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深・桃太郎  作者: けんしろう
16/20









 



 ごめん……








 みんな……ごめんな…………







 もうだめだと諦めかけ、死を覚悟したその時だった。


 









































「それでいいのかぁ?桃の字よ」




 その声には聞き覚えがあった。



「え…袁蔵の…旦那!」



 袁蔵は桃太郎に振り下ろされるはずだった刀を前腕の防具で受け止め、仮面の男を盛大に殴り飛ばした。



「どうした。ひでぇやられようじゃねえか」




「な…ぜ……」




「なーに、別にお前らのためって訳でもねえ。ちょっとな…」



 そう言うと袁蔵は少し複雑な表情を浮かべていた。怒っているとも、悲しんでいるともとれる。はたまた何かを懐かしんでいるようでもあった。




「ほらよ、お前の刀だ」


「くっ、すまん……」



 袁蔵に刀を渡されると桃太郎は再び立ち上がった。




「お前はまだその刀の力を引き出せていない」


「刀の力だと……?」


 


「ふっ、俺の戦いをよく見ておけ」


 袁蔵がそれを言い終わるや否や、吹っ飛ばされていたはずの男が襲いかかってきた。袁蔵は瞬時にその男の顔面に裏拳を叩き込む。


「っらあ!!」


 よろける男の横っ腹めがけてもう片方の拳をねじ込み、体が少し浮き上がったところを回し蹴り、再び遠くへ吹っ飛ばした。



(この人は…つ、強い……!!)


 神戌や桃太郎を圧倒していたあの男と互角、いやそれ以上の強さを袁蔵は見せつけた。



(勝てる!…勝てるぞ…!!)




 







―――――――――――――――――――――――





「危なかったな。いや実に危なかった」


 神戌は洞窟の奥を目指し歩いていました。仮面の男が背後に立った瞬間、幻術を廻らせ、やられたように見せ掛けたのです。

 2人がかりですら倒せるか分からない相手を前に、桃太郎を置いて離れるのは、賭けと言う他ありませんでした。

 


(だが…こっちを先に片付けなければならない。なんとか持ちこたえてくれ桃太郎!)



 洞窟の中はと言うと、入り口付近は暗かったものの奥へ進むにつれ、次第に明るくなっていくのでした。

 普通ならば、太陽の光が届かないこの場所が暗闇に包まれていないはずがありません。

 

 この洞窟の岩石には特殊な術式が練り込まれていることに神戌は気付きました。

 これは明らかに人為的なもので、この洞窟の岩石全てに術をかけることが出きるレベルとなると、神戌に匹敵する程の術者であることが感じ取れました。







 そしてその術者とは―――





「やはり…お前か。狼」



「やあ、よく来たね」



 洞窟の最深部の部屋らしき場所に狼があぐらをかき1人で座っていて、その周りには円上に術式が描かれていた。


  神戌の心境は比較的落ち着いていた。それは狼に戦う意思が見られなかったこと――と、言うよりも狼自身に気配、存在感が無かったためである。

 気配を消しているとかそういう訳ではなく、[ただそこにいる]だけのような感じがした。





「あの時、確かに殺ったはずだが?」



「その通りだ。僕はあそこで死んでいるよ。今の僕は、僕の意識による思念体―いや幽霊と言った方が分かりやすいかな」




 狼の声色は戦っていた時とはまるで違いふわりと頭の上を通っていく、透き通るようであった。

 この状況からすると、狼の言う幽霊という言葉を飲むしかないだろう。




「何をする気だ?返答によっちゃあ焼くことになるが」



「そんなに気張らないでくれ。これはお前らのためにもなる」



「俺達の?その怪しげな魔方陣が、か?」



「これは……鬼にかけた術を解くための術式なんだ」



「やはりお前だったのか!鬼から生気が感じられなかったわけだ。しかし何故、今さらそれを解こうとしているんだ?」



「気が…変わった…」



「……は?」



 何を言っているのかいまいち理解が出来ないでいる神戌を察して狼は続けて言う。



「僕に止めを刺した、あの桃太郎とかいうの。あいつに未来を見た。それだけ」


 狼は笑った。

 その笑顔は狼が狂う前の、幼かった頃に一緒に遊んだ、その時に見せた笑顔のままだった。

 記憶の断片に残る無邪気な笑顔が神戌の心を少し揺さぶった。



「お前は…もう消えるのか?」



「はは、なんだい?ここに来て情をかけるのかい」


 狼が笑う。




「まあ、消えるだろうね。僕の役目ももうじき終わりだしね」



「そうか…。お前は桃太郎に未来を見た、と言ったがそれはどういう?」



「あいつなら、あの方を倒せるかもしれないと思った。負ける確率の方が圧倒的に高い、その時はその時。でも、もしかしたら勝てるかもしれない。それに賭けてみたくなったのさ」



「あの方ってのはお前と同じ仮面を着けていた、馬鹿みたいに強い奴か?」




「そう、あの方は異常だよ。1つ…教えといてやろう」


「なんだ…?」



「今のままじゃ桃太郎はあの方には勝てない」



「今のままじゃ…ならどうすれば良いんだ?」



「それはわからない」


「なんだと?」



「いや、正確には言ってどうにかなるものじゃない。全てが…桃太郎次第なんだ」



 神戌は黙り込んだ。確かにあのままじゃ一向に勝てるような気はしない。だが、わからない。何をどうしたら良いのか。こればかりは狼の言う通り桃太郎に任せるしかなさそうだった。





 そうしているうちに狼の周りに描かれた魔方陣が異様な光を放ち始めた。


 そして――



「今……鬼にかけていた術を解いた。それに鬼達は直に消えるだろう。あれは元々、あの方が造り出したもの。この術を解けば形を保てなくなる」



「なっ…!?」


 狼の言うことが本当ならあの方、つまり今桃太郎が戦っている男の力はとてつもなく強大なものだ。ますます勝機が薄れていく気がした。




「すまないが……」


「次はなんなんだ?」




「桃太郎ともう2人、仲間がいるだろう?」


「…ああ」

 

 神戌の頭には袁摩と烏禅が浮かぶ。



「そのうちの1人なんだが、もう手遅れに近い。鬼に呑まれるのも時間の問題だ」



「鬼に!?どうゆうことだ!」



「急いだ方がいい。あまりいい状態じゃない。…本当にすまない術を解くのが少し遅かったようだ。……………どうやらここまでだ」



 そう言うと狼の体は展開されていた魔方陣と共に光となり砕け、そして散った。




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