御令嬢と御令嬢
新キャラの登場です♪
よろしくお願いします
「困ります、アンリお嬢様……!」
「退きなさい。私を誰だと思っているの?」
「お待ちください!」
「私のセリシア様に付いた害虫は貴女?」
「へっ? あの……?」
庭で侍女長のヘレナとお茶を楽しんでいると、使用人達が必死に止めようと声を荒げているのが聞こえ、振り返るとブロンドの髪に淡い紫水晶みたいな瞳の可愛らしい女の子がワタクシの方に折り畳んだ扇子の先端を向けながらそう言いました。
でも、ワタクシはある一点(……いえ、二点でしょうか?)に目が釘付けです。
……ドリル?
ごきげんよう、皆様。公爵様の遠征の日に逃走を図りましたが、見事失敗に終わったワタクシはフローラル・ガーベルです。変装は完璧なはずだったのに……。
まさか、公爵様が日程を一日早めて帰ってくるだなんて思いもしませんでした。
「ローラ、悪い子だね。そんなにお仕置き……されたいの?」
「そ、そんな事あるはずが、……っんん!?」
私の唇を塞ぎ、髪を優しく撫でながら目を細めてワタクシを見つめてトロける瞳に、公爵様に与えられる熱に頭がクラクラします。思い出すだけでワタクシの身体がジクリと甘く疼きました。
……コホン。あの日以来、ワタクシの周りには常に誰かが側にいる様になり、一人の時間なんて寝る時ぐらいでしょうか? それも公爵様がお仕事で来られない時だけです……。
「……ふぅ」
「お嬢様、お疲れですか?」
「いえ……。お父様とお母様はお元気かしらと思って」
常に誰かの目があると思うと息苦しくてつい、ため息をこぼしてしまったけれど本当の理由は言えないのでそう答えてしまいました。
「お嬢様……。やはり私がセリシア様にお願いして……」
「そんな事をしたらヘレナがどうなってしまうか分からないです! 貴女まで居なくなったらワタクシは……」
ワタクシの側付きの人が何人か入れ替わり、どうしたのか聞いても誰も答えてはくれませんでした。中にはとても仲良くなった方もいたのに。
「お嬢様……」
「だから、ヘレナはワタクシの側にずっといて下さいね?」
「はい……。はい、お嬢様」
涙を滲ませながらヘレナがワタクシを優しく抱き締めてくれました。
抱き締められながら……今更、本当の事なんてますます言えなくなるワタクシでした。
あぁ、違わくはないけれど、違うのにっっ。
「……口がないのかしら? あぁ、虫ケラですものねぇ?」
「アンリ様、どうしてこちらに?」
「お前には関係のない事ですわ」
忌々しそうにヘレナを一瞥して再びワタクシに悪意の眼差しを向けてきます。
害虫と呼ばれているのがワタクシだと理解しましたが、それよりも立派なドリルに目を奪われていてワタクシは言葉が出てきません。
「ちょっと、聞いていますの!?」
「……っあ!」
何も言わないワタクシに苛立ったアンリ様が扇子を振り上げて頬を叩きました。
「フローラルお嬢様っ! ……先触も出さず、ズカズカと足を踏み入れて、ヴァイース公爵家を侮辱されるおつもりですか? アンリ・エヴァンス様」
ワタクシをかばう様に立ち、見た事もないくらいの剣幕でヘレナがそう言うと、顔色をサッと変えて舌打ちする。エヴァンス伯爵家……。確か、ヴァイース公爵家に次ぐ侯爵家と並び立つぐらい大きくなったと言われているお家ですわね?
「私は認めませんわ! こんな田舎臭い小娘がセリシア様の婚約者だなんて!!」
「アンリお嬢様、こちらにおいででしたか。探しましたよ?」
アンリ様がそう叫ぶのと同時に執事長様がにこやかに笑みを浮かべて歩いてきました。ですが、何でしょう? 背中がゾワゾワして寒気がします。
「セバス様っ! どうして、あんな田舎臭い子爵令嬢が公爵家に居るんですの!?」
「黙りなさい、小娘は貴女ですよ。まさか知らないとはおっしゃいませんよね? 伯爵令嬢ともあろうお方が、公爵家当主の婚約者に手をあげてただで済むとお思いか!」
「セバ……。」
「私の名も貴女に許した覚えはありません。どうぞお帰り下さい。後ほど、伯爵家には使いの者を送りますので」
ピシャリとそう言い放つと、護衛の方達が喚き散らすアンリ様を連れて行きました。
「お嬢様! 私がついていながらお守りできず……っ!」
「フローラルお嬢様……。来るのが遅くなってしまい申し訳ございません」
ヘレナはわんわん泣きながら謝り、執事長様は頭を下げて微動だにしません。
「ワ、ワタクシは大丈夫です。少し掠っただけですわ。ヘレナ、泣き止んで下さい。セバス様も頭を上げて下さいませ」
「お嬢様……」
「フローラルお嬢様……」
「それに、アンリ様の髪型が立派でワタクシ、見入ってしまいましたもの!」
思い出したように吹き出したヘレナにつられる様にワタクシも笑ってしまいます
「執事長様? ワタクシはセバス様ってお呼びしてもいいのかしら?」
と、イタズラする子供の様にワクワクした気持ちで首を傾げて執事長様の顔を覗き込みます。
すると、口元を手で押さえて目を逸らされました。おかしな顔でもしていたのでしょうか?
「っ、……もちろん、セバスとお呼びください」
「まぁ! セバス様が微笑みましたわ!」
「笑うとイケメンですわ!」
「いけ……?」
「良い男って事です!」
ヘレナと一緒にキャッキャと騒ぎ、執事長様が生暖かい眼差しでワタクシ達を見つめていました。
あぁ、こんな日常も楽しいかもしれないーーー
了
どうしてもドリルが気になるローラちゃん。
そして、撃ち抜かれるセバス様(笑)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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違くはない→違わくはないに改稿しました☆