過去
刀を預けてから2日が経ち、袁蔵は宣言通りに刀を仕上げたとのことでした。桃太郎は早速鍛冶屋へと足を運びました。
「旦那」
寝ていた袁蔵を烏禅が起こしました。
「おお…来たか。ほらこれだ」
そう言い袁蔵が持ってきた刀は、打ち直す前と見た目は何も変わっていないように見えました。
「見た目は変わらねえが少し重くなってるはずだ」
「ああ」
「鬼の角を加工に使ったからな」
「鬼の角だと!?」
桃太郎は驚きを隠せませんでした。
「どうしてそれが…」
「なんだ?雉、まだ話してなかったのか」
すると袁蔵はゆっくり腰を上げ、少し昔の話を始めました。
それは今から5年程前の出来事です。突如鬼達が村を手当たり次第に襲い始めたのです。そこで鬼に対向するために、袁蔵を含め、各村から人々が立ち上がりました。
ですが結果は惨敗。
鬼の進軍が止まることはありませんでした。やっとの思いで倒せた鬼はたったの4匹、それに比べ人間側は大打撃を受けました。いくつもの村が潰され、罪のない人々も何千人と殺されてしまいました。そして、その殺された人々の中には烏禅の両親も含まれていました。
「親父達は戦った末での死じゃった。僕を庇って、そのお陰で僕ぁここに立っちょる」
烏禅の目は真っ直ぐと前を向いていました。
「この戦いは、これからの戦いは、お前だけの戦いじゃないんだ」
それ以上、烏禅は語ることはありませんでした。
「そん時、運良く倒せた鬼の角だ。これは雉の錫杖にも使ってる」
「それは貴重なんじゃ…?」
「お前らにゃあ期待を込めて、ってなところだ。そうだなお代は…生きて良い知らせを持ち帰れ。俺の思いを託したぞ」
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袁蔵に次はどこへ向かうのかを聞かれ、隣の大きな町を目指すと伝えると、桃太郎達は袁蔵に礼を言い再び歩き出しました。
烏禅の過去を知った桃太郎は、今まで自分しか見えていなかったことを痛感し、一方的に話を進めていた自分を腹立たしくも感じました。
そして神戌は烏禅の話を聞いていたときずっと何かを思っているように見えました。
おそらく神戌も過去に鬼との関わりがあったのだと桃太郎は察しました。
「桃太郎、これからの計画はあるのか?」
神戌が問いました。
「最終的には鬼をすべて殲滅させたいが……」
「少なくとも、もう1人必要じゃのう」
烏禅の口振りはまるで何かを知っているかのようでした。
「心当たりがあるのか?」
「まあ、おそらくお前も知っちょる奴じゃろう」
桃太郎の頭には第一に猿が浮かんできました。
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袁蔵は1人、とある山道を奥へと進んでいました。
「こ~んなところでなにしてんだぁ?」
途中、2人の若者が道を阻むのでした。日が暮れる間近、この時間帯にここらをうろついているということから、おそらく山賊の一味であると推測しました。
「俺に、なにか用か?」
「お、おい!袁蔵さんだ!」
袁蔵が凄むと2人の若者は後退りしました。
「す、すいませんでした!とんだ無礼を!」
「おう、喧嘩を売る相手を間違えんなよぉ?」
しばらく歩くと、焚き火を中心に山賊と思われる輩がざっと20程集まっていました。そこへ近寄ると袁蔵は1人の男に話しかけました。
「いつまでこんなところで油売ってやがんだ?」
「親父!何でここに…」
どうやらその男は袁蔵と親子の関係にあるようです。
「え、袁蔵さん!?」
山賊達は皆、袁蔵のことを知っているようでした。
「もうすでに会ってんだろう?あいつらぁ、すでに覚悟してんだぞ!手前だけいつまで迷ってんだぁ?」
「…桃太郎か!?」
男は桃太郎の名前を口にしました。
すると、袁蔵は昔のことを指して言いました。
「手前があん時のこと忘れてねえんなら、今だって俺と同じこと思ってるはずだ違うかぁ!奴等にされたこと忘れてるわけじゃねえよな!」
男が黙り込むと袁蔵が続けて言いました。
「手前がこいつらのことを考えてここにいんのはわかる。だが今は、今だけはもっと優先することがあるじゃねえのか!……そんなに心配なんだったら、こいつらの面倒は俺が見ていてやる」
「…頭、俺達のことは気にしなくていい。それに袁蔵さんが居てくれるんなら何も心配ねえ」
「親父…お前ら……」
「一度拳を交えた戦友なんだろう?お前の力を必要としてんだろう?…なら、そいつのことを見捨てんじゃねえよ…」
「……くっ、すまん恩に着る!」
男は槍を持つと、袁蔵が言う桃太郎のいる場所へと向かうことを決意しました。そして男が去ろうとすると袁蔵が男の名前を呼びました。
「袁摩ぁ!!」
男が振り返りました。
「死ぬんじゃねえぞ…」
そのまま男、いや袁摩<えんま>は槍を高々と掲げるとその場を後にしました。




