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深・桃太郎  作者: けんしろう
17/20

昔から







(おかしい…)



 








(何故だ…鬼が消えない!)





 狼の言葉通りなら鬼はそろそろ消えてもいい頃だった。

 だが消えていない。術は確かに発動させていたはずだ。


 

 神戌は洞窟を裏側から抜けるとすぐに鬼と出くわし戦闘に入っていた。






 狼が嘘をついていたのか?


 いや、それはない。あの術は本物だった。

 

 それなら何故…





「っらあ!!」



 襲ってきた鬼を倒すと神戌は鬼の気配の多い方へと向かった。

 桃太郎の元には戻らない。どうやら味方してくれている人がいるからだ。今は信じて任せるしかなかった。

 それよりも狼の言葉が気になっていたのだ。袁摩か烏禅か、どちらかが鬼に呑まれると言うのだ。急がなければ手遅れになる。いや、もうすでに手遅れなのかもしれない。




 しばらく走ると徐々に鬼の数が増えていく。狼の話通りこの鬼達がつくりだされたのだとしたら無限にいてもおかしくない。


 このままでは戦いは、時間が経てば経つほどこちら側が不利になっていく。

 初めこそは敵を撹乱するため4人は散らばったのだが、今は敵にバレている状態。1人で戦うことに意味はない。

 最初の数分ですぐに合流するべきだったのだ。







 


 神戌が着いた先で戦っていたのは袁摩だった。



「袁摩!状況はどうなっている!」



「神戌か!善戦…とまではいかないがだいぶ押しているはずだ」


神戌は袁摩の背中側1面の鬼達を氷漬けにし、一蹴した。そして袁摩の近くによる。



「ここは任せても良さそうだな」


「ああ、これからどうする気だ?」


「お前が無事だということはピンチなのはどうやら烏禅の方のようだ」


 神戌が続けて言う。


「俺は烏禅の方へ向かう。お前は桃太郎の方を頼む。おそらくそう長くは持たない」


「わかった」



 2人はそれぞれの方向に鬼を削りながら進んだ。







――――――――――――――――――――――





 神戌は異常な光景を目の当たりにしている。



(これは…誰が……まさか全部烏禅がやったのか?)


 

 おびただしい数の鬼の屍。

 数百、いや見渡す限り千は軽く越えている。

 神戌は鬼の体を確認する。近くに転がっていた鬼は一撃で心臓部を貫かれている。また、その隣のものは胴体を真っ二つにされている。中には大きな爪痕のようなもので抉られているものまであった。



「いったいどんな戦い方してやがんだ」


 

  こちらからの鬼の気配を察知できなかったのは、すでに死んでいためだった。

 神戌は烏禅のいそうな場所を目指す。

 この時点で異変が起こっているのは明白だった。烏禅は元々、気配をコントロールしてはいたが術師である神戌は僅ながら感じとることができていた―が、今は全く感知できない。


 少し前までは烏禅のいる場所はわかる程度には感じていた。だが、洞窟から袁摩の所へ行った頃にはすでに消えていたのだ。

 

 最悪の事態が頭をよぎったすぐ後のことだ。

 そこでは鬼が、いや鬼らしきものが山積みになっている。



 神戌は喉を締め付けられる。



 その鬼の山を背中に烏禅が座っているを見つけた。

 手足をだらりと地面に着けている。



「おい!烏禅!!」


 神戌が駆け寄る。そのとき烏禅はすでに虫の息だった。


「っ、待ってろ!今傷を治すからな!」


「ああ、神戌…か……」


 烏禅は神戌の声を聞くと笑った。烏禅は眼が見えていないようだった。



(狼が言っていたのはこの事だったのか……!!)


 烏禅の体は肩や腕、足などの一部が肥大し皮表は固くなっていた。そして頭からは角が1本生えていた。



「じっとしていろ!!今術をかけ―」



 神戌が術をかけようと手を伸ばすと烏禅はソッと手を添えそれを制止した。


「これは…もう解けんじゃろう……」


 力の無いその声は今にも途絶えそうだった。


「だめだだめだだめだ!なん…でお前が諦めるんだ…!」


 神戌の目元が熱くなる。


「そういう術じゃ…引っ掛かった僕が悪い……」


 神戌が強引に術を発動させる。だが烏禅の容態は一向に良くなる気配がない。


「っああ、ああ!あああ!!」


 神戌は自分の力不足を心から悔やんだ。



「……神戌」


 烏禅は再び笑う。


 烏禅は「自分は助からない。無駄な力を使うな」と言っているのだ。

 それを察しそして、神戌は術をかけるのをやめた。

 


「神戌…泣いちょるんか……?」


 バカにするかのように烏禅が微笑む。


 神戌は黙っている。言葉が出てこないのだ。




「神戌…よく聞け…」


 烏禅が続ける。


「僕ぁ先にいく…お前は最後まで…桃太郎を、見届けるんじゃ……桃太郎の…傍で」



「………ああ」


 神戌は烏禅の拳を握る。

 神戌の声は震えていた。



 両親を殺され、村を焼かれ本当は誰よりも鬼に、あいつらに恨みを持っていたはずだ。それがなんで、こんなことに。


 烏禅は昔から掴み所のない生き方で、散々な目にあわされてきた。どこに行っても何をしても皮肉を言われてばかりだった。一緒に遊んでいた時もいつも邪魔ばかり。山の中に1人で置いていかれたり、川で溺れさせらたりもした。祭りの時にも、これまた川に突き落とされた。

 考えないようにすればするほどあの時の情景が頭に浮かぶ。



「神戌…覚悟をしてきたはずじゃ……」



「……わかっている」



 覚悟はしていた。いつ死ぬか分からない。この戦いはそういうものだ。


 わかっていたはずなんだ。







「なんで今なんだ…なんでお前なんだ……!!」





 







 そして――














「…ごめん……よ………」













 そう言うと、烏禅の腕から力がフッと抜け、地面に落ちた。

 










「ああ…うああ…!あああ!…うああぁぁぁ!!!」







 神戌はまるで子供のように顔を歪め泣きじゃくった。



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