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第10話 レンは『魔法』を見た

「あら、これ見て」

「ん?」


 アンナが身の丈ほどの植物を指差す。

 大きな緑色の袋を携えた、見たことも無い植物だ。そこら中に生えている。


「あなたたち、さっきくれた水は雨水?」

「ああ、それしか水が無いからな」

「通りで」


 アンナはその植物の袋の部分をもぎ取り、裂き始めた。意外にも簡単に破れるようだ。


「この袋の中にはたくさん水が入っているのよ。大陸でも旅人の飲み水として重宝されているわ」

「……驚いたな」


 これは非常に有益な情報だ。いつまでも雨水を飲み続けているわけにはいかない。


「この袋を集めておけば、飲み水に困ることはないでしょ」


 その後もアンナは、食べられる果実や植物を数々教えてくれた。実際に探してみると、色々あるようだ。


「ざっとこんな感じかしら」

「本当に助かる。ありがとう」

「アンナがいなければ、野垂れ死ぬところだった」

「い、いいわよ」


 俺とシズクが素直に感謝すると、アンナは少し照れ臭そうにしていた。


「この島には動物とかいなかったかしら?」

「ん?ああ、多分魔物ならいたぞ」

「ま、魔物……!?」

「この世界では普通にいるもんじゃ無いのか?」

「そうね……いることは確かだけど、基本的にはダンジョンの中にしかいないわ」

「そうなのか」


 どうやら地上をうろついていることは珍しいようだ。


「魔物の肉って食べられるのか?」

「いえ、食べられないと思うわ」

「……食べた」

「えっ……!?」


 アンナはかなり驚いた様子だ。話を聞くと、皮や爪などの素材は使われているものの、肉を食べようとする者はいないらしい。


「でも魔物しかいないなら、それを食べるしか……」


 バッ!


「静かに!」


俺は咄嗟に、話しかけていたアンナの口を押さえる。


『グオォォ……』


「ん……んん……!」

「静かにしてろ、魔物だ」


 木々で隠れていて見えにくいが、少し遠くに大きな影が確認できる。


「レン……かなり大きい」

「ああ」


 遠くからでもよくわかる。あれはかなりやばいやつだ。

 昨日の魔物よりさらにひとまわりくらい大きいか。


 魔物は少しずつこちらに近づいている。次第にしっかりと姿が見えてきた。

 巨大な狼のような見た目をしている。


「え……なにこれ……!」

「おい!」


『グア……!?』


 アンナが発した声で気づかれてしまったらしい。


「シズク!行くぞ!」

「うん」


 俺はアンナを抱えて走り出した。


『グオオォォ!』


 バキッ!ボキッ!


 魔物は木々をなぎ倒しながら追いかけて来る。

 まずいな、追いつかれるのは時間の問題だ。


「シズク!ステータスを見せてくれ!」

「うん。ステータス表示」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 シズク・オウサカ

 レベル:1

 満腹度:290/1000


 〈称号〉

【暴食の大罪】


 〈能力値〉

 魔力量:S

 攻撃:A

 防御:A

 魔攻:S

 魔防:S

 敏捷:A


 〈魔法〉

 なし


 〈スキル〉

 暴食ぼうしょく使徒しと(パッシブ)

 罪獣ざいじゅう加護かご冥界の番犬(ケルベロス)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれ?なんか昨日よりも強くなって無いか……?

 それに【罪獣ざいじゅう加護かご】の”パッシブ”という表示が消えている。


「つ、強いわね……。これが『勇者』なのかしら……」


 アンナが呟く。まだレベルは1だが、確かにステータスはものすごい。


「よし、戦えるか?」

「うん。やってみる」


 俺はアンナを木影に下ろす。


「ちょっと待ってろ」

「分かったわ」


 そして魔物の進行方向に立ち塞がった。


『グオオォォォ!』


 魔物は毛を逆立て、牙を向けて突進して来る。


 ガシッ!


「……くっ!!」


 俺は魔物に自分の腕を噛ませた。噛みちぎられてもおかしく無いような顎の力だ。

 だが、不思議と噛みちぎられることはなかった。


 ーー牙が刺さっている部分が紫の炎に包まれている。


 ……やはりこの炎には回復効果があるようだ。傷を修復しながら原型を保ってくれているのだろう。


「……痛えなこの野郎!」


 俺は空中で体勢を整え、魔物の顔面を蹴る。


 ガンッッ!


『グワアァァ!』


 魔物は衝撃で俺の腕を離し、少しのけぞった。


 レベルが2に上がってかなり強くなったようだが、能力値Fでこんなに強いのだろうか。


「シズク!」

「うん」


 シズクは目を瞑り、力強い声で呟いた。



「【罪獣ざいじゅう冥界の番犬(ケルベロス)〕】」



 シュルル……


 その声と共に、2頭の龍が背中から顔を出す。


「昨日よりも大きいな……」


 1頭の龍で、5メートルくらいの大きさがある。


「……いく」


 ガブッ!バクッ!


