第11話 レンは『仲間』と出会った
「な……なにこの臭い……」
アンナが顔を歪めながら鼻をつまんでいる。
今ちょうど肉を焼いているところだ。昨日の魔物も臭かったが、今日の魔物の肉も、これまた独特な臭みがある。
「こ、これ本当に食べられるのかしら……」
「おいしい」
「俺もまだ食べたことはないんだ」
正直今のところ、とてもじゃないが食べられそうだとは思えない。
「そろそろいけるかも」
ズオォ……
2頭の龍が飛び出し、シズクが食べ始める。
「そ、そうやって食べるのね……」
「なくても食べれる」
スウゥ……
2頭の龍が引っ込み、シズクは肉を手に持って食べ始めた。
「うん。おいしい」
「そ、そうか……」
仕方がない、食べてみよう。
ーー臭い。だがしっかりと肉の旨味はあるように感じる。好きな人は好きなのかも知れない。
「仕方ないわね……」
ぱくっ
「く、くっさ!……けど、食べられないこともないわね」
正直なところ、おいしいとは思えない。だがこれしかないと言われれば、ギリギリ食べられる。
ぱくっぱくっ
「……シズク、結構食べるよな。そろそろお腹いっぱいじゃないのか?」
「まだまだ」
「た、食べ過ぎじゃないかしら……」
「いっぱい食べなきゃ大きくなれない」
「……!そ、そうなの!?」
ぱくっぱくっ
シズクに言われたからか、アンナは頑張って食べているようだ。あまり無理はするなよ。
そうして俺たちは晩飯を食べ終えた。結果的に、シズクが半分以上を平らげてしまった。
「お腹いっぱい」
「……よく食うな」
「本当ね……うっ……」
アンナはアンナで食べ過ぎたようだ。
「そうだシズク、今ステータスはどうなってる?」
「ん……あれ」
「なんか変なところは無いか?」
「……能力値が全部Fになってる」
「え!?」
「……やはりそうか」
ーーもし俺の【怠惰の使徒】が”体力”の減少に応じて能力値が上がるスキルなら、シズクの【暴食の使徒】は”満腹度”に応じて能力値が上がるのでは無いかと考えたのだ。
当たっているようだ。
「何かわかった?」
「ああ。多分だが、【暴食の使徒】は腹が減るごとに能力値が上がるスキルだ」
「それは辛い……」
「やっぱりあんた達のスキルってかなり特殊よね。紫色の炎が出たり、大きな龍が出てきたり、驚くことだらけだわ」
「そーいやアンナは今何歳なんだ?」
「私?私は今15歳よ。だから称号が与えられるのは来年ね」
「15歳……!?」
そんなに大きかったのか……。
身長的に10歳くらいかと思っていたが、単に身長が小さかっただけのようだ。
「あら、何よその意外な顔。私は身長こそ小さいけれど、立派な15歳よ!」
「そ、そうだったのか……」
「意外……」
アンナの話によると、獣人はある時期に急成長するらしい。将来的には大きくなるらしいのだが、成長期を迎えるまでは全然伸びないという。
「種族によってもそんな違いがあるんだな」
「そうみたいね」
そんな会話をしていると、外はもう暗くなってきた。
「そろそろ寝るか」
「うん」
「そうね」
そう言ってみんなで焚き火を囲い、横になる。
徐々にだが、俺のスキルの効果も分かってきた。そしてあの炎のスキルはかなり役に立つ。【怠惰の使徒】の都合上、俺は積極的に攻撃を受ける必要があるらしい。自動で体力を回復してくれるスキルはかなり相性がいいような気がする。
そしてシズクのあの魔法。シズクは遠距離攻撃も出来るようになったようだから、かなり戦うことが出来そうだな。俺が近接で攻撃を受けて、シズクが拘束したり魔法で攻撃したりする。なかなかいいコンビじゃないか。
……こんな感覚初めてだな。誰かと協力して強敵を倒す。共に強くなる。
これまでの俺には全くなかった経験だ。なぜか分からないが、心が踊る。悪くないな。
「それにしても、これからどうするか」
俺はふと呟き、2人の方に目を向ける。
「あれ……?」
ーーアンナがいない。どこかに行ったのだろうか?
