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星詠みの巫女と幸運の星  作者: 青柳朔
15/18

intermission7:流れ落ちる

 ――見つけた! と幼い声が聞こえた時には、もう夕暮れ間近だった。結局休む暇はなかったな、と思いながら苦笑する。アセラは飴玉ほどの大きさの星を握りしめて、満面の笑みを浮かべていた。この子だってずっと探し続けて疲れただろうに。

 村の入り口までアセラを送り届け、塔へと急ぐ。空が赤く染まって、夜の訪れが近いことを教えている。もしかしたらシャートはもう起きているかもしれない。

 走ればすぐに塔は見えた。入り口にラサラスとナシラがいて、僕の姿を見つけるとらさらすは力なく微笑んだ。


「……ラサラス? ナシラも……どうかした?」


 珍しい表情だな、と首を傾げる。もうじき仕事の時間になるというのに、いつからここにいたんだろうか。ナシラは唇を噛みしめたまま俯いている。

「俺のことはいい。……星は?」

「シャートから聞いたの? ちゃんと見つかったよ」

 そうか、とラサラスは唸るような低い声で答えた。機嫌が悪いというわけでもなさそうだ。しっかりと立っている様子から、具合が悪いとも思えない。

「早く上に行け。シャートが待っている」

「うん……?」

 ラサラスは上へと急かすばかりで何も言わない。本当にどうしたんだろう、と思いつつ僕は扉を開けた。

「アルコル」

 早く行けと急がせていたはずのラサラスが、僕を呼びとめる。

「何?」

「星詠みの巫女は、死に近い場所にいるから星の声が聞こえるんだと思う。……昔、俺がおまえに言ったことだ。覚えているか?」

 それは確か、シャートのところへ初めて行った日の帰りだっただろうか。

「覚えている、けど」

 それがなんだっていうんだろう。胸がざわりとした。ラサラスは、何が言いたいんだろう。

「覚えていたなら、いい」

 それきりラサラスは黙り込んだ。もう何も言わないとでも言いだけに。ナシラは何か言いたそうに僕を見つめてくるけれど、結局は口を開かずに俯いてしまう。僕はラサラスの横顔を見つめたあと、ゆっくりと階段を上り始めた。一段あがるたびに、足音が反響する。

「シャート?」

 最上階の扉を開けて、僕の訪れを待っている少女の名前を呼ぶ。ガラス越しに見える空は、西の方がわずかに明るいだけで、もう暗くなっていた。中央にあるベッドの上に、一人の少女が横たわっている。まだ寝ていたんだ。

 今日は随分疲れたんだろう、しかたないかもしれない。微笑みながらゆっくりとベッドに歩み寄り、シャート、と声をかける。

「起きて、シャート……?」

 やさしく肩を揺らすと、シャートがうっすらと目をあける。けだるそうなその様子に、胸がざわついた。触れた肩が氷のように冷たい。

 綺麗な青い瞳が、僕を映し出す。やわらかく笑って、アルコル、と小さく僕の名前を呼ぶ。今にも消えてしまいそうな細い声。


「……シャート?」


 泣きそうな自分の声が耳に届いた。

 どうしたの、もう起きる時間だよ。起きて。起きて、それで今日はゆっくりしようよ。だって疲れただろう? お茶を淹れて、お菓子を食べて、そして久々に二人でここから星を眺めよう。

 しかしシャートの目は閉じられた。まるで人形のような寝顔だ。足元の感覚がなくなる。シャートしか視界に映らない。それ以外は真っ暗だ。瞬きすら忘れて、僕はシャートの綺麗な寝顔を見つめた。

 外には、夜がやってきた。太陽は沈み、闇が世界を包み込んでいる。




 暗闇の中、ひときわ大きな星が、きらりと光って地上へ落ちた。




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