身の程知れカス!
魔王城の謁見の間は、一瞬にして戦場のような空気に変わっていた。
デモニオの周囲に渦巻く黒いオーラが、炎の燭台を揺らし、影を不気味に歪ませる。
闇の鎌が握られた手が震え、刃先が床を軽く削る音が響く。
「もう俺が仕切る時代なんだ!」
バルバトスはゆっくりと首を傾げ、口元に冷たい笑みを浮かべる。
その目が、赤く光る。
「お前、誰に向かって喧嘩売っとんのじゃ、ボケカス!身の程知れカス!」
言葉が終わると同時に、バルバトスの背後から巨大な腕が虚空を裂いて出現した。
筋肉が隆起した、禍々しい赤黒い腕――先代魔王の力の具現。
その腕が、雷鳴のような速さでデモニオに向かって振り下ろされる。
「……ぷげぁ」
情けない声と同時にデモニオの体が、まるで紙のように吹っ飛んだ。
王座の脇にあった重厚な机に激突し、
ガシャァァァン!
という大音響が謁見の間全体に響き渡る。
机が真っ二つに割れ、書類や燭台の欠片が飛び散る。
デモニオは床に転がり、鎌を落としてうずくまる。
騒ぎを聞きつけて、扉の外から衛兵やメイドたちが慌てて駆け込んでくる。
鎧の音と足音が一斉に響き、部屋が一気に騒然とする。
「侵入者……!いや、あれは先代……!?」
「バルバトス様……!?」
バルバトスはデモニオを見下ろしたまま、ゆっくりと歩き出す。
拳を握りしめ、声を張り上げる。
「お前のそういう所が、アカンのとちゃうんか!?お前、今、ワシに手を出そうとしたのぉ!?ワシと話し合いしとったのに、言葉に詰まったら、手を出すんか!?言っとくけど、ワシは喧嘩しても誰にも負けへんからのぉ!?」
デモニオは床に這いつくばり、咳き込みながら体を起こそうとする。
バルバトスは容赦なく続ける。
「そういう所が、今回みたいな騒動起こしてるんとちゃうんかい!?キュレムタウンと話し合いで解決したら良かったんとちゃうんかい!?それをや!?お前が手を出す事をしたんやなぁ!?」
衛兵たちは固唾を飲んで見守り、メイドたちは互いに顔を見合わせる。
バルバトスはセバスチャンに視線を移す。
「セバっちゃんの一件もそうや。確かにセバっちゃんは間違えた選択をした!せやけど、それをお前が何アホな選択してるねんボケって説教せなアカンのちゃうんか!?言葉でなんべん言うてもわからん時に始めてどつくんとちゃうんか!?」
セバスチャンは声を震わせながら頭を深く下げる。
「ううっ……!その通りでございます、バルバトス様っ……!私めの間違った判断で、このような事態を起こしてしまい、本当に申し訳ありませんっ……!」
バルバトスは大きく息を吐き、両手を広げる。
「何でも力で解決しようとしてたら、それ以上の力を持ったヤツに必ず負けるんじゃ!オツムを使え、このクソボケが!お前みたいなもんは、もうロブ島行って、一から一人でやって来い!こんな滅茶苦茶されたら、もうワシがなんとかするしかあらへんわ!」
部屋の隅から、宰相グロスがゆっくりと歩み出る。
眼鏡をかけ、穏やかな顔立ちの男。
しかしその口元に、抑えきれない明るい笑みが浮かんでいた。
「デモニオ様が……島流し……!?」
謁見の間に、微かなどよめきが広がる。
バルバトスの背中が、静かに息を吐く。
炎の燭台の火が、ゆっくりと揺れていた。




