洞窟と竜
俺、遠野沙原は今絶望の真っ只中にいる。
なぜならただでさえワゴン車に跳ね飛ばされて死にかけていると言うのに、跳ね飛ばされた先で今度は巨大なドラゴンに見下ろされている。
しかも最悪なことに赤い鱗を持つレッドドラゴンだ。
俺は幼少期のころよりファンタジージャンルの本や映画を見るのが大好きで、学生時代にはテーブルトークRPGにもはまり仲間と楽しんだ。
そのおかげで無駄にファンタジーの知識だけは人よりあると思う。たぶん。
本や映画などの知識通りなら、例外であるゴールドドラゴン以外のドラゴンは凶暴か邪悪であったりするが、中でもレッドドラゴンは規格外で知恵が周り、凶暴で邪悪な性格だと設定されていることが多い。
最近の作品だと◯ビットにまさしくなお方が出ている。レッドドラゴンかは分からないが!
なのでもし俺の見知った知識の通りであれば、間違いなく殺されるのだと思う。
望めるなら一思いに出来るだけ苦しまずに逝けたらいいなぁ。
そんなことを思いながら、かすれた声で呟くように口から勝手に出てきた言葉は半ば諦めていた俺の思いに反したものだった。
「助けて…」
まず間違いなくここは異世界、言葉自体が通じる相手かすらも分からないのに、日本語で助けてとは我ながら馬鹿だなと思いつつ激痛に耐えながらドラゴンを見ると、どでかい頭をひねりしかめっ面に見える様な仕草と表情を取っている。
それを見て言葉…通じるのか?と思った時だった。
「主、今何と言った?」
頭上のドラゴンの口から聞こえたような気がしつつ、俺の意識は遠ざかっていった。