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深・桃太郎  作者: けんしろう
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それからと、これからも


 すごく心地が良い。体全体が軽く感じる。

 男の元まで自然と体が動いた。意識していなくても気配を辿っていたのだろう。



「のこのこと…際限の無い奴だなあ!!」


 男が叫んだ。


「いいや、これで最後だよ」


 

 桃太郎が踏み込み、刀と刀がぶつかり合う。



 (…っ!早い!!)


 男は自分が押されていることに気付く。

 今度は桃太郎が刀を弾いた。



「俺が…力負けだと!?何を、何をしたああ!!」

 

 


(体が動く…)



 桃太郎は半歩分後ろに下がって、ゆっくり息を吸い込んだ。






     流刀 破常の太刀『神無月』




 先程は避けられたが、桃太郎の早さは数倍に跳ね上がっているため今回は見事に決まった。男の右肩と左脇を捉えた。




「ぐっ!!くそぉぉ!!」



 2歩、3歩と男は後ろに下がり片足を地に着いた。傷口からは血がボタボタと流れ落ちている。



「お前はもう、俺には勝てない」




「くっ!!!があああああ!!」



 男の体からは邪悪な気が溢れ、刀と腕が無理矢理に接合された。

 これで、どちらも最後の力を解放した。



 

 ここで決まる。






「があああああ!!!」



 男は刀で空間を斬る。その斬撃が桃太郎の元まで伸び、分裂し襲う。


 桃太郎はそれを全て跳ね返すと男との距離を詰める。そして、一気に畳み掛ける。


 




       流刀 不視の太刀『新月』


 


 刀を少し揺らすと男の前から桃太郎の姿が消えた。




「はっはあ!!それはすでに見てんだよ!!」



 男は後ろから振り下ろされる桃太郎の刀を受け止めた。



「知っているさ」


 

 桃太郎の姿が再び現れると同時に、男が受け止めていたはずの桃太郎の刀は、すり抜け胸を斬りつけた。



「な、ぜ、だぁぁ!!」




 桃太郎の剣技はお爺さんから教わったものだ。この戦いで、男に初めて技を使ったとき男は、まるでその技を知っているような口ぶりをした。そしてお爺さんの顔を幻覚で作った。

それが何を意味するのか桃太郎は分かっていた。


 おそらく村を襲ったとき、或いはこの島へ村の者を拐ってきたときに。

 この男はお爺さんと戦っているのだ。


 そして、お爺さんは、負けた。


 最後まで戦い、村を、皆を守ろうとしたのだ。

 







「お前は!どれだけの思いを!どれだけの思い出を奪ってきたんだ!!」



 刀を構える桃太郎からは自然と涙がこぼれていた。




「弱ぇから喰われるんだろうがあ!!」



 

「黙れ!お前は、もう許さねぇ!!」



 






       流刀 終の太刀『満月』





 

 辺り一面を光が包み、刀に収集される。

 夜空に浮かぶ満月のごとく刀が異様に輝く。

 桃太郎はその刀で円を描き、男に刃先を向け刀を肩の位置で構えた。







 そして―――


 

 放たれたその一閃は何よりも美しく、ただひたすらに空を走った。




「なっ……くっ…………そ、がぁ!」




 男の構えた刀は盾の意味をなさなかった。

 倒れた男の体は刀同様、胴体から2つに分かれた。


 


 力をひどく消耗した桃太郎は刀を杖にし、膝を地に落とした。




「く……そ…くそくそくそぉぉぉ!!!」

 


 男はずりずりと腕を使い、後ろ向きに逃げようとした。



「こうなったら、鬼を…無限に増やしてやる……それでお前らは終わりだあ!!」



「てめぇ、そうなってもまだ力が使えるのかっ……」



 男は両手を前にかざし宙に魔方陣を浮かべた。だがそれはすぐに砕け散り、その術は発動しなかった。



「あああ!!狼ぃぃぃぃ!!!」

 



(これが、狼の言っていた…)

 

 神戌は気付いた。

 男の術が発動しなかったのは狼が死に際に、それを抑える術を予め展開していたからだ。



「ふ…はっはっはっはああ!!!」

 


 男は高らかと笑った。


「あいつが裏切ることくらい、読んでいたわ!!」


 男は術を直接発動出来ないときに備え、間接的に展開させる術式を練り込んでいた。



「すでに穴は開いた!ここにはもうじき数多の鬼が押し寄せる!」

 





