御令嬢と伯爵様
楽しんでください♪
よろしくお願いします☆
「いた、痛いよ、アンリ」
「ロディ兄様、ご自分がした事がどれだけ愚かな事か、理解していらっしゃるのですかっ!」
「ごめんって、アンリ」
「私ではなくフローラル様に謝りなさいませ! それでも伯爵家当主ですか!!」
耳たぶをグイグイ引っ張られ、瓜二つの容姿を持つ男女が私の前で頭を下げながらコント……じゃない、女の子の方が男の子に説教をしています。
……双子っっ!?
皆様ごきげんよう。フローラル・ガーベルです。
それはもう、立派な髪型を従えたアンリ様の突撃を受けてから幾日が過ぎた頃、謝罪したいと伯爵家から連絡があったと聞きました。
「今更なんですかっ。そんなもの、ハエにでも食わせてしまえばいいのですよ!」
「ヘレナ、落ち着いて」
「ですが、お嬢様の滑らかな肌に傷を……!」
「ちょぴっと掠っただけです。もうすっかり治って痕もないですからっ」
「そんなの当たり前です。傷が残るような事があれば、私がヤってやりますわ……!」
ギリギリと手に持っていた布巾を締め上げながら、恐ろしい事を言うヘレナの怒りがヒートアップしていくのを眺めている事しかできません……。ヤっちゃダメですってばっ
「侍女長さま、どうやら色々と複雑な事情があるみたいですよ〜?」
「複雑な事情?」
「なんですか? クリスティーナさん」
「もう、クリスって呼んで下さいよ〜。フローラルさま〜」
「また貴方はそんな言葉遣いで……」
間延びした話し方をしてヘレナに怒られているのはワタクシの新しい側付きの侍女さんです。戦闘(物理)が得意らしいです。自己紹介の時にそう言っていました。とっても情報通で頼りになるお姉さんです。
「……で、お嬢様に怪我をさせておきながら、どんな事情があると言うのです?」
「へ、ヘレナ」
「侍女長さま〜、黒いオーラでフローラルさまが怯えてますよ〜」
「……コホン。失礼しました、お嬢様」
あの一件以来、ヘレナやセバス様にアンリ様にまつわる話はしない様にしてきましたが、どうやらヘレナの逆鱗になってしまったみたいです。温厚な方が怒ると怖いと言うのは本当ですね。あの時のセバス様の笑顔を思い出してしまい、ブルっと震えました。
「お嬢様、上着をお持ちしましょうか?」
「大丈夫です。それよりもクリスティーナさんのお話を、……」
「もう、フローラルさまもイジワルですね〜」
妖艶に微笑みながら耳元でクリスですよって甘く囁かれて、ちょっとドキドキしてしまいました。お色気ムンムンですっ。羨ましい。
「ク、クリスさ……」
「まぁ、お顔が赤く色づいて可愛らしいですね〜。フローラルさま?」
「きゃっ!」
「クリスティーナ」
「は〜い。少しぐらいイイじゃないですか〜」
「さり気なくお嬢様に触るんじゃありませんよ。早く話しなさい」
クリスさんの色気にあてられて、熱くなった顔に自分の手を当て熱を逃がそうとすると腰の辺りをサワサワと触られたのでビックリしてしまいました。
ヘレナにまた怒られて、クリスさんはしょげながら話をしていきます。
「アンリお嬢様がアンリお嬢様ではない?」
「そうなんですよ〜。なんでもご兄妹の方がアンリお嬢様の姿で来ていたみたいで〜」
「まぁ!」
兄妹で使用人の方達が間違われるほど似ているものなのでしょうか? ヘレナにセバス様も完全にアンリ様だと思われていたのに、と首を傾げます。
「フローラルお嬢様、こちらにいらっしゃったのですね」
「セバス様?」
「そんなに慌てて、どうかされたのですか?」
額に汗を浮かべながら早足で歩いてきたセバス様に屈んでもらい、ハンカチで汗を拭ってあげました。
「っ、フローラルお嬢様」
「セバス様、こんなに急いで何かあったのですか?」
「……フローラルお嬢様にこの様な事をさせてしまい申し訳ございません」
「ワタクシが好きでやっている事ですわ」
そのまま頭を下げられそうになったので、急いでそう言って探していた理由を聞くと、すでにエヴァンス伯爵家の方達が公爵家に居るみたいです。
「エヴァンス伯爵家の方はずいぶんとせっかちなのですね?」
「一刻も早く、どうしてもと押し切られたらしいですよ〜」
「クリスティーナ……。まだ伝えていなかったのですか?」
「言おうと思っていたんですけどね〜、今になっちゃいました〜」
頬をポリポリかきながら、待たせておけばいいや〜なんて思ってませんよ〜と力説(?)していますが、ヘレナが頭を抱えています。
「クリスティーナ! どうして貴方はそうなのですかっ。大切な事は早めに言えとあれほど……!」
「侍女長、説教は後です。今はフローラルお嬢様のお召し替えを」
「……分かりましたわ。お嬢様、こちらへ」
「はい」
「クリスティーナ、貴方はこちらに来て私の手伝いをしなさい」
「私もフローラルさまのお手伝いを……」
「クリスティーナ……?」
ヘレナの背後に般若が見えましたっっ! 絶対にヘレナを怒らせてはいけないと心に固く誓ったのは言うまでもありません。
ワタクシが支度を整えて、来客用の応接間に入ると同時に罵声を浴びせられました。
「わざわざ来てやったのに、子爵令嬢風情がボク達を待たせるなんて、いいご身分だな、あぁ?」
「ロディ兄様!」
隣に居たアンリ様らしき方がスパーンと良い音を立てながら罵声を浴びせた男の子の頭を振り抜きながら叩き、その勢いで前のめりになってあらわになった背中をバンバン叩いて、耳を掴んだかと思うと立ち上がりました。いた、痛そうです。
うふふ♪
新キャラ、一人だと思いましたか?
続ます。