第12話 レンは『孤島』を去った
それから俺たちは、この孤島で魔物たちを倒しながら生活を続けた。
結論から言うと、俺の推測は正しかったようだ。
俺の能力値は”体力”が減少するにつれ、シズクの能力値も”満腹度”が減少するにつれて高くなった。
そのため俺は体力を、シズクは満腹度を、それぞれ6割ほどに保ちながら戦っていた。かなり不便な能力ではあるが、その分能力値の上がり方は大きい。
そしてもう1つ、アンナが急成長を遂げた……はずだったのだが、結局身長はあまり伸びなかったようだ。シズクよりも5cmくらい低いくらいだろうか。
また『称号』を与えられてからは、アンナも魔物狩りに参加するようになった。少しずつレベルも上がっている。
「シズク!そっち頼むぞ!」
「わかった。【罪獣〔冥界の番犬〕】」
『ガルルル……!』
「【冥獣の息吹】」
シュイーン……ドゴーーーーンッッッ!
相変わらずものすごい威力だ。10メートルはある大蛇の魔物が一瞬で吹き飛ぶ。
「こっちも行くか。【罪獣〔不死鳥〕】」
途端に俺の体が紫色の炎を纏う。
バコンッッ!
俺は振り返り、牙の生えた巨人のような魔物ーー俺たちはオーガと呼んでいるーーの拳を受け止める。俺の体よりも大きな拳だが、いとも簡単に受け止めることが出来るようになった。
拳を弾き返し、空中に飛び上がる。
「【不死鳥の炎翼】」
言葉を発した瞬間、俺の右腕に紫炎の翼が形成されていく。大きさはある程度調整出来るようになったが、今は5メートルほどに留めている。今の俺が使える魔法の1つだ。
バッ……ズガンッッ!!
翼はオーガの上体をなぎ払い、地面に叩きつける。
『グオオォォォォォォ……!』
「【属性付与:凍結】!」
これはアンナの魔法だ。アンナの称号は【支援旗手】で強化魔法や付与魔法など、様々な支援魔法を得意としている。
一応槍も使えるようだが、現状槍が無いので支援に徹してもらっているのだ。
「いいタイミングだ……はあっ!」
バキッ!
……カチカチ……パリン!
俺がオーガの頭部を蹴ると、頭部全体が凍り付き、そして砕け散った。
「付与できる範囲が広がったか?」
「そうね、20メートルくらい先まで届くようになったかしら」
多分だが、アンナの称号はかなり強力だ。魔法の範囲も広いし効果も高い。そして何より種類が多い。今のは属性付与と言って、対象者の攻撃に、一時的に属性を付与できるのだ。
「シズク、こっちも片付いたぞ。悪いが持ってくれ」
「うん」
最近では魔物のサイズが大きすぎて、シズクの龍に引きずってもらって運ぶようにしている。だが随分楽に戦えるようになってきた。何か感じるところがあるのか、強い魔物以外は俺たちに近寄らなくなっている。
……それにしても、この島の魔物は全てかなり大きいらしい。島の中心に行くにつれてより大きな魔物が生息していて、最大のものでは50メートルほどの巨大亀がいたな。シズクの光線が弾かれた時は流石に焦った。アンナの強化魔法が無ければやばかったかも知れない。
「レン、火」
「ああ」
ボッ
ちなみにだが、俺の炎は望めば木片などに移すことも可能になった。他に燃え移った後は、普通の炎として熱もある。不思議なものだ。
こうして過ごしているうちに、2年くらいが経とうとしていた。俺とシズクのレベルは5に達しており、アンナもレベル4まで来ている。
レベルは高くなるほど上がりにくくなっており、かれこれ半年くらいはレベル5のままだ。
その日狩ったオーガの肉を焼いて食いながら、俺たちは少し話し始める。
大蛇は半分くらいが消し炭になっていたから、食べられる部分があまり残っていなかった。加減しろ。全く。
「やり過ぎたかも」
「まぁオーガの肉があるから大丈夫だ」
この大きさなら3日は持つだろう。最近ではシズクも満腹にならないように食べる量をセーブしている。
……それでもありえないくらい食べるがな。一体その体のどこに入ってるんだ。
「なんだか私もレベルが上がりにくくなって来たわ」
「そうなのか。能力値があまり伸びないのか?」
「ええ、全部Cくらいで落ち着いちゃったわよ」
「なるほどな」
なるほどな、とか言っているが、俺やシズクにはあまり分からない。
体力や満腹度が全回復している時は、能力値はもれなくFだ。かと思えば半分くらいまで減らすと、Aになったりする。実際どの数値が本当の値なのか分からないのだ。
「……この島の魔物もかなり減ってきたな」
「うん。歯応えもない」
「そうね……。そろそろこの島を出てもいい頃合いかしら?」
「そうだな。アンナもだいぶ強くなったし、そろそろ大陸に行ってもいいんじゃないか?」
「私もそう思う」
「……でも、どうやって海を渡ろうかしら。海には”海獣”と呼ばれる海に生息する魔物がたくさんいるのよ?」
「そうだな……」
これは2年間ずっと考えて来たことだが、今だに名案が思い付かない。
俺の翼は一時的なものだから、飛んでいくなんて芸当は出来ないしな。
「やっぱり適当にいかだを作って乗るしかない。海獣は……倒すか」
「そうなるわよね……」
「仕方がない」
何しろ造船技術は誰も持っていない。適当に木を繋げて乗るしかないのだ。沈まなきゃなんとかなるだろ。
「まぁどこに着くかも分からないがな。はっはっは」
「……何よその無理な笑い方」
「いいと思う。ふふふ」
「シズクまでやめなさいよ!無表情で笑われるとなんだか怖いわ」
こればかりは打つ手がないのだ。笑って誤魔化すしかない。
「まあいいわ。それなら早速いかだを準備しましょ!」
「ああ。そこら辺の木でいいだろ」
バキッ!
