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御令嬢の予感



「ほら、他の男が触れた(ドレス)なんて早く脱いで」

「っ、公爵様はあちらに……」

「私が君を離すとでも思っているの?」

「……」


 首を横に振り、満足そうに笑う公爵様に脱がされていきます。うぅ……、恥ずかし過ぎます。ドレスがストンと床に落ちると、そのまま公爵様の腕の中に捕らわれました。


「……まったく。私が目を離すとすぐに余計な虫が付く」

「む、虫っ。イヤ、イヤですっ、取ってください!」

「もう大丈夫だよ、ローラ。虫は取ったからね」


 虫と聞いて軽く悲鳴を上げてしまうけれど、安心してとまた抱き締める力が強くなりました。虫を取ってくれたのは嬉しいのですが……肌を見せるのは恥ずかしいです。


「そんな顔をして可愛い。ね、ローラは私の理性を試しているの?」

「……んんっ」


 軽く唇が触れて、離れたかと思うといつの間にかソファーの上に押し倒されていました。


「ん……、もっと君が欲しい」

「っ、こう……」


 熱に濡れた碧眼の瞳がワタクシを見つめ、また唇が重なります。こ、これは貞操の危機再びっ!?


「公爵様っ、ワ、ワタクシ寒くなってきたので服を……」

「……私が暖めてあげるよ。おいで、ローラ」


 逆効果でしたっ。どどどどうしましょう! と焦るワタクシとは逆に公爵様はトロトロに蕩けた笑顔でワタクシを見つめています。あぁ、片手で自分の服を脱がないで下さいっっ!

 万事休す、とギュッと目を瞑ると扉をノックする音が聞こえてきました。


「……セリシア様、使いの者がいらっしゃっています」

「後にしろ」

「王太子殿下からの使者ですので、そうはいきません」

「……分かった。ローラ、そこに君のドレスがあるから今日はそれを着て?」

「は、はいっ」

「セバス、ヘレナを呼んでローラの支度を頼む」

「畏まりました」


 溜め息をひとつ零すと、唇が重なり公爵様の舌がワタクシの口の中で暴れまわります。急に深い口付けを落とされたので、力が入らず足がカクンとなってソファーに座らせられました。


「ん……っと。大丈夫かい?」

「……っぁ、……は、い」

「じゃぁ、行ってくるね。良い子にしているんだよ、ローラ」


 満足気にそう言って頭を撫でると部屋を出て行き、数分後に来たヘレナにすごく心配されてしまいました。腰が抜けただけですっ。




 * * *




 今日はアンリが来る日なので、朝からウキウキして待っていました。


「フローラルお嬢様、今日はどうされたのですか?」

「え?」

「セバス様、今日はアンリ様がいらっしゃる日ですよ」

「あぁ、今日でしたか。フローラルお嬢様が随分と嬉しそうなお顔をされていたので」


 セバス様が微笑みながらそんな事を言いました。そ、そんなに顔に出ていたのかしら?

 謝罪をしにアンリと伯爵様が公爵家に来て、お二人の事情を聞いてからは厳しい態度だったヘレナもセバス様もだいぶ和らぎました。


「初めてできたお友達ですもの。会えるのはとても嬉しいです」

「お嬢様……」

「フローラルお嬢様……」


 何故か二人が切なそうな表情をしています。嬉しいと言ったのにどうしてかしらと首を傾げました。




「ご機嫌よう、ローラ」

「ご機嫌よう……伯爵様? どうしてこちらに?」

「んなっ、何で分かるんだよっ」

「まぁ!」

「よく見れば分かりますよ?」


 伯爵様の格好をしたアンリとアンリの格好をした伯爵様がいらっしゃったので、挨拶をして聞いてみました。ワタクシがアンリと伯爵様の違いが分かるので、驚いているみたいです。


「ローラ、凄いですわっ!」

「両親でも間違えるのに……」

「ふふ、ワタクシでも分かりますのにね?」


 何で違いが分かるのかは説明できませんが、お二人と一緒に居るようになってから何となく分かるようになりました。

 あの後から、公爵様に許可を貰ってこうしてお茶をしに二人が来るようになったのです。お友達が一気に二人もできてワタクシは嬉しくてたまりません。


「アンリの好きなお菓子をセバス様が用意してくれましたの」

「まぁ! アルバ様が。嬉しいですわ、ロディお兄様も好きですのよ?」

「……フンっ」

「ロディお兄様! またそうやって……」

「伯爵様は照れているだけですよね?」

「う、うるさいっ!」


 頬を少し赤くした伯爵様が横を向いてプクっと脹れる所は可愛らしい女の子にしか見えません。


「……お二人はどうして着ているのもを交換したのですか?」

「お兄様が、絶対ローラは分からないって言い張るものですから、じゃぁ入れ替わってみましょうと言う事になりましたの」

「まぁ……」

「私もまさか本当に分かるとは思いませんでしたわ」

「伯爵様はアンリよりも少し目尻が下がっていますね?」


 クスクス笑いながらさっき気づいた、伯爵様の目尻の近くに触れました。すると、ボンって音が聞こえそうなほど伯爵様が真っ赤になりました。







続ます。


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