第1話 レンは『追放』された
出来れば毎日投稿していこうと考えています。
ぜひご一読下さい。
「大罪人『レン・アヤノ』を”国外追放”並びに”島流しの刑”に処す!」
「……は?」
国王が高らかに宣言すると、近衛兵たちが一斉に俺に向かって槍を構える。
クラスメイト達もいつもに増した敵意をむき出しにし、視界から消えろと言わんばかりの表情でこちらを睨んでいる。
「……ちょっと待ってくれ!俺が何をしたって言うんだ!」
こんなに声を荒げて話すのは、もしかしたら生まれて初めてなんじゃなかろうか。
「おい!俺はやってない!無実だ!」
「黙らせろ!」
国王の言葉で、遷宮寺が前に出る。
そして目の前で立ち止まり、冷たい目線で俺を捉える。まるで諸悪の根源を成敗するような、正義感に満ち溢れた表情を浮かべ、言い放った。
「大罪人の言葉を聞く耳は、生憎だが持ち合わせていない」
そう言って、俺の腹を蹴り飛ばした。
「ぐはっっ……!」
両腕を後ろで拘束され床に正座していた俺は、何の抵抗も出来ずに直撃を食らった。
腹部に激痛が走り、直後にとてつもない息苦しさが襲う。
「ぐっ……かはっ!はぁ……はぁ……。だから、俺は何もしてないって……!」
「まだ口を聞けるのか。雪音の苦痛が……お前には分からないのか……!?調子に乗るな……この外道が!」
ドゴッ!バキッ!ボコッッッ!
遷宮寺はさらに怒りを増したのか、執拗なまでに俺の全身を蹴り倒す。
「ぐふっ!あがっ!いぐっっっ……!」
痛みが全身を駆け巡り、痛みを通り越して意識自体が揺れている。
……まずい、そろそろ朦朧としてきた。
周りを見ると、皆がさも当然の報いだと言わんばかりの表情で、満足げにこちらを見ている。
なんなんだ。この状況は。頼むから、夢なら覚めてくれ。
だが俺の願いも虚しく、どれだけ痛みを味わってもこの地獄が覚めることは無い。
ふと奥を見ると、魂の抜けたような表情で座り込んでいる天宮さんと目が合う。
「ひっ!」
俺と目が合うなり、彼女は恐怖の権化を見たような絶望感に塗れた表情をして、その場でうづくまってしまった。
天宮さんのそばでは、今井と結城が付きっきりで介抱しているようだ。
「あ……ああ……」
痛めつけられ続けた俺は、ボロ雑巾のような姿になり果て、もう口を開く気力すら残っていない。
「やっと静かになったようだな。おい!今すぐ連れて行け!」
「や……め……」
おそらく、もうすぐ意識が途切れる。それだけははっきりと分かった。
謁見の間を出る時に一瞬、国王と目があった。国王はニヤリと笑い、勝ち誇ったような顔で俺を見ていたのだった。
なんだ……?嵌められた……のか……?でもなぜ?……何が国王の気に障ったと言うんだ。
俺たちは昨日召喚されたばかりだぞ……?
