宮本さん、明日行けません
魔王城の謁見の間は、乱入の余波でまだ埃が舞っていた。
蹴破られた扉の破片が床に散らばり、炎の燭台の火が揺れて影を長く伸ばす。
デモニオは王座に座り直そうとして、尻が滑り、慌てて体勢を整える。
バルバトスは大股で近づき、血走った目をさらにギラつかせながら、デモニオを見下ろしていた。
「お前、何やっとんねんボケ。今、どうなってんねん、ボケ。なんか滅茶苦茶やっとるみたいやのぉ?」
バルバトスは一歩、また一歩と王座に迫る。
その足音が、謁見の間に重く響く。
デモニオの額に、冷や汗が一筋伝う。
「い、いや……親父、あの、その……」
バルバトスは鼻息を荒くし、腕を組んで睨みつける。
その眼光は、まるで獲物を追い詰めた獣のようだった。
「お前、ワシ、宮本さんから色々聞いたぞ?宮本さん、ゴルフに誘ったら、ちょっと明日は行けませんって言うて、なんで行けへんか聞いたら、お前がなんか宮本さんの街襲って滅茶苦茶したらしいな……?」
デモニオの顔が青ざめる。
瞳が泳ぎ、口がぱくぱくと開閉する。
「えっ、えっと……そ、その宮本さんの住んでる街って何処かな……?」
バルバトスは一瞬、固まる。
そして、ゆっくりと眉を吊り上げた。
「……お前、自分が襲った街の名前も覚えとらんのか?」
「違います違います違います……!確認です確認です確認です……!現状把握する為の確認行為です……!」
バルバトスは深く息を吸い、吐き出す。
その息が、炎の燭台を一瞬強く揺らした。
「キュレムタウンじゃ、クソボケが!ワシ、散々言うたよな!?あの街、ゴルフ仲間の宮本さんがおるから絶対に襲うなって言うてたよな!?それに、あの街、武具工業が盛んで、うちと取り引きしとるんちゃうんか!?」
デモニオは王座の肘掛けを握りしめ、必死に言葉を探す。
「あっ、キュレムタウン……!あの違います……!キュレムタウンを襲ったのは事情があったんです……!」
バルバトスは腕を組み、顎を突き出す。
「おう、言うてみや?お前、半端な理由やったら、ワシが宮本さんの代わりにボッコボコにするぞ?」
デモニオは視線を逸らし、指をいじくりながら小声で呟く。
「いや、あの街、武具工業が盛んだけど、高値で売りつけてくるじゃん……?それで、あの……ね……?まぁ、こういう感じに収めましょうかなぁ……って……」
バルバトスの顔が、真っ赤に染まる。
血管が浮き上がり、拳が震える。
「何が収めるじゃ、クソボケ!戦争始まっとるやないか!?お前、何考えとるねん!アホか!?」
デモニオは慌てて身を縮め、指をセバスチャンに向ける。
「違う違う違う違うっ……!言い出したのは、俺じゃない……!提案したのは、セバスチャン……!セバスチャンが言い出したの……!」
バルバトスはゆっくりと視線をセバスチャンに移す。
セバスチャンは直立不動のまま、微動だにしない。
「……あっ?セバっちゃんが言い出したんか?」
謁見の間に、再び重い静寂が落ちる。
炎の揺らめきが、三人の影を長く伸ばしていた。




