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「え、嘘でしょww」

「マジかよ、おっさんwww」

「無いわーw」


 吃驚した。

 転職すると同時にいきなりの大爆笑……何が起こったし。

 全身がだるくて、頭の中までだるくて、状況の判断が上手くできない。

 ステータスの数字の変動って体調にまで反映されるんだなと、ぼんやりと思う。


「ひゃっひゃっひゃ、おっさんその見た目で18歳ってホンマなん?w」

 なるほど、把握した。

 どう見ても再受験生──推定54歳──のおじさんがステータスで18歳になっているという悲劇──喜劇?──か。

 割とどうでも良かった。

 あのおじさんの実年齢が今18歳でも54歳でもそれ以外でも、私の命には何の影響もないだろう。


 それよりも……。

「【ステータス】」

 転職後のステータスの確認だ。


  名前:木々偕子(きぎみなこ)

  年齢:18

  種族:人族

  職業:買い物代行人(レベル1)


  HP:12(-10)

  MP:1200(-1080)

  SP:1000(-900)

  満腹度:10%

  潤喉度:10%

  状態:悪い


  物理攻撃:8

  物理防御:8

  魔法攻撃:8

  魔法防御:8

  命中:8

  回避:223

  幸運:98


  スキル:マジックショップ(レベル1)▽

  (村人:人族語(レベル1),MP大回復(レベル1),SP大回復(レベル1))

  スキルポイント:130

  所持金:21,386タピル


  称号:異世界人


 うっわ、ステータスが幸運以外、軒並み上がったよ!

 特に回避とMPとSP!

 ちゃんと初期スキルもある。

 攻撃力とか防御とかはやっぱり低いんだけど……。

 職業の選択の幅がそれなりにあったし、思い込んでいたほど不遇ではなかったっぽい。

 張り切ってメモしておこう。



 さて、スキルだけど……まずは転職で取得したっぽいスキルから試してみるかな。

「【マジックショップ】」


 何か出てきた。

 設計画面?

 市販の方眼紙みたいに薄い水色の升目があって、それを目印に黒い線で囲まれた部屋とか廊下とかを置いて行けばいいみたいだ。


 最初から設置されている部屋もある。

 2m×2m(4平米)の店舗部分と、同じく2m×2mの玄関ポーチだ。

 その間の壁にある玄関ドアと3点セットで最初から設置してあって、動かすことも撤去することもできない。

 (↓こんな感じ。)

  店店

  店店

  庇庇

  庇庇

 (※店=店舗部分、庇=玄関ポーチ。)


 店は、隣に部屋を作って部屋と店との間の壁を撤去すればいくらでも広くできるように見える。

 だけど店の設置と維持にMPとSP、水や電気にMPを消費するので、いきなり大きな店は作れないようだ。

 推奨されているのは10平米以上15平米以下──ここの畳は1m×2mっぽいから、5畳以上7畳半以下。

 今現在の床面積は──おそらく玄関ポーチを除いた──4平米(2畳)なので、残りは6平米(3畳)以上9平米(4畳半)以下か。


 職業の名前を考えると、この場合の店ってのはたぶんお客さんに荷物を渡すだけの場所になるんだと思う。

 なので、デフォルトの4平米(2畳)のままでもいい気がする。

 上に4平米(2畳)の事務所を作って、境目の壁を取っ払ってカウンターで仕切ればいい感じになるんじゃないかな。

 いや、壁を取っ払うよりは窓をつけた方がよりそれっぽいかな。


 店と事務室は行き来できないといけないから、通路が必要。

 トイレと休憩所もできれば欲しいよね。

 (↓こんな感じ。)

  事事休休

  事事休休

  店店路厠

  店店路厠

  庇庇

  庇庇

 (※事=事務室、店=店舗部分、庇=玄関ポーチ、休=休憩室、路=通路、厠=トイレ。)

 ……推奨より1平米(半畳)広くなったけど、これくらいなら許容範囲だよね?