俺は朦朧とした意識の中で、ここに至るまでの経緯を必死に思い出していた。
*
キーンコーンカーンコーン
全校に鳴り響くチャイムが、授業の終了を告げる。
今日もただ漫然と過ごしているうちに、学校が終わったようだ。
「つーか凛斗ー、この後どっか行くっしょー?」
「そうだな……カラオケでいいんじゃないか?」
「さすが凛斗くん!美桜ちゃんの気持ち分かってるっ!」
「わり!今日部活行かなきゃなんだわぁ!先行っててくんね!?」
「え〜?快くーん、最近付き合い悪くなーい?」
「そりゃ仕方ねーっしょ。雪音はどうすんのー?」
「私は日直の仕事があるから……終わったら行くよ!」
「じゃあ快と雪音は後から合流だな」
学校は1つの社会だ、というのはあながち間違っていない。暗黙の了解的に立場が決定しており、クラス内カーストというものが存在する。
そしてクラス内カーストでの位置付けは、学校生活に直接影響するのだ。
今の話し声は、教室の角に位置取っている連中。カーストのトップに位置する集団だ。
中心にいるのは『遷宮寺凛斗』。容姿端麗でスポーツ万能、成績もトップクラスだ。爽やかな金髪をかき上げている。おまけに『遷宮寺財閥』の御曹司らしい。
これぞ人生イージーモードか。プライドが高そうで苦手なタイプだ。
そして自分のことを『美桜ちゃん』と呼ぶ彼女。『今井美桜』は、ピンクのショートカットが可愛らしさを強調している、幼げな印象を残した美少女だ。男受けが半端ではない。
ビッチめ。
また、金の長髪を後ろでくくっている気怠げな高身長女。あれは『結城彩』で、彼女は『かわいい』と言うより『綺麗』と言うタイプの少女だ。少し怖い印象を受ける、気の強そうな女だ。
部活があると言うのは、茶色短髪バスケ少年『夏原快』。こいつはトップカースト集団に属しているものの、人畜無害そうなスポーツ馬鹿だ。
憶測だが、結構いい奴な気がする。
……まあ俺には、縁もゆかりも無い連中だな。
俺は荷物を鞄に放り込み、いつものように足早に教室を去ろうとする。
「蓮くん!今日は日直の仕事があるから、まだ帰っちゃダメだよ!」
おっと、先ほどの『縁もゆかりも無い』ってのは少し訂正しないとな。この天宮雪音とか言う少女は、何かにつけて話しかけてくる。
やめてくれ。俺と話してもお互い、いいことなんかないだろうに。
何しろ『天宮雪音』は、学年を代表するような美少女だ。綺麗な黒髪は腰まで伸びており、街中で見かけたなら確実に二度見してしまうだろう。今井も負けてはいないのだが、天宮さんはその心優しい性格からか、男女共にファンが多い。
ほら見ろ、言わんこっちゃない。遷宮寺が物凄い形相でこっちを睨んでいるぞ。
スタスタスタ……
遷宮寺がこちらに歩み寄り、声をかける。
「おい雪音。そんな根暗に構うなと、何度も言ってるだろう」
「でも、仕事はちゃんとやらないと」
「そんな奴に期待するだけ無駄だ。なんなら俺が手伝おうか?」
確かに遷宮寺の言うことは、おおよそ的を得ている。
何しろ俺こと『綾野蓮』のモットーは【能動的怠惰】だからな。誰かがやってくれそうなことなら、自分がやる必要は無いと考えている。
それこそ遷宮寺が手伝ってくれるってんなら、願ったり叶ったりじゃないか。
「じ、じゃあ日誌だけ書いて!」
「ああ、書いたぞ」
「『今日も一日頑張ったぞい』って……。もっと真面目に書かなきゃ!」
いいだろ、そんなの何かしら書けばいいんだ。先生だってちゃんと読んでいないだろうに。
「ぷっ……!あはは!なんだそりゃあ〜!気持ち悪いなぁもう!」
俺が書いた言葉を聞いて、後ろの今井が笑い出す。
「あはは……ほーんと、根暗って何考えてるか分かんないよね!」
『はははっ!』
『美桜ちゃんの言う通りだ!』
今井の声に賛同してか、周りにいたクラスメイトも笑い出す。主に男だがな。
「つーかそいつぼっちじゃねー?ほっとけよー」
結城も加勢に来る。
この性格上、俺は人間付き合いに向いていないのだろう。その証拠に、友達と呼べる者は高校には1人もいない。そんなカースト最底辺の俺をカーストトップの彼らが見下すのは、当然と言えば当然だ。
だがここまで目の敵のような扱いを受けているのは、天宮さんが俺のことを気にかけるからだろう。クラスの皆はよく思っていないらしい。
「遷宮寺が手伝ってくれるならいいだろ。じゃあな」
「ちょ、ちょっと!」
天宮さんの声が聞こえるが、無視して帰ることにしよう。俺は教室の出口に向かって踵を向ける。
……その時だった。
キーーーンッッッ!
突如として、教室の床に大きな魔法陣が展開された。
なんだ……これは……!
『きゃあっ!』
『なんなのっ!?』
クラスの皆が、軽いパニックに陥っている。
「みんな!落ち着くんだ!」
それを見た遷宮寺が声を上げ、皆に平常心を保たせる。ここはさすがと言ったところか。
クラスの皆が、徐々に冷静さを取り戻している。
キーーーーーーンッッッッッ!!
だが魔法陣の光は強さを増していく。直後、激しい目眩に襲われて、皆その場に倒れ込んでしまった。
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