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文才無くても小説を書くスレ参加作品

大場陽炎

 文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:おおばかげろう

 好きに使える拓けた土地なぞあるわけがない。

 だからこれは寝物語なのだ。

 邯鄲の枕。一炊の夢。

 けれどそれは違えようもなく、いい夢だったのだ。


 誰が言い出したか、蜉蝣は飯を食わぬもの。

 実際に、わざわざ飼って確認したという者なぞはおらぬものの、誰もが確認するまでもない事として理解している。

 だから村の者等が彼を陽炎と呼んだのは、それがどこか他人事のように飄々として感情を捉え辛いということだけが理由ではなかった。

 やや異質な言葉使いをそれが正しいとばかりに改めようとしなかったということもある。

 やけに綺麗な綴り紙を惜しみなく使ったり、横書きに筆を滑らせたり、更には左から右へと読んだり。

 正(生)の作法とは別の、あたかも死出の作法のような振る舞いに、どこか生きている感が掴み辛かったのもあるだろう。

 けれどそれよりも何よりも、彼は自分の知恵と物を吐き出すばかりに見て取れた。

 彼が失った品よりも価値のある物が彼に返った事はない。

 彼が伝えた知恵よりも意味のある知識を彼が知った事はない。

 その様がまるで己の身に蓄えた滋養が尽きれば飢え死ぬだけの蜻蛉に重なって見えたのだ。

 隠し田は隠すことそのものが本義。そう伝えた時には蜻蛉は苦笑した。

 苦労も知らぬ出で立ちで、哂えるだけのどんな理屈あるというのだと、村の衆の心に良くも悪くも火をつけた。

 聞くだけ聞いて間違いを見つけしだい言い返してやろうと、それは村の誰もが蜻蛉の如く細い体つきの彼に力で勝ちたいと思えなかったからに相違ない。

 彼は言った。貧しいから隠すのだろうと。豊かになれば隠さなくとも済むと。

 村の衆は言った。食える物が増えれば食い扶持も増える。豊かなど米を集めた先にしかないと。

 彼は続いて言った。魚を与えても一日でなくなる。だが魚の取り方を教えると一生食える。ならその一生食える方法をより多く握った者はどれほど豊かに生きていけるだろうかと。

 村の衆は更に言った。その一生食える手段とは何かと。

 彼はそれを受けて言った。棚田の開発だと。

 村の衆は彼に問うた。棚田とは何だと。

 彼は村の衆に答えた。綺麗に整えられ、無駄に水を使わずに済む、棚の様に整然と並んだ斜面一面の田んぼのことだと。

 村の衆は呆れて言った。そんな事は誰しも最初は考えると。

 彼は微笑んで応じた。どうして失敗したのかわかっているのかと。

 村の衆は激昂して言った。やってみればわかると。

 彼は大笑いして言った。そら、それが理由だろうと。しっかり測らずにやろうとするから失敗するのだと。終わりも見えないからどこまでやっていいかわからない。どういう形にするのか決まってないから削り出しが多かったり甘かったりする。しっかりけいさんしてやれと。

 村の衆は彼を問い詰めた。なら貴様は算術ができるのかと。

 彼はしたり顔で言った。数の学問は一通り修めていると。

 村の衆はそれでも言った。数だけでどうにかなるもんでもないと。

 彼はそれならと聞いた。今まで斜面の盛り土に何本の杭を打ち込むのか決めているのかと。

 村の衆は不思議に思って聞いた。それを決めていたらどうなるのだと。

 彼は呆れて答えた。その場に居らぬでもその備えなら誰もが手伝えるだろうにと。

 村の衆は辛うじて言った。それでも重い岩や土を運ぶのは力だと。

 彼は優しげに言った。どこまでやればどこまで実入りが獲られるのか、分かっていれば励みにもなろうと。

 それでも村の衆は隠し田の届出には渋ったが、棚田の開墾とやらをやってやろうという気になった。

 例え、隠してた罪を強く言われて新たに開墾した棚田を奪われることになっても、棚田をより早く開墾できる技を持つ連中は大事に扱われるに違いないという彼の言葉に背中を押されて。