「残念じゃが、それはできん」



 その声は、桃太郎と男の頭上から聞こえた。



 烏禅だ。



「な……ぜ…………!!」


 神戌は目を見開いた。



「その穴は塞いだ。もう終わりじゃ。眠れ」



 烏禅は上空から勢いよく男の胸に錫杖を突き立てた。



「くっ…そがああああああ!!!」



 男からは邪気が弾け、そして、力無くその場に体を倒した。





 烏禅のその一撃が戦いに終わりを告げたのだった。








――――――――――――――――――――






 烏禅は死んでいた。見間違えや勘違いなどではなく、事実としてあの場で死んでいる。

 だが烏禅はここにいた。紛れもなく本人の気を纏って、そしてこの戦いに終止符を打った。

 神戌は息を飲む。


「お前…まさか…禁術に手を出したのか……!!」



「仕方がないじゃろう…」



「仕方がないって…お前…っそれは……!」



「ここで終わらせるしかないんじゃよ。なんとしても、だ」



 烏禅の鋭い目付きがこれ以上の詮索を拒んだ。




 禁術と呼ばれる術はこの世に『十二』存在する。勿論誰でも使えるわけではない。術者として何年も修練を積んだ者、その中でも秀でた才能を持つ者にしか扱うことはできない。それは烏禅も例外ではない。



「何故お前がそれを、それを使えた…!」



「僕ぁこう見えても用心深くてねぇ。…何のために、神戌、わざわざお前の村へ足を運んだと思ってる?お前の力だけが欲しいなら手紙でもなんでも、どちらにしろお前は来たじゃろう…」

 


 神戌の中で全てが繋がった。



「大爺様……か……」


 

 

 禁とされている術には、それが人道を外れる一から六までの『外道』と、または術者への副作用が大きい七から十二までの『自壊』がある。



 烏禅が発動できたのは獅子神村の長である大爺様からの術の付与によるものだ。

 そして今回烏禅が発動した術は後者の、術者への副作用つまり術の反動の大きい『自壊』の第八。




「――狂命…」

 

 

 神戌が口を動かした。



 

 その術は、自分の命を代償に強大な力を引き出し、命が燃え尽きるまで戦う狂戦士へと導くもの。そして力を使い果たした後は死ぬ。



「だから…それで死んだんじゃよ」



「なっ…それじゃ何故――」


「何故、またこうして生きているのか?じゃろ」



 神戌、桃太郎を含めその場の全員に執念はあった。鬼を倒す。もう二度と村を襲わせないためにも。


 だが烏禅のそれは少し異常に感じた。



「『外道』の第六 自縛転生。それが僕の犯したもう一つの禁じゃ」



 それは誰かからではなく、自分で自分を殺したときにのみ発動する。息を吹き返す代わりにその地から外へは出られなくなる。この場合は、ここ鬼ヶ島になった。

 


 桃太郎が問う。


「ということはお前はもうここから…」




「ああ」



 烏禅は以前のように笑う。本当に覚悟を決めていたのは烏禅だけだったのかもしれない。

 誰かがやらねば止められない。ならば自分が全てを被ってやろうと。

 





「まあ、出られないなら、ここに住めばいい話じゃ」



「……っいや、そんな軽く言うな!だいたいお前はいつもいい加減で!死んでも変わらないんだな!」



 神戌の中で、塞き止められていた何かが弾け、いつものように憎まれ口を叩いた。


「おい、烏禅も生き返ったところで悪いんだが…ちょっとまずい事態かもれん」



 袁摩は大きな岩に登り、おそらく自分達が上陸した海岸の方を見て言った。



「だいぶ潮が満ちてる。だから船なのか」



「船……ってことは、やっぱり来るんじゃな」


 烏禅はこれを予想していたようだった。


「なんだ?」


「また、敵か」


 神戌と桃太郎は船を警戒した。



「いや、敵じゃあねえな」


 袁蔵が胸の傷を押さえながら上体を起こした。その時袁蔵の顔は少し笑っているようにも見えた。


「敵じゃあねえが、嫌なやつらだ」


 


 そうこうしていると、どうやら船は島へと着たようだった。



「袁摩、何隻だ?」


 神戌が袁摩の方を見る。

 


「あー、2…いや30はあるか」



「30!?」


  

「ただ、ほとんどが木材やらの荷物を運んでる」

 