 あ、事務室はパーティーメンバーのみ、休憩室はユニオンメンバーのみしか入れない部屋らしい。

 すごいね、さすが魔法の店(マジックショップ)

 通路とトイレはそれぞれ引き戸を開けばお客さんも入ってこられるけど、事務室と休憩室は安全地帯だよ。



 事務室には大きめの机と椅子2脚、店にも同じ椅子を2脚、休憩室にはラブソファーを置くことにする。

 テレビとパソコンも設置できるみたいなので、事務室にパソコン、休憩室にテレビを置いてみる。


 さて、店の名前はどうしよう?

 下手にひねりすぎて意味不明になっても困るし、ここは素直に『森のおつかい屋さん☆MAKA』でいっか。

 MAKAの由来は『()()いに来てね』だよ。


 営業時間は9時から15時にするかな。

 冬だけどこっちの世界は1日が25時間らしいから、暗くならない内に閉められるはずだよ。


 さて、設計図の保存だけして、他のスキルを見てみるかな。



 てか。

 今の今まで没頭してたから気づかなかったけど……間取りをいじっている間、どんだけ独り言を言ってたんだろう、私。

 ちょっと恥ずかしい。

 それに、聞こえている人がいたら、何やってるかバレバレじゃん。

 口に出さなくても思い浮かべるとか念じるとかで何とかならないのかな?

 よし、念じろ私!

『スキル、スキル、スキルスキルスキルすきるすきるすきるすきるすきるすきるすきるすきるすききるす、き、す?』

 ……。

 無理っぽいな。


 仕方がない、呟くよ。

「【スキル】」


  言語

   人族語(レベル2):20P

   人族文字(レベル1):20P

   亜人族語(レベル1):20P

   精霊人族語(レベル1):20P

   魔人族語(レベル1):20P


  乗り物

   酔い止め(レベル1):10P

   馬術(レベル1):10P

   馬車術:(レベル1):10P


  回復上昇

   MP回復小上昇(レベル1):10P

   SP回復小上昇(レベル1):10P

   MP回復大上昇(レベル2):60P

   SP回復大上昇(レベル2):60P


  魔法

   空魔法(マジックポシェット,レベル1):10P

   空魔法(マジックショップ,レベル2):400P


  店

   食堂(レベル1):20P

   道具屋(レベル1):20P

   自動販売機(レベル1):20P


 うーん、村人だったときと比べるとずいぶん少なく見える。

 しかも店はまだまだ増えそうな予感がするけど、それ以外はそうでもない気配。

 言語と空魔法が少し増えて終わりって感じじゃないかな。


 とりあえず空腹と口渇を解消するために、食堂か自販機のどっちかは覚えたほうがいいよね。

 どっちにしよう?

 てか、食堂ってどこにあるんだろう?

 相当近くにあってくれないと、命が危ないんだけど。

 自販機はその場に出てくれそうな気がするけど、値段は割高な気がする。




 いつの間にか、勇者は6人目に人形師を選んでいた。

 逆ハーレムかと思ったけど、男女比の関係でそれも仕方なしって状況ではある。

 変に揉めないことを祈るばかりだ。


 他のパーティーは3つか。

 4つ以上あればぼっちになる人が出なかったんだろうけど……まあ仕方がないか。


 今もまだどこのパーティーにも入れずに残っているのは、男子が3人に女子が1人だけみたいだ。

 ……ついに女子は私1人になったのか。

 女子が少ないこの状況で、ぴちぴちの18歳の乙女が推定54歳のおじさんに負けたのか。

 べ、別に悔しくなんてないこともないっていうか……うん、悔しいよ。


 あ、また1人減った。

 残りは3人だ。

 ──3人しか残っていないよ。


 そう思った途端、急に怖くなった。

 恐怖が現実に下りてきたって言えばいいんだろうか?

 何だかんだ言いつつも、最終的にはどこかのパーティーが拾ってくれると頭のどこかで思っていた。

 このままでは本当にここに1人で残されるかもしれないと、体が勝手に震える。


 怖い。

 1人で残されるくらいならいっそ残った3人でパーティーを組みたいと思うけど、彼らはどうだろう?

 やっぱり3人パーティーよりは6人パーティーに入りたいよね?