俺は起き上がり、洞窟を出る。
「……」
「どうした、眠れないのか?」
「……え!?」
アンナは海を見ながら、砂浜で座り込んでいた。
振り返る彼女の目から、涙が弾ける。
「泣いてるのか?」
「……!?そんな訳ないじゃない!」
「……そうか」
気丈に振る舞っている彼女だが、家族が捕らえられたと言っていた。その上自分は母国を追い出されて海に捨てられたんだ。
そりゃあ辛いに違いない。
「辛いよな」
「……そうね」
「何か考え事でもしていたのか?」
「……これからあなた達は、この島で生きていくのかしら」
「そんなつもりはないさ。まともな飯も食いたいしな」
「そう……」
アンナはどこか思い詰めた様子だ。
やがてゆっくりと話し出した。
「……私、戦争が憎いわ」
「……」
「他にも色んな獣人が悲惨な目に遭っていたわ。私も最初は人間を恨んだ。でもね……元はと言えば戦争があるからだって思ったの。こんなことが他の国でも起こっているのかも知れない。そう考えると、胸が痛むのよ……」
「そうだな」
確かに、そもそも戦争なんてなければ俺たちがこんな世界に召喚されることはなかったのかも知れない。
それよりアンナは、他の国のことまで考えているのか。
「……もう今更国に復讐してやりたいなんて思わないわ。復讐は復讐を呼ぶだけよ。私はね……戦争自体を終わらせたいの。けど、力がなければ何も出来ないのよ……。私には力が無かった。たった1つの国を変える力さえ。たった4人の家族を守る力さえ……」
アンナは瞳に涙を湛えながら、言葉を絞り出すように話している。
俺は少し驚いていた。
こんな少女から”戦争を終わらせたい”なんて言葉が出てくるなんてな。
「……なら」
俺はふと思いついたことを提案してみる。
「俺がお前の力になってやる」
「……え?」
「特にやることもないしな」
それに戦争なんてクソ食らえだ。異世界から人間を召喚してまで国の利益を追求するなんて、自分勝手にも程がある。この世界の人間は過去から何も学ばなかったのか?
そしてそれに協力する”勇者”というのも馬鹿馬鹿しい。
もし俺がさらに強くなれたとしたら、遷宮寺たちをボコボコにしてやるのも悪くない。
「俺はな、これまで怠惰に生きてきた。人と関わることもしなかった。だからこの世界に来てシズクやアンナと話すのはとても新鮮だった。……そして自分でも不思議なんだが、たまには活動的に生きるのも悪くはないと思えたんだ。アンナが”戦争を終わらせたい”って言うなら、俺がお前の”力”になってやる」
これまで俺のモットーは【能動的怠惰】だった。だがこの世界に来て、自分がなんとかしなければならない状況になってしまった。
ーーこれからは【選択的怠惰】にしよう。
「ほ……本当に……?」
「ああ。俺に出来る限りだがな」
「あ……ありがとう……ありがと……う……」
アンナはボロボロ泣き出した。
「わ……私……こ、これまであんまり仲間とかいなくて……う……嘘じゃない……?」
「ああ、もちろんだ」
「うっ……うぅ……」
確かに王族なら、親しい友達を作ったりするのも難しかったのかも知れない。
「よし、そうと決まれば強くならないとな。俺も、お前も」
「そ……そうね……!」
「私も」
「えっ……?」
後ろを見ると、シズクがいつもの無表情で立っていた。
なんだろう、いつもより目力がある気がする。
「シ……シズクも……?」
「うん。私も力になる」
「……いいのか?」
「私も、他にすることないから」
そこから聞いていたのか。
「……そうか。ありがとな」
「いい。がんばる」
「ああ」
「シズクまで……ありがと……うぅ……」
アンナはまた泣き出しそうになっている。
空を見ると、星々が眩しいくらいに煌めいていた。
こんな夜空は初めて見るな。
「今夜は星が綺麗だな」
「うん、綺麗」
「……本当ね!」
俺たちはその日、満点の星空の下で”仲間”となった。
そして空を見上げているうちに、いつしか眠りに落ちていたのだった。
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