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御令嬢と葛藤





 

公爵様から衝撃のお話を受けてから一週間が経ちました。王城だなんて恐れ多いと公爵様に言いましたが、婚約者のワタクシも招待されているらしく一緒に行かないとダメみたいです。


「……王城の舞踏会だなんて……ワタクシにはムリです」

「お嬢様、何をおっしゃっているんですか。小娘共にセリシア様の婚約者はお嬢様しかいないと思い知らせてやるんですよ」

「ヘレナ……?」

「事ある毎に手紙やらオカシナ貢物を送りつけて、処理するこちらの身にもなれってんですよ〜……」

「ク、クリスさん?」


 グッと拳を握り燃えるヘレナとワタクシの手を握りながら遠い目をしたクリスさんから何やら不穏なオーラを発しているのが分かります。



「さぁ、お嬢様。もう一度最初から」

「は、はい」

「フローラルさま、私に身を任せて下さいね?」

「……っん」

「クリスティーナ!」


 クリスさんがワタクシの手の甲に口付けて妖艶に微笑んでいます。何でしょう、すごくゾクっとしましたっ!


「お顔が怖いですよ〜、侍女長(ヘレナ)さま〜」

「全く、貴方ときたら……」

「足元ばかり見ないで私を見つめて下さいね〜。フローラルさま〜」

「はっ、はいっ……」


 ステップを踏んでクルクル回り、舞踏会のおさらいをしていきます。クリスさんは男性パートに慣れているのでしょうか? 巧妙なリードをされながらそんな事を思いました。


「フローラルさま? まだ考え事ができる余裕があるんですね〜?」

「今日はもう少し難しいものをやりましょうか」

「えっ、え、え??」


 二人のにこやかな笑顔に薄ら寒いものを感じながら、今日も厳しいダンスレッスンに明け暮れました。……あ、足がもう限界かもしれません。




 * * *




侍女長(ヘレナ)。レッスンに熱が入るのは結構ですが、フローラルお嬢様の限界を見極められ無くてどうするのですか」

「はい……。申し訳ございません」

「クリスティーナ、いつまでフローラルお嬢様の手を握っているつもりですか?」

「っ……すみません」


 ワタクシの横にはしゅんとうな垂れたヘレナとブルブル震えるクリスさん。目の前には執事服をビシッと着こなす、顔は笑っていますが声音と目が極寒のセバス様。


「貴女の仕事は何ですか?」

「お嬢様が何一つご不便な思いをなさらない様にする事です……」

「その貴女がフローラルお嬢様を気遣えなくてどうするのですか」

「はい……」


 もう少しでステップができるからとムリを押し通し、通りがかったセバス様に止められるまでその疲労と痛みに気がつきませんでした。二人がセバス様の雷に打たれてしまっています。


「セ、セバス様、ワタクシはだい……っ」

「フローラルお嬢様!」

「お嬢様……っ」

「フローラルさまっ」


 一歩前に出ようとして今までの疲労と靴擦れから、足からカクンと力が抜けてしまいます。前からセバス様に支えられて横からクリスさんに腰を抱えられました。


「す、すいません。力が入らないみたいです……」

「では私が部屋までお連れしましょう。手を離しなさい、クリスティーナ」

「きゃっ、セバス様っ?!」

「二人とも、後で私の執務室へ」


 クリスさんが名残惜しそうにワタクシを離すと、セバス様にお姫様抱っこをされてしまい、それだけ言い残すと歩き出しました。

 恥ずかしくてドキドキする胸を押さえ不安定な揺れに怖くなり、そっとセバス様にしがみ付きました。


「何度も休憩をと言ってくれたヘレナとクリスさんにムリを押し通したのはワタクシなのです。二人とも悪くありません。お許し下さい……セバス様」


 部屋へ向かう途中でセバス様を見上げながら、二人は悪くないと訴えます。


「貴女がそう言うのであれば、彼女達に責は無いのでしょう。ですが、これは主に仕える者としてけじめをつけなくてはならないのです。ご理解下さい」

「セバス様……っ!」

「例え悪かろうと悪くなかろうと、主に怪我を負わせた時点で責任は取らねばならないのです」


 言い募ろうとしたワタクシの言葉を遮り、言葉を重ねられて何も言えなくなります。そうしているうちにワタクシの部屋へ着きました。



 そっと優しくベッドの上に降ろされると、我慢していた言葉がポツリと零れてしまいます。


「……ワタクシのせいで二人が罰を受けなくてはいけないなら、ワタクシが受けます」

「フローラルお嬢様」

「ワタクシは少し靴擦れをして疲れただけですわ」

「どれだけ貴女のその身が尊いか、お考え下さいと申しているのです」

「ですが……」


 セバス様が膝を折り、視線をワタクシと同じ高さに合わせました。


「私が何かしらの責も二人に与えず、セリシア様にフローラルお嬢様が怪我をしたと知られれば、二人がどうなるかお分かりですか?」

「っ!」

「あのお方は貴女に関する事なら容赦なさいません。どうか御心に止め置いて下さいませ、フローラルお嬢様」


 セバス様の沈痛な面持ちに厳しい言葉に、現実を突きつけられて胸が締め付けられました。それでも、それでも二人に罰を与えて欲しくないと思う事はいけない事なのでしょうか……?






続ます。



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