 入れる可能性はまだ3分の2あるんだろうし、6人パーティーに入れたはずだったのにお前が邪魔をしたとか恨まれるのは嫌だ。


 今このタイミングで転職したと言うのも……。

「なぜ今更そんなことを言い出すんだ?!」

 とか、

「なぜお前だけ?!」

 とか、胸倉をつかんで責められそうで──鎖骨や頸椎がぽっきりいきそうで──怖い。


 それくらい、殺気立っている人がいるんだよ。


 もうこれいっそ1人で開店して、彼らとは客と店主という付き合いだけでいいんじゃないの?

 いやいや、それだと彼らのお金が尽きたらそれで終わりだよ。

 どうしたらいいか分からずに思考がぐるぐる回る。



 しばらく経ったけど、3人は3人のままでそこから誰も減らない。

 これはもしや、6人になる前に募集をやめたパーティーがある?

 3人で組みませんかと、今なら言い出しても大丈夫だったりする?

 と考えていると、私と同じように残っていた2人の男子の内の1人が動いた。


 どこへ行くんだろうかと思っていたら……。

 うわ、勇者に絡んでいったよ!

 最後の1人が女子になったのを指摘して、男子である俺にしたほうがいいとか主張している。


 うわー。

 いや、気持ちは解らないでもないよ。

 けど、無理っしょ。

 そのパーティーは戦闘に役に立つと思われる人間から拾われていったところじゃん。

 もう満員じゃん。

 逆ハーレムはどうだろって私も思ったんだけど、男:女=18:7って比率を考えると仕方がない気もしないでもない。

 人形師だって勇者のパーティーに入りたいとあれだけしつこく粘っていたんだし、簡単には出て行かないよ。


 どうなるのかなあ?

 と傍観していたら、血が出た。


 え、何これ。

 阿鼻叫喚って言えばいいのかな、こういうの。

 パニックを起こして泣き叫んでいる子もいるし、怒鳴っている子もいる。

 けど、全然現実味がないよ。


 ちなみに血を出しているのは私じゃない。

 人形師だ。

 勇者にからんで行った男子の腕がなぜか人形師の胸に刺さっていて、人形師の胸から作りものみたいに血がだばだばと流れている。


 だけど、それが本物だと思えない。

 流れる血も貫かれた体も、精巧にできた作りものみたいだ。

 被害者が人形師っていうのが関係あるのか無いのか知らないけれども、けどホント、人形みたいだ。


 ……人形なんじゃないかな?

 あれは本人そっくりに作った身代わりの人形で、本人はどこかの樹の陰にでも隠れてるんじゃないかな?

 そう思いたくなってくる。


 けど、加害者の男子の足元が白く鈍く光ってるんだよね。

 レベルアップ?

 え、戦闘職の人間って人を殺したらレベルが上がるの?


 それってかなり、ヤバくない?

 まさかここで殺し合いなんて、始まらないよね?



 ああ、ヤバいな、あの子。

 (わら)ってるよ。

「くくっ、手に入れたよ。僕もこれで人形使いか」

 とかなんとか呟きながら。


 ああ、この子は弱いから残っていたんじゃないのか。

 いや、精神的な部分は知らんけど。


 略奪者?

 強奪者?

 暗殺者?


 よく分からないけど、周りの人間から何かを奪う存在だから警戒されてたんだ。



 あ、人形師の体の上にタイマーが見えるんだけど……。

 あれってもしかして、まだ蘇生できたりするんじゃないのかな。


 できる人、いないのかな?


 人形師が所属している勇者パーティーには治癒術師がいるけど……。

 駄目っぽいな。

 ヒールっぽい何かを使おうとしておそらく失敗した後は、青い顔をしてただ俯くばかり。


 薬師も誰かに何かを言われているけど、何か一言言った後はただ首を横に振るばかり。

 学者も腕を組んで目を瞑っているだけ。

 勇者もただ腕を伸ばすだけで、それ以上にできることは何も無いっぽい。


 タイマーの残り時間が徐々に減っていく。

 みんなの顔が絶望に染まっていく中で、屍術師だけがただ1人、めっちゃうれしそうに死体を見ている。


 え、まさかそうなの?

 それって、そういう意味でのタイマーだったりもしちゃうの?

 この世界で死ぬってことは、つまりそういうことなの?


 うわー、やだわ、逃げたいわ。



 ……そういえば、逃げられそうなスキルがあったな、私には。

 と、今更ながらに思い出した。


 いや逃げるっていうか、隠れる?

