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深・桃太郎  作者: けんしろう
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「さあ…勝負といこうか……」


 犬がそう言うと桃太郎は再び口を開きました。


「でも今、夜中だから」


「むっ、ぐっ…まあいいだろう!早朝にここで勝負だ!逃げるなよ!」


 そう言うと犬は寺から勢いよく出ていきました。桃太郎と雉は目を合わせ、肩をすくめるのでした。




----------------



 

「桃太郎、刀がないじゃろう。木刀を貸そう」


「助かる」


 桃太郎が木刀を受け取ると緊迫した空気が2人を包みました。するといつもへらへらしているように見える雉も静かに見守るのでした。雉はわかっているのです。この勝負がとても重要な意味を持つということを。

 




「開始だ!!」


 仕掛けたのは桃太郎からだ。素早く踏み切り刀が犬に向かい斬り上げられる。すると刀と何かが衝突する音が響く。


「なんだと…」


 刀は犬に届いていなかった。犬の周りには見えない壁が出現し、刀の侵入を防いだ。


「さあ、行くぞ桃太郎…」


 犬が両腕を広げると辺り一面から水が溢れ出す。


(妖術、幻術の類いか……)


「効かねえよ!」


 刀で振り払うと水は弾け飛びその場から消えた。桃太郎は犬から距離をとる。


「ふんっ…この程度なら防げて当然だ」


 2人の距離が離れると今度は犬が仕掛ける。犬が両手を床に当て、力を込めると先程とは比べ物にならないくらい大量の水が押し寄せる。


「なっ……!!」


 辺り一体が水で覆われ、桃太郎は飲み込まれる。水は本堂の戸を破り外へと溢れ出した。


「こりゃあすごいねぇ…。一段と進化しちょる」


 屋根へと避難し戦闘を眺めながら雉が言う。水は大渦へと変わり、その中心に犬が立っていた。


「強力な幻術はやがて現実となる…」


 そして犬がかざした右手が光に包まれる。


「がっかりだよ桃太郎…」


 耳鳴りに似たような音が鳴ったかと思うと、大渦が徐々に凍り始めた。犬の顔には勝ちを確信した表情が浮かんだ。だが雉は何かを感じ取るかのように真剣な眼差しで勝負を見ていた。



「流刀…十六夜の月『水の陣』!!」



 その瞬間、巨大な水飛沫と共に大渦の中から桃太郎が飛び出す。そして、水を纏った木刀が見えない壁を破り犬の目の前に突き立てられる。


「これでもがっかりか?」


 桃太郎が言うと、犬は呆れたように笑い、ゆっくりと術を解きました。互いの強さはその一瞬の攻防で十分理解できました。


「……まあ、いいだろう」


「お前は強い、その力も興味深い。期待しているよ」


 そして2人は握手を交わしました。



----------------



「犬…」


「なんだ?」


 夜になると3人は寺の庭で月を眺めていました。


「お前の本当の名前を教えてくれ」


 桃太郎は月を見上げながら言いました。

 一呼吸置いて犬が答えました。


「神戌〔カムイ〕だ…」


「そうか、神戌改めてよろしく頼む」


 桃太郎は振り返ると雉に目をやりました。


「雉、お前の本当の名前も教えてくれないか」


「やはは、やっとじゃの。僕ぁ烏禅〔ウゼン〕。雉の烏禅じゃ」


「そうか…ありがとうな……神戌、烏禅」


「ふんっ…」


「礼は全てが終ってからじゃろう」



 桃太郎が憂いを帯びた顔で礼を口にすると、神戌は少し照れ臭そうに寝転がりました。

 そして烏禅はいつものように笑うのでした。


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