レベル5にもなると、かなりの巨木でも片手で折れる。
こうして俺たちは丸太を用意し、紐のような頑丈な植物で結びつけていかだを完成させた。
「これで完成ね!」
「うん」
「明日の朝にでも出るか」
「かなり急なのね……」
「善は急げって言うだろ?」
……島から出ることが果たして”善”なのかは分からないが。
「何よそれ?」
「元の世界の言葉だ」
「へえ」
……最初この島に来た時は絶望しか抱いていなかったが、いざ去るとなると少し名残り惜しいな。
いや、新たな旅立ちだと思って振り返らず行こう。俺はこの名も無き孤島のことを一生忘れない。
「やっと外に出る時が来たんだな」
「そうね。大陸のどこかにたどり着けたらベストかしら」
「なんとかなる」
「……だな」
明日の旅立ちに備え、まだ夕暮れ時だが今日はもう寝よう。
「俺はもう寝る。おやすみ」
「ええ、私も早めに寝ようかしら」
「うん。おやすみ」
ーー今頃世界はどうなっているのだろうか……?
俺はそんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じた。
*
遥か遠くにはっきりと見える水平線から、真っ白な太陽が顔を出す。
白い光は水面で乱反射し、眩しさにレンは目を細めた。
「……よく考えるとこんな水平線、元の世界では絶対に見られなかったな」
「うん」
……知らぬ間にシズクが隣に立っている。もう慣れたものだ。
「綺麗だな」
「私?」
「……ん?ああ、それもあるな」
シズクの横顔は、目の前に広がるこの絶景に勝るとも劣らず、本当に綺麗だ。
「2人とも早いのね」
アンナも起きてきたようだ。今日は皆早起きだな。
「旅立ち日和だな」
「うん」
「そうね、いい天気」
皆起きたことだし、早速行くとしよう。
俺は最後に後ろを振り返り、この海岸沿いの景色を目に焼き付ける。
……2年前に見た景色となんら変わらないはずなのに、全く映り方が違うな。
「よし、行こう」
『うん!』
ザーッ
波はすこぶる穏やかだ。
俺たちは波打ち際にいかだを浮かべ、上に乗る。
……じゃあな、名も無き孤島。俺を強くしてくれてありがとう。大陸で少しばかり暴れてくるよ。
そんな台詞を心の中で呟きながら、俺たちはまだ見ぬどこかに向かって大海原に繰り出したーー
*
「【光剣】!」
遷宮寺が掲げた剣に光が集まる。
ズバアァァァンッッ!!
その光は一直線に打ち出され、目の前の魔物の群れを消し炭にした。
「……ふう、こんなところか」
「つーか凛斗ー、全然歯応えなくねー?」
ズシンッ!
「美桜ちゃんもちょっと退屈かもぉ」
「でもどんどん倒せるからなんか気持ちいいじゃん!?」
「カストルさん、もう少し深層に行ってみてもいいでしょうか?」
「うむ、皆よく頑張っている!特にリントたちの成長は著しいな!それこそすでに僕を超えているよ!……けどここから先は僕でも安全を保証しきれない。レベル5以上の人に同行を頼んでみよう。とりあえず今日はこの辺にして、一旦王宮に帰ろうか!」
「分かりました」
遷宮寺たちはダンジョンの中層に来ていた。今日も一日中ダンジョンで魔物と戦い、今から王宮に帰るところだ。
「地上に戻るの遠くねー?」
「それにしても美桜!お前の龍また大きくなったんじゃねえか!?」
「そうなの!もうダンジョンの中が狭いくらいだよう」
『グオ……グオ……』
竜が首を縦に振っている。人間の言葉を理解しているのだろうか。
「……ユキネさん、何か考え事でもあるの?」
「へっ……!?イ、イヴァンナさん……」
「魔物とはしっかり戦ってくれていると思うわ。けど時々、ぼーっとしているようだったから」
「あ……はい。……少しだけ」
「良かったら聞いてもいいかしら?」
「雪音、少し回復を頼んでもいいか」
前の方から遷宮寺の声がする。
「あ、うん!あの……イヴァンナさん、王宮に帰ってからでもいいですか……?」
「ええ、もちろん」
「すみません」
そう言って天宮さんは、遷宮寺たちの方へ走っていく。
「レン君……」
イヴァンナさんは誰にも聞こえないような小さな声で、ボソッと呟くのだった。
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