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深・桃太郎  作者: けんしろう
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雉<キジ>







 

 桃太郎は1人、町に向かって歩いていました。猿との戦いで刃こぼれしてしまった刀を鍛冶屋で直してもらうためです。

 


「こんなはずじゃなかったんだがな…」



 桃太郎の実力から考えると、ちょっとやそっとの衝撃で刃こぼれすることなど有り得ません。

 その桃太郎の刀をここまでにした猿は、かなりの猛者でした。猿を仲間に出来なかったのは、とても悔しいものでした。

 しかし桃太郎はただ引き下がったわけではありません。猿に伝わると信じ、思いをその場へ残してきていたのです。



--------------



 町は見たこともないほどの大勢の人々で賑わっていました。


 この町には、物凄い切れ味の刀を打つ鍛冶屋があると常々耳にしていたのです。




「御免よ」



 鍛冶屋に入ると桃太郎は現場の熱に気圧されそうになりました。

 何百度にも熱せられた釜の前で黙々と刀を打っていたのは、無精髭を生やし、頭に手拭いを巻いた大柄な男でした。


「初めて見る顔だな…」


 その男は鋭い目付きで桃太郎を睨みました。


「この刀を直してもらいたく、この町へ来た…」

 

 桃太郎は男に刀を突きだすと男はそれを手に取り、そして 男はまじまじと刀を眺めながら言いました

 

「こいつぁ…ひでぇ、使いもんになんねえな。一体何に使った」


「いや、ちょっとな……」


「…まあいい、それよりなんでここを選んだ」


 この町にはいくつかの鍛冶屋がありましたが桃太郎の寄ったここはあまりいい評判を聞きませんでした。


「普通ならこんなとこにはこねえ…訳ありか。目的はなんだ」


「鬼を、鬼を倒したい」


 桃太郎の言葉は一切濁りのないものでした。その言葉をしかと受け止めた男はよしと向きを変え、刀を打つと言いました。


「ここを選んだのは正解だぜ。他じゃあ、あの鬼を切れる刀は打てやしねぇ」


「……鬼のことを知っているのか?」


「なに…昔の話だ」


 それ以上男は何も語りませんでした。桃太郎もそれ以上問うことはありませんでした。


「…どのくらいでできる」


 桃太郎が言うと男は指を2本立てました。


「2日よこしな、2日で最高の刀を打ってやる」


「…頼みます」


「待ちな」


 外へ出ようとする桃太郎を男は引き留めました。


「お前さん、刀が出来るまでどうするつもりだ?」


「仲間を、探すつもりだが…」


「それならここへ行くといい、損にはならねえはずだ」


 男は1枚の紙切れを渡しました。その紙切れには『雉天宗本寺<じてんそうほんじ>』と書かれていました。


「わかった」


 そう言い桃太郎は歩き出しました。




--------------





 そして桃太郎は雉天宗本寺と名札の掲げられた寺へとやって来ました。


「やはは、何用じゃ?」


 すると寺を囲む塀の上から声がしました。塀を見上げるとそこには寺の若い僧がこちらを眺めるようにしゃがんでいました。


「ここの住職と話がしたい」


「わしがその住職じゃけえ」


 若い僧はへらへらとしていたため、桃太郎は軽くあしらおうとしました。


「そんなわけないだろう」


「それがそんなわけあるんじゃ」


 すると若い僧が桃太郎の視界から消えた。再び声が聞こえたのは桃太郎のすぐ横だ。


「なるほど、袁蔵<えんぞう>の旦那の知り合いか」


 その若い僧は先程、鍛冶屋の男<袁蔵>に渡された紙切れを手にしていました。


「…いつのまに!」


 桃太郎が刀を抜こうとするとその若い僧は刀の鍔にソッと手を置いた。


「僕ぁ戦うつもりはない、話聞こか」


 両者は動かず目を見合った。ここで戦えば両者ともただでは済まないのは容易に察せた。

 しばらく沈黙は続き、やがて桃太郎が口を開きました。


「……実はな」


 桃太郎はこれまでの経緯を説明すると共に、その若い僧に仲間になってくれないかと頼むのでした。実力が相当のものであることは先程の一瞬で立証済みです。


「ふむ、仲間んなっちゃる」


「いいのか?」


 あまりにあっさり仲間になると言い放つその若い僧に桃太郎は少し驚きました。


「やはは、僕も鬼には興味があるんじゃ」


 ニタリと笑うその顔には複雑な感情が入り乱れているように感じました。

 

「恩に切る…」


「いいさ、お互い様じゃ」


「俺は桃太郎だ」


「僕ぁ、雉で通っちょる」



 そして2人は握手を交わしました。




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