全て計算通り
魔王城の謁見の間は、いつものように薄暗く、重厚な空気に満ちていた。
黒曜石の床に赤い絨毯が敷かれ、王座の背後には巨大な炎の燭台がゆらゆらと揺れている。
窓からは霧の谷が見下ろせ、遠くで雷鳴のような低音が響いていた。
ここは魔界の中心――現魔王デモニオが、今日も「世界征服」の一歩を踏み出そうとしている場所だ。
デモニオは王座にどっかりと腰を下ろし、黒いマントを翻しながら、片手で顎を支えていた。
角は立派に伸び、赤い瞳は鋭く光っている。
「……勇者達の同行はどうなっている」
執事セバスチャンは、王座の脇に直立不動で控えていた。
黒い燕尾服に白い手袋、完璧に整った髪。
表情は常に無表情――しかし、瞳の奥に微かな疲労が滲んでいる。
「はっ、以前変わらず進軍を続けております。明日には霧の谷に突入するかと」
デモニオの口元に、薄い笑みが浮かぶ。
指先で王座の肘掛けをトントンと叩く。
「計算通りだな。霧の谷には部下達を配備している。勇者達が突入した途端、総攻撃を行