Prologue
夜空を見上げながら、母さんに手を引かれ歩いていると、きらりと一筋の光が空を走った。
「母さん、今星が流れたよ」
「そう、じゃあ祈りなさい。今流れた星が、ちゃんと家族のもとへ帰れるように」
うん、と頷いてまた夜の空を見上げた。きらきらと輝く星は綺麗だけど、どこか悲しく見える。
星の輝きは、いのちの輝き。
夜空に光る星が落ちたとき、地上のいのちもひとつ消える。星といのちは深く繋がり合っているんだよ、と母さんに教わった。落ちた星は、星拾い人によって探しだされて家族のもとへ届けられる。
どうして落ちた星が誰の星だったか分かるの? と聞いたことがある。夜空には溢れるほど星があって、その日に落ちた星はひとつだけじゃないかもしれないのに。違う人の星が届けられてしまうことはないの? と。
すると母さんは島の中央にある高い塔を指差した。あそこにはね、星詠みの巫女様がいるんだよ。巫女様にはその星が誰のものなのか分かるんだ。そして家族にも親しい人にも、絶対に分かるものなんだ。高い塔は島の中でどこよりも空に近く、島のあちこちから見えた。僕は知っている。夜になると、ときどき子守歌のようなやさしくて悲しい歌があの塔から聞こえてくるんだ。
「……ねぇ、それなら母さん。星詠みの巫女様が死んじゃったときは、誰が巫女様の星を見つけてくれるの?」
子どもなりに心配して聞いた問いには、母さんは困った顔をするだけで何も答えてくれなかった。