セバスチャンの生きがい
魔王城の謁見の間は、埃がようやく落ち着き始めた頃だった。
炎の燭台の火が揺れ、影が壁を這うように伸びる。
デモニオは王座の上で体を縮こまらせ、バルバトスの視線を避けるように俯いていた。
セバスチャンは変わらず直立不動で、しかしその瞳に微かな揺らぎが宿っていた。
「はい。確かにキュレムタウンを襲うのは私の提案でした」
バルバトスはゆっくりとセバスチャンに向き直る。
血走った目が、わずかに細められる。
「おうおうおう。セバっちゃん、腹括っとるな?言うてみ、言うてみ?なんでそんなアホな提案したか、ワシ聞いたるわ」
セバスチャンは一瞬、目を伏せる。
燕尾服の袖を軽く握りしめ、息を整える。
「キュレムタウンとの商業取り引きは私達にとって、死活問題でした。我々の国の財源全てが、キュレムタウンとの取り引き結果によって影響される、永遠に付き合っていかねばならぬ、大きな課題でした」
バルバトスは頷きながら、ゆっくりと歩き回る。
足音が、謁見の間に重く響く。
「せやな?せやな?そうやな。大きな課題やな?」
「当然、その問題は日々考えていかねばなりません……バルバトス様とは、週に一度は必ずキュレムタウンとの外交問題を考えていました……」
バルバトスは足を止め、セバスチャンをじっと見つめる。
その目に、懐かしさと苛立ちが混ざる。
「せやな?ワシとやっとったわ。そんなお前がなんで、こんなアホな判断したぁ!?」
セバスチャンの肩が、わずかに震える。
言葉を飲み込み、喉が動く。
「うっ……ぐっ……しかし、当主がデモニオ様に変わってからは、その外交問題に取り組む事がなくなり……」
バルバトスは眉を吊り上げる。
「……あぁ?」
バルバトスの視線が、デモニオに刺さる。
デモニオは王座の上で体を硬直させ、視線を逸らす。
「ううっ……あの頃が一番、私の人生での生きがいを感じておりました……しかし、外交問題に取り組む時間が減ってしまったので……」
バルバトスは深く息を吐き、セバスチャンに近づく。
「……セバっちゃんは、こんなアホな判断してもたってワケか?」
「はい、申し訳ありません、バルバトス様……私の判断で行ってしまいました……!私はデモニオ様の無言の圧に負けてしまったのです……!デモニオ様は、命令はしておりません……!口には出さずに戦争を仕掛けろと圧倒的な圧を出していただけです……!判断を間違えたのは、この私めです……!本当に申し訳ありません……!」
バルバトスは一瞬、目を丸くする。
そして、ゆっくりとデモニオに向き直る。
その顔から感じるのは、ただただ圧倒的な怒り。
「わっかりやすいパワハラしとんのぉ!?全部、お前が原因やないか、このクソボケがぁ!?」
デモニオは王座から立ち上がり、拳を握りしめる。
額に青筋が浮かぶ。
「う、うるさいっ……!一々、口を出してくるなよ……!もう俺が仕切る時代なんだ!」
デモニオの周囲に、黒いオーラが渦巻き始める。
闇の鎌が虚空から現れ、手に握られる。
刃が、燭台の炎を反射して不気味に光る。
謁見の間に、重い緊張が張り詰める。
セバスチャンの瞳がわずかに揺れる。
バルバトスの表情は変わらない。




