プロローグ
生きることは死ぬことである。生きているから死ねるのであって、生きていなければ死なない。死なないことは生きることに逆らうことであって、それはとても苦しい。
何かで読んだのだろうか、それともどこかで聞いたのだろうか。この言葉を残した誰かはこの世界を見て何を思うのだろう。
今、我々人類は死なない世界に存在している。病に倒れることもなく、事故で死ぬこともない。髪で指先を切ったとしても、一滴の血も落ちることはない。水に身を投げても、首に縄をくくっても、腹に歯を突き立ても、死ぬことはない。死ねない。
実に喜ばしいことだ。我々は愛する人を理不尽に失うことがなくなった。若い身体を保ち続けることができるから、医療や介護という苦しみからも開放された。老いによって引退しなくてはいけないという、無念の情を抱くこともない。
しかし、我らにも命の期限は存在した。生まれると同時に渡される通告書には、処分日が記してあるのだ。その日が来たものは忽然と姿を消す。そのため、人口は一定に保たれ、この壊れかけた星にたったひとつ残された島の中で人類は生きていた。処分日がわかっているのだから、計画的に活動することができる。家族に言葉をたっぷり残すことも可能なのだ。自分の遺品だってきちんと自分自身で片付けることができる。最後の晩餐のメニューさえ決めることができる。
処分日は絶対だ。逆らうことはできない。逃れようとしてもその日は必ずやってくる。しかし、期限は金で買うことのできるものだった。