 どうせ。つまるところ。所詮。誰の頭にもそういう思いがよぎっていただろう。

 それでも陽炎が、盛る土に削る岩、切り倒す木に杭の数、その数を算術で弾き出す時だけは生き生きとするもんだから、村の衆は不安を笑って追い払った。

 僕は土と木は苦手なのだと陽炎は言う。村の衆は大笑いして、誰よりも土の量、木の本数を気にかけるヤツが何を言うと言った。

 十年も過ぎればまだ幼さを残してた陽炎もいっぱしの大人面をするようになる。

 陽炎の語る棚田も、次第次第に広がりを見せ、かつて彼が語っていた通りに隠し様がない斜面一面の眩いばかりの田んぼの棚が揃っていた。

 その頃にはもう、寺社や城主に知れられており、それでも不思議に横槍を入れられることはなかった。

 彼の持っていた教科書とやらも、一度は没収されたが返ってきた。

 彼の指示に従って、村の衆は手が空いたなら棚田を作る。それを容認してくれたのだと、愚かしくも信じていた。

 どうせ蜻蛉。つまるところ蜻蛉。所詮は蜻蛉。

 幾分かマシな身体つきになったとて、それでも未だ蜻蛉の如く細い彼を、寺社や城主はどんな目で見ていたか。

 甲も乙も丙もない。XYZという奇怪な記号が並ぶそれを、他ならぬ彼に解読させていたとは。

 他ならぬ陽炎が、己が生きる糧を切り崩していっていたとは。

 他ならぬ彼を蜻蛉と揶揄した、我々がそれに気付かずにいたとは。

 好きに使える拓けた土地なぞあるわけがない。

 棚田の最後の一段が完成したとき、祝いに来ていた城主に兵に連れられて陽炎は消えた。

 勝手な開墾も罪である。

 隠し田も罪である。

 だが村すべてを罪人とするわけにもいかない。

 陽炎の語った通りに、次なる棚田の開墾を求められ、村の衆は飢えずに暮らせる十分な食が保証された。

 村の衆はこれからも働く。であるから、厳しく罰するわけにもいかない。しかし、誰かが罪を負わなければいけない。

 そしてそれを負えるのは、始めは村の衆に嘲られ、終いには村の衆から尊重された、未だ一人身の陽炎しかいなかった。

 何しろ陽炎のいる限りは、村の衆は陽炎の指示を求めるだろうから。

 だからこれは寝物語なのだ。

 いかな栄達があろうとも、夢のままで終わってよかった事柄。

 邯鄲の枕。一炊の夢。

 そう願っても、どうしてもこれが(うつつ)でしかないのなら、せめて彼の名をこの地に残そう。

 小さな場しかなかったこの村に、大きな場を与えてくれたお礼に祭ろう。

 大場の夢。大場の幻。それでもこの大場の村の衆の眼に確かに映った、大場の陽炎と。

 それは違えようもなく、いい夢だったのだと。


 好きに使える拓けた土地なぞあるわけがなかった。

 やっぱりこれは寝物語なのだ。

 邯鄲の枕。一炊の夢。

 蛍光灯に照らされた見慣れた室内を見てつくづくそう思い知らされる。

 けれどあれは間違いなく、いい夢だったんだ。




 取り敢えずお題はこなしたわけだから、これは負け犬の遠吠えでも言い訳でもない。

 ……無茶振りだろ、このお題!


 というか最近、とみに御題が厳しくなっていっているような……。


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455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 21:50:19.68 ID:ezB0PuDi0

他にもいくつかお題ください

456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 21:54:02.23 ID:JnaabJ6to

おおばかげろう

457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 23:24:51.61 ID:ezB0PuDi0

把握しました



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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦国時代の農民の暮らしが勉強になりました。 生きてく為に罪を犯す。 戦国時代では当たり前の事が、書かれているのが素晴らしい。 [一言] 落武者狩りも書いたら、もっと面白いです 私も戦…
2013/10/31 07:13 退会済み
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