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百川騒動記  作者: 陵凌
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3.

「密室殺人!?キターッ!」

百川へと向かう道すがら、熊五郎が事件のあらましを説明していると、突然、惣介が素っ頓狂な声を上げました。

「お前は、いちいち妙な声上げるんじゃねぇよ。」

「だって密室殺人だよ。」

「何でぇ?密室殺人たぁ。」

「鍵の掛かった、人が出入り出来ない部屋の中で殺されてたんでしょ?」

「それが密室殺人か?」

「そういう事。まあ、実際は不可能だけどね。」

「ふかのう?何でぇそりゃあ?」

「出来っこないって事だよ。」

「出来ねぇも何も実際、この殺しの下手人はやってるじゃねぇか。」

「あのねえ熊さん、不可能な事は起こらないんだよ。それが起こったって事は何か方法があるからだよ。」

「方法ったって、お前…」

「大体、想像はつくけどね。」

「お前、からくりが分かるってぇのか?」

「まあ実際、見てみない事には何とも言えないよ。」

そんなこんなで、二人は百川に辿り着きました。

「ごめんよ。おっ、お千代さん。旦那いるかい?」

「あら?熊さんじゃないか?久しぶりだねえ。旦那なら奥にいるよ。呼んで来ようか?」

「ああ、頼むよ。」

千代と呼ばれた娘は、店の奥へと入って行きました。

しばらくすると、奥から紬の羽織を上品に着こなした、五十がらみの旦那が現れました。

百川の主人、佐兵衛でございます。

「おや?熊五郎さんじゃないか。どうしたんだい?」

「どうも旦那。いや実はですね、今回の殺しの一件で源蔵親方に頼まれやしてね。」

「親方に頼まれたって、何をだい?」

「下手人探しですがね。」

「下手人だって!?いくら何でも、そりゃあ無茶じゃないか?」

「あっしもそう言ったんですがね、初五郎と権兵衛をいっぺんに持って行かれて親方も弱ってましてね。で、コイツを雇ってこちらに調べに来たんでさぁ。」

「こちらは?」

と、佐兵衛が惣介を見て言いました。

「あ、どうも、萬屋の惣介って言います。よろしく。」

と、惣介が挨拶をします。

「旦那。早速ですが、倉を見せて貰っても宜しいですかね?」

「ちょい待ち、熊さん。」

「何でぇ?」

「あの~旦那さん。殺された百兵衛って人の荷物ってありますか?」

「百兵衛さんの荷物?」

と、佐兵衛が困惑気味に言います。

「それが、どういう訳だか無いんですよ。」

「無い?」

「ウチは住み込みで雇っていましたから、最初に来た時に着替えだろうけど、唐草模様の風呂敷包みを一つ、確かに持ってたんだけどね、それが見当たらないんですよ。」

「変ですね…」

「野郎の荷物なんざぁいいじゃねぇか、早く倉ぁ行って錠前のからくりを教えろい。」

「何だい?錠前のからくりって?」

佐兵衛が不思議そうに聞きます。

「ですから例の百兵衛の袂に入ってた鍵と、倉の錠前が掛かってたからくりですよ。コイツが分かるってぇ言うんでさぁ。」

「分かるって言って無いじゃん。想像はつくってだけでさぁ。」

「同じだろう。」

「まあ、とりあえず見せて貰えますか?」

二人は、佐兵衛の案内で二番倉に向かいました。

店の建物に寄り添う樣に大きな一番倉が有り、その一番倉と塀との間の奥まった所に一番倉の半分も無い小さな物置の樣な二番倉がございました。

「随分と奥まった所にあるなあ。これだと少々争い事があっても、お店の方じゃ気付かないんじゃない?」

「そうだなあ。ん?何でぇそりゃあ?」

惣介が、肩に掛けた布袋の中から見慣れぬ道具を出すのを見て、熊五郎が問いました。

「ファイバースコープ。」

「ふぁい…何だぁ?」

惣介が取り出したのは、直径が一寸程で長さが二寸程の円筒状のモノに、太さが一分も無い五寸程の管状のモノがくっついている奇妙なモノでした。

「何をするつもりだ?」

「まあ、熊さん。見てなよ。」

惣介は、そう言うと手にしたモノの管状の部分の先を、扉の錠前の鍵穴に差し込みました。

そして、反対側の円筒の端に目を押し当てました。

更に円筒の胴の辺りをカチカチと回転させております。

「あれ?」

「どうした?」

「当てが外れちゃった…」

「何だって!?お前、分かるって言ったじゃねぇか!」

「熊さん、コレ覗いてご覧よ。」

言われて熊五郎が円筒に目を押し当て覗きます。

「錠前の中が見えるだろう?」

「ああ、確かに見えるが何だってんだ?」

「もういいよ。ちょっとどいて…旦那さん、鍵開けてもいいスか?」

言われて佐兵衛が、首に下げた鍵を出そうとします。

「ああ、鍵はいりません。」

惣介はそう言うと、布袋の中から更に小振りな包みを出しました。

その中には、薄い鉄板の先を削って尖らせたモノや鍵状のモノなどの形状のモノが数種類、収まっておりました。

「何でぇそりゃあ?」

「ピッキングの道具。」

「ぴっき…何だよ一体?」

惣介は何本かの内から二本取り出し、鍵穴に差し込んでカチャカチャと動かしました。

すると数瞬の内に錠前がカチャリと音を立てました。

「開いたよ。」

惣介が言います。

熊五郎が扉に手を掛け引くと、扉はスルスルと横に開きました。

「本当だ!…やい!惣介、お前ぇ盗っ人でもやってたんじゃねぇだろうな。」

「人聞きの悪い。こんなモン、盗っ人じゃなくたって錠前職人なら朝飯前だよ。別に職人じゃなくたって慣れたら誰でも出来るさ。」

「じゃあ、下手人もこうやって…」

「と、思ったんだけどさぁ…違うみたいだね。」

「違う?」

怪訝そうにする熊五郎を余所に、惣介は再び円筒状の道具を手にすると、錠前の鍵穴に差し込みました。

「熊さん、覗いてご覧よ。」

「さっき見たじゃねぇか。」

熊五郎がブツブツ言いながら覗きます。

「どうだい?さっきと違うでしょ?」

「違うってお前ぇ…そう言やぁ、何やら引っ掻き傷みてぇなのが付いてるぜ。」

「そうなんだよなあ…この方法だと、どうしても錠前の鍵穴に傷が付いちゃうんだよね。」

「つまり…どういう事でぇ?」

「最初見た時、中は綺麗だったでしょ?」

「そうだなあ…で、どういう事でぇ?」

「つまり、百兵衛さんが殺された時、錠前の鍵は旦那さんが首にぶら下げている鍵で締めたって事だね。」

「鍵ったって、どうやって?」

「ふふふ…さっぱり分からない。」

「馬鹿!お前ぇ、分からねぇで済むかよ!」

怒鳴る熊五郎を余所に、惣介は扉の上にある明かり取りの格子をジッと見つめておりました。



所変わって、とある荒れ寺の本堂の中_。

何やら目つきの悪い男達が数人、集まっております。

「お頭、どうしやす?」

一人の男が、中でも貫禄のある男に問いました。

「どうするだと?」

「だって弥助の野郎がしくじっちまったから、やりにくいでしょう?」

「馬鹿野郎!狙った獲物は逃さねぇってのが¨猿の三佐¨《ましらのさんざ》の矜持だ。やると言ったらやるんだよ。」

男の凄みに、問うた男も尻込みして、

「承知しやした。」

と、答えました。

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