ。そしてローウェル。外交を始め、本来執事の範疇から出るような仕事もよくぞこなしてくれた。本当に感謝している」
「陛下……うっ……」
「国王様……私こそあなたにお仕えすることが出来て、幸せでございました……」
「……もうよせよ、その言葉遣い。最後くらい昔のように砕けて話さないか」
何しろ国王の”ダグラス・ルナ・レオナント”と騎士団長”カティア・ハーレット”は幼馴染だ。お互いに前国王と前騎士団長の子として常日頃から共に過ごして来た仲であり、”ローウェル・ベルトルト”は2人の世話役をしていたのだ。
国王と騎士団長が早くに亡くなってしまい、若いうちにその立場を継いでいる。
「ダグラスぅ……」
「ぼっちゃま……御立派になって……。近頃は涙腺が緩んでいけませんな……」
「2人とも泣くなよ、俺はまだ死んじゃいないぜ?」
カルガンディアからは最初、傘下に入ることを要求されていた。しかしダグラスははっきりと断ったのだ。隷属の先に未来はない、俺たちは人間をやめてまで生きる気はない、と。
確かに大国の傘下に加わるというのは、その国に隷属することを意味する。命さえあるものの、人間としてではなく道具としてこき使われるだけだ。
ダグラスは国民にそんな真似をさせるつもりはなかった。どうせなら力の限り足掻いて、潔く散るのが望ましい最期だと考えていたのだ。そして国民もその考えに賛同し、カルガンディアと正面からぶつかることになった。
つまり戦いの結末とは、国王の死を意味する。
「久しぶりに3人で乾杯と行こうじゃないか。じい、最高級のワインを持って来てくれ」
「ええ……ただいま……!」
3つのワイングラスに深紅のワインが注がれる。
「明日が運命の日だ。せめて華々しく散ってやろう」
「そうね!」
『乾杯!』
こうして3人は最後の杯を交わした。
いつしか夜も更け、開戦の時は刻一刻と迫っていくのだった。
*
ー翌日・正午ー
「……来たな」
決戦の場所はひらけた荒野だ。遥か遠く、カルガンディアの大群が前進してくるのが見えて来た。
「皆の者!よく聞け!」
ダグラスが台の上に立ち、声を上げる。
「今日この日、レオナントが歴史上語り継がれる大逆転を果たす時だ!お前達の雄姿は後世に語り継がれる!見よ、敵は強大だ。だが俺たちはそれを打ち破り、自由を手に入れるのだ!俺には見える!強敵を打ち破り、勝利の旗を掲げる未来が!レオナントの旗が天高く翻る姿が!さあ、行くぞ!」
『おう!!!』
ダグラスの言葉に鼓舞された騎士団や民間兵が、一斉に声を上げる。
「私が道を開きます!付いて来て下さい!」
カティアが先陣を切って走り出す。
「みんな!騎士団長を守るんだ!」
「嬢ちゃんに指一本触れさせるな!」
『おう!』
騎士団の皆がカティアに続いて走り出す。カティアはまだ20歳にも満たない若い少女のため、騎士団は全員彼女よりも年上だ。
そのためレオナントの騎士団は、”カティアが率いている”というよりは”強くて可愛い団長を守る”という共通意識から統率が取れている部分もある。
「ちょっと!どちらかと言うと私が皆さんを守るんですよ!なんでいっつもこうなんですか!」
カルガンディアの軍もこちらに向かい走って来ている。
「もう……行きますよ!【暴風剣】!」
ドゴオォォォンッッッ!
カティアの剣が風を纏い、突きと同時にその剣から竜巻のような空砲が放たれた。敵軍の歩兵が数十人吹き飛ぶ。
「やっぱ団長はすごいなあ!」
「俺たちも負けてらんねえぞ!」
「ああ!」
実際のところ、カティアはダグラスと並んで最高戦力の1人であり、相当な強さだ。
現在レベルは4で、風魔法と剣術を得意とする【風魔剣士】の称号を持っている。
キンッ!カンッ!
「くっ……やっぱり兵力差がすごいわね……」
カティアの力は前線ではかなりのものだが、何しろカルガンディアの軍は数が多すぎる。
レオナントの兵は全て合わせても1000人ほどだが、カルガンディア側には軽く2万人くらいいそうだ。これでも一部なのだろう。
「おりゃあ!」
「せい!」
だがレオナントの皆は士気が高い。今のところかなり善戦出来ている。
「戦いはこれからです!まだまだ行きますよ!」
ドカーーンッッッ!
カティアは最初から飛ばしている。
削れるうちに敵の戦力を削っておかなければならない。なぜならおそらくもうすぐ……
「雑魚共が、さっさと道をあけろ!」
「思っていたより早いわね……」
敵の強者が前線に参加してくるからだ。
お読み頂き、ありがとうございます。
広告の下の☆☆☆☆☆から評価を頂けると、大変喜びます。