 袁摩はひょいっと岩から飛び降りた。


 

「いつも事が終わるとすっ飛んでくる」


 袁蔵がふらつきながら立ち上がった。


「おい、大丈夫か」

 

 桃太郎が肩を貸す。


「ただ、逆らっちゃならねえってのはその内わかる」



 船からはガヤガヤとたくさんの人が降りてきている。そちらへ向かって桃太郎ら5人は歩いた。

 すると、一人の男がこちらに気付き駆けて来た。



「いや~、どうもどうも」


 桃太郎の手を握り頻りに礼を言った。


「貴殿方が鬼を倒してくれたんですよね!ほんと助かりました~!いや~鬼が村を攻めてきたときはね、どうなることかと思いましたよ!」



「あ、ああ」


 桃太郎はその男の勢いに少したじろいだ。


「今さら、何をしに来たあ?」


 袁蔵が男に向かって笑いながら凄んだ。


  

「あっ、申し遅れました。自分は8代将軍 黒田政孝 の命によりこの地を開拓しに参りました。参謀を勤めます、倉敷と申します。貴殿方には同行を願います」



「どこへ行くって言うんだ?」




 桃太郎は首をかしげた。



「決まってんだろう」



 袁蔵がそう言うと倉敷も同調した。



「ええ、幕府ですよ」

 



―――――――――――――――――――――






 桃太郎は北方のとある丘の上に立っていた。


 そこから見えるのは鬼の住みかと思われる建物と無数の鬼。

 桃太郎はソッと目を閉じる。








「我々に協力してください。褒美は十分に与えます。異論は受け付けません」桃太郎、神戌、袁摩は倉敷に連れられて入った居酒屋で、そう言われた。倉敷は桃太郎含め3人に有無は言わせなかった。




 鬼は国全土で脅威となっているため、その存在は幕府にとっても邪魔で仕方がなかった。そして、鬼がいる限り国中の人々は怯え続けなければならない。



「黒田将軍は将軍なられてから、裏である政策を進めて来ました。それは、古来よりこの国に蔓延る鬼を根絶やしにすることです」


 鬼の本拠地である鬼ヶ島を桃太郎達が潰したことで事態は急速に動き出したという。


 桃太郎がこれを断る理由はなかった。神戌と袁摩も同様だった。


 







「ったく、人使いが荒いぜ」



「遅いぞ神戌」


「お前は速すぎるって」


 桃太郎の後ろから汗をかきながら神戌が声をかけた。



「倉敷かま何か言ってたか?」



「こっちに軍は寄越せないとさ」



「……まあ、いなくても大丈夫だろう」

  

 倉敷は桃太郎達と歳が近いため、親しくなるのに時間はかからなかった。

 だが仕事、鬼退治のこととなると、とたんに厳なった。

 つまりはそれだけ重要だということだろう。




 

「ところで気になってたんだが、何故幕府は裏でこうして動かなきゃいけないんだ?」



 神戌は顎に手を添えた。



「表立って軍を動かせば、幕府が手薄になってることをみすみす教えているようなものだ。裏で片付けてから公表した方が安全だろう」


 桃太郎が横目で答える。







「袁摩は、将軍の護衛…だったか?それはそれで大変だな」


 

「絶対にやりたくねえ」


 神戌は腕を交差した。





 

 そして、鬼ヶ島は今や要塞と化していた。もちろん鬼に対抗する軍の指揮と、鬼と渡り合える兵士の養成が目的だ。

 つまりそこを基点として全国の鬼を狩るのだ。


 禁術によってその島から動けなくなった烏禅は、その要塞の総隊長として兵を育て、島を守り続けることとなった。

 




――――――――――――――――――――




 





「ここを片付けたら5人で飲みにでも行くか…」       


 桃太郎は丘の上から逆さに飛び降りた。


 神戌も続く。


「5……ええ!?倉敷はいらねえって!!」



「そう嫌うことないだろう、もう仲間だろ?あいつも」



「けっ、胸くそ悪ぃー」







 音もなく着地をすると、桃太郎は刀を抜いた。




「さあ、行こう―――」





 人々の思い出を守るために。




 




 だよね、お爺ちゃん。

 




えー、長い間ありがとうございました!

とりあえずここで完結となります。やはり作品を書き上げるのはとても大変でしたが、今はとても満足感があります!

たくさんの人に目を通してもらいたい所存です!

今までありがとうございました!!

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