 店の入り口はともかく、その奥はきっと殺人者も屍術師も生きた死体も中には入れない。

 設計しておいて良かったよ、例のマジックショップ!


 けど、1人で逃げるのは勿体ないかな。

 他にも商人系の人はいると思うんだけど、きっとうちと同じで狭いと思うんだよ。

 なら、分散するべきだよね?

 殺人者な人は勇者に何やら熱心に話しかけているっぽいし、時間的にも少し余裕がありそう。


 ただ問題は、既にほとんどの人がパーティーに所属していて誘えないってことなんだよね。

 向こうから誘ってくれないのかな?

 まだ空きは2あるんだよね?

 ……。

 えっと、まさかこの状況でも入れる気なし?


 キョロキョロと周りを見回していると、久野介(ひさのかい)さんからパーティ申請が飛んできた。

 誰だろう?

 と思いつつもすぐに承諾して、メンバーを確認する。

 ん、パーティーメンバーは私で2人目?

 ああ、君はもう1人の余り者仲間か!


 まあ不満は……うん、君に不満は無いんだけど……。

 期待外れだと思ってしまったよ、ごめんよ。


 リーダーは申請を出した方になるらしく、あっちになっていた。



「何か手はないか?」

 と、リーダーがパーティチャットでいきなりそう訊いてきた。

 ……いや、今は挨拶なんて気にしていいような場合じゃなかった。


「マジックショップならある」

「詳しく」

「スキル。16平米。営業時間外……あ、午前9時まではユニオンメンバー以外入れない」

「了解。メンバー、増やしていいか?」

「うん、少しなら」

 店の狭さ的に、あんまり増やされると困る。


 リーダーが申請を出しまくっているであろう間、私は勇者と殺人者が繰り返す出来の悪いパントマイムのような動作をただ見ていた。

 興奮しすぎで上手く口が動いてないのかな?

 音としては拾えるんだけど、言葉としては届かない。


「駄目だな」

 申請を出していたはずのリーダーが、すぐに諦めたようにそう言った。

「あいつ以外の全員にユニオン申請を出してみたんだが、誰にも通らない」

 4パーティー22人ユニオンが誕生しているってこと?

 そっちに合流するには解散して誘われるのを待つしかないわけだけど……誘ってもらえる保証はどこにもない。

 それに殺人者が勇者から目線を外してそこら中を()めつけ始めたことを考えると、時間的な余裕ももう無いっぽい。


「じゃあ、もう行く?」

「おう」

「【マジックショップ】」

 2人になっちゃったけど、間取りはこのままでいいかな?

「【実行(ラン)】」

 体の中から何かがごっそりと抜けていく気配がして、森の中に突如、設計画面で確かに見た玄関ドアが出現した。

 森の中に突如、玄関ドアだけが出現した。


「リーダー、見える?」

「ドアなら見える」

「これって、他の人にも見えるのかな?」

「一瞬だけ解散するか?」

「うん」


 解散しても特に変化なしか。

 申請がきたのですぐにパーティーに戻る。


「脱退したら消えて、パーティー組んだらまた出てきた」

「そか、ありがと。……じゃ、行きますか」

 ちょっとドキドキしながらドアノブに触れると、それだけで周りの景色が一瞬で消えた。




「おお、これがマジックショップかあ」

 ……狭いな。


「へー、これがマジックショップか」

 リーダーもすぐに入って来たみたいだ。

「営業時間内はトイレまでは誰でも入れるけど、休憩室……あー、ソファーとテレビがあるところから奥へはユニオンメンバーしか行けないはずだよ」

「へえ、トイレもあるのか。……お、洋式じゃん。手洗い器もある」

 うん、こっちのお客さんが洋式便座を使えるかちょっと不安だけど、洋式にしてみたよ。

 手洗い器も自動水洗。

 使う水──というかMP──はできるだけケチりたいからね。


 店の奥の窓から、さっきまで見ていた光景の続きが見える。

 あれ、これはもしかして……図面の上は北じゃなくてスキルを使っていたときに向いていた体の正面?


「写真、撮っていいよな?」

「うん」

 私も撮っておくかな。

 電池が切れたら終わりだとは思うんだけど、一応。

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