『グガアアアァァァ!!』


 龍が魔物に噛み付き、魔物はたまらず呻き声を上げる。


「すごいパワーだな……」


 魔物が振り解こうと暴れているが、2頭の龍は全く離すことなく魔物を押さえつけている。


「レン!」

「ああ、さんきゅな」


 俺は紫の炎を纏ったまま上に飛び上がり、魔物の上から頭部を思い切り殴る。


 バコンッッ!


『グ……グアァ……』


 魔物は地面に叩きつけられた。

 ……効いたか?


『グオオオォォォォォォォォ……!!!』


 しかし魔物はすぐに起き上がり、大きな咆哮をあげた。

 耳がおかしくなりそうだ。


 その直後、魔物はシズクに向かって爪を振り下ろす。


 ザシュッッ!


「ぐっっ……!」


 瞬時にシズクの前に立ち塞がり、その攻撃を受け止めた。

 両腕が断ち切られていないのが不思議なくらいだ。


「……レン!」

「……だ……大丈夫だ」


 紫色の炎がさらに大きさを増して俺の腕を包み込む。傷を修復しているのだ。


 ……痛みは伴うが、このスキルはかなり強いんじゃ無いか?


「……許さない」


 俺の辛そうな姿を見たからか、シズクは怒ったような顔で魔物を見ている。

 ……”怒っている”というのは多分だがな。無表情には変わりないが、少しだけ違うような気がする。


 そして次の瞬間、信じられないことが起きた。



「【冥獣めいじゅう息吹いぶき】」



『ガルル……』


 ドガーーーンッッ!!


 なんと2頭の龍の口にエネルギーが溜まったかと思いきや、それがレーザー光線のように飛び出したのだ。


『グ……グガ……』


 シュー……


 魔物の体には大きな穴が2つ開いている。貫通したのか?

 なんて威力だ。


 ドシッ!


 魔物はその場に倒れた。さすがに絶命しただろう。


「……す、すごいな。なんだったんだ?」

「……魔法。さっき覚えた」

「そうなのか」

「うん」

「とにかく倒せた。助かったよ」

「うん」


 ……気のせいだろうか?シズクが少し嬉しそうな顔をしている……気がする。もしかしたら”気がする”だけかも知れない。


「あなたたち……すごいわ……」


 木陰に隠れていたアンナが出て来る。


「こんな大きな魔物を倒しちゃうなんて……」

「なんとかな」

「それよりレン、あなた攻撃をまともに受けていたように見えたけど、大丈夫なの?」

「ああ。痛みはあるが、すぐ治る」

「へぇ……。その炎はなに?」


 俺の肩や腕は紫色の炎を纏ったままだ。


「これは多分スキルだ。傷を回復してくれる」

「そう……便利なスキルねぇ……」


 アンナが口を開けて驚いている。俺たちのスキルはかなり特殊なのかも知れない。


 その後も俺とシズクの能力を不思議がっていたので、一応ひと通り説明しておいた。


「それよりシズク、あの龍の出現をコントロール出来るのか?」

「うん」


 試しに俺もやってみるか。

 心の中で、炎が収まるように念じてみる。


 シュウ……


 すると驚いたことに、炎はすぐに消えていった。


「本当だ……ステータス」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 レン・アヤノ

 レベル:2

 体力:690/1000


 〈称号〉

【怠惰の大罪】


 〈能力値〉

 魔力量:B

 攻撃:B

 防御:C

 魔攻:C

 魔防:D

 敏捷:B


 〈魔法〉

 なし


 〈スキル〉

 怠惰(たいだ)使徒(しと)(パッシブ)

 罪獣(ざいじゅう)加護(かご)不死鳥(フェニックス)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……は?」


罪獣ざいじゅう加護かご】の”パッシブ”という表記は消えている。

 だが注目すべきはそこではない。


 何故か能力値が軒並み上がっている。


 なんだ?この魔物を倒しただけで、こんなに強くなったのか?


 ……しかしもう1つ別の考えが、頭に浮き上がってきた。



 ーー【怠惰たいだ使徒しと】というのは、体力が少なくなるほど能力値が上昇するスキルなのではないだろうか?



 これなら昨日の能力値が高かったことも、今日の朝の能力値が低かったことも、全て説明がつく。


 断言は出来ないが、試してみる価値はありそうだ。


「今日の主食はこれでいいか」

「うん」

「ちょっと嫌だけど……仕方ないわね」


 俺たちは食料となる植物を回収しながら、倒した魔物を引きずって洞窟へと帰るのだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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