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深・桃太郎  作者: けんしろう
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吉備団子





 桃太郎を授かってから10年ほど経ち、お婆さんの体調もあまりよくない日が多くなってきました。それでも桃太郎のためにと、お爺さんがお婆さんを助けながら2人で一生懸命働き、桃太郎を育ててきました。





「おい、桃太郎ー」


 お爺さんは大きな声をだし桃太郎を呼びましたが、返事がありません。


「お爺さん、桃太郎なら川へ行きましたよ」


「そうか、それならわしも行ってみるとするかい…」

 

 いつもは家の中か家の周りにいるのに、桃太郎は珍しく川へと下りていったのでした。

 しばらく歩き川に近づくと、川の方から何やらバシャバシャ音が聞こえてきました。


「これ、桃太郎~何をしとるんじゃ」


 お爺さんはすぐに桃太郎だと気付き声を掛けました。


「ああ~もう、お爺ちゃん来ちゃったら意味ないじゃんせっかく驚かせようと思ったのにー」


 桃太郎はグングン大きくなり、お爺さんの背丈をすぐに追い越してしまっていました。顔立ちも整い、しっかりものに成長した桃太郎はお爺さん、お婆さんのかけがえない宝物でした。


「こりゃすまんかった、おおこれを全部お前が捕ったのか」


 川辺の草の上では10匹近い魚が勢いよくその場で跳ねていました。


「うん、いつものお礼と思ってね」


 桃太郎は無邪気に笑うと川から上がり、魚を手際よくたらいに放り込みました。


「これでお婆ちゃん喜ぶかな」


「ああ、喜ぶとも。今日は宴じゃなあ」




 また数日後のこと、お爺さんが目覚めると桃太郎は外で木の棒を振り回していました。


「あ、お爺ちゃん」


「何をしとるんじゃ」


「お爺ちゃんの部屋にあったこの書物を読んでたら興味出ちゃってさ」


 桃太郎は剣道に関する本をお爺ちゃんに広げて見せ、そしてまた黙々と木の棒を振り回すのでした。


「まったく……」


 お爺さんは呆れてしまいました。


「桃太郎や、そう闇雲に振っても上達せんわい。どれ、ワシが一から教えてやろう」


「え!お爺ちゃん剣道できるの!」


「昔から剣だけは握ってきたもんじゃ」


「お爺ちゃんすごい!」


「いつまでそんな棒切れなど持っとる!早く裏に立て掛けてある木刀を2本持ってきなさい!」


「はーい」


 お爺さんは若い頃から剣を振り続けてきました。いざというときに体が動くように、毎日毎日欠かさずに鍛練してきました。

 お爺さんは結局、その剣を使うことはありませんでしたが、自分が磨いたその技を桃太郎に継がせることができればそれでいいと思うようになりました。





 また半年ほど経ち、桃太郎の剣さばきも大分見違えるようになってきました。


「お爺ちゃん、お爺ちゃんの剣ってこれに書いてあるのとまた何か違うよね」


「うむ、その書物のままじゃと穴が多すぎての、我流でこれまでずっと付け加えてきた」


「だからかー」


「おかげで大分変わってしまったがのう。じゃがな、この剣は何者にも負けることがないこの世で唯一無二の剣。ワシはそう思っとる…」


 お爺さんは少し悲しい顔をしました。ですが、桃太郎には何故かわかりませんでした。





 それから5年が過ぎ桃太郎は誰から見ても立派な大人へと成長しました。毎日欠かさず剣の鍛練も続けてきました。

 

「桃太郎、今日も洗濯に行ってくれんか?婆さんは外に出るのが一苦労じゃ、代わりにやってきておくれ」


「…すまないねぇ………」


「全然平気!行ってくるね!」


 お婆さんの体はもうボロボロで洗濯に行くこともできなくなっていました。桃太郎はここまで自分を育ててくれたお爺さん、お婆さんにせめてものお礼と毎日せっせと働いていました。


 




 洗濯が終わると桃太郎はウキウキとした足取りで家へと帰るのでした。今日は1段と力を入れて洗ったので、早くお婆さんに見せて、僕もこんなに綺麗に洗えるようになったと自慢してやるためです。




 …………ですが桃太郎の目に映ったのは、それは…それは無惨なものでした。

 村が無くなっていたのです。いえ正確には全て壊され、元の村の面影はほとんど感じられませんでした。


「ど…ういうこと……だ……」


 桃太郎は洗濯物を乗せたたらいを落としてしまいました。顔は青ざめています。自分の家も見当たりません。

 頭の中には最悪の状況がよぎりました。


「……お婆ちゃん!!」


 桃太郎は家のもとあった場所の瓦礫を力を振り絞りながらどかしていきました。

 手が擦り切れ、血で赤く染まっても構うことなく続けるのでした。

 


「お婆ちゃん!…お婆ちゃん!」


 程なくして、瓦礫の中から出てきたのは変わり果てたお婆さんの姿でした。当然返事はありません。ぐったりとしたお婆さんを抱き抱えながら桃太郎は大声で泣き叫びました。こんなに大声で泣いたのは初めてのことです。

 


 そしてお婆さんのすぐ近くには泥だらけになった吉備団子が何個も転がっていました。その中には作りかけと思えるものも混じっていました。



 

 桃太郎はお婆さんの作る吉備団子が大好きでした。いつもことある度にお婆さんに吉備団子をせがんでは作ってもらっていたのです。



 お婆さんは自分の代わりに洗濯をしに行ってくれた桃太郎にせめて自分に出来ることを、と桃太郎の大好きな吉備団子を作って桃太郎の帰りをまだかまだかと待っていたのです。



 桃太郎は泥だらけになった吉備団子を手で鷲掴み勢いよく口へと運びました。

 ジャリジャリと音を響かせながら吉備団子を食べるのでした。

 


「また……うっ…お婆ちゃんの……ひぐっ…吉備団子…が……食べだい……」



 涙も鼻水も止まりませんでした。桃太郎はもう2度とお婆ちゃんの吉備団子を、食べることは出来なくなったのです。


 


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