石見東高校
午後からの練習が終わると、お片付けの時間が始まります。
テーブルの当番は私。
隅から隅まで、満遍なく掃除をします。塵ひとつ残すことなく、そして毛羽立ちも一本に揃えます。
天井から吊られてる電球に明かりをつけると、テーブルは澄んだブルーグリーンの輝きを放ちます。
「おおー、お疲れさん。だども、ひとつ手伝ってくれんか?。」
先輩は困った様に横に備え付けてあったもう一つの机に指を向けました。
「えーと、8番ですね、探しましょうか。」
床に目を凝らします。テーブルの下、部屋のはじっこ、もしかしたらと鞄の中まで。
いつもきれいに掃除された床は何かが落ちているなら直ぐ分かるのでしょう。
でも、落ちていません。
次第に探す場所もなくなり、誰かが持ち帰ってしまったんじゃないかなと考えました。でも今日は先輩と二人きりです。
さっきまで使っていたのだから確かにありました。
部屋から持ち出してないという希望と、何度探しても見当たらないという喪失感が頭の中をぐるぐると回ります。
どうしたものかと悩んでいると先輩は、あっ、と声を出しました。
「もしやしたらポケットの中かの?引っかかってるのかもしれん。」
ああ、そうか。あきらめかけていた私は妙に納得して片手に11番の球を持ちました。
そして一つ目、二つ目、球を入れては拾って入れては拾って。
そして最後の一箇所です。
ガラン っと出てきた球は11番の一つだけでした。
なんで?どこなの?という気持ち、明日からの練習はどうしようといった焦りがもやもやと心を支配していきます。
「どうしましょう大会も近いですし、私達はなんとかなりますけど・・・」
突如、先輩は大きな声をあげました。
「あー!じゃけん見つからんかったんか!」
皆で大切にしている大会球をなくしてしまった焦りから涙目になっていた私は目尻をこすりながら先輩を見る。
先輩のズボン。その左ポケットは丸く膨らんでいた。
「先輩。」
「いや~すまんかったの。そういえば調整ようにと使っておったんじゃ。」
「先輩。」
「見つかってよかった。正直、見つからないとあいつがどんなに怒るか分からんからな。」
「先輩。」
「探してくれてありがとう。」
「・・・」
私は諦めて、盛大にため息をつきました。
こんな先輩でも私はとても頼りにしてるんですよ。
こんばんわ。ぽっけんです。
これから連載をしていこうと思っている小説のサイドストーリーを書けたらな、という思いでやってみました。ごくごく普通の内容ですが、よろしければ御一読、御感想お待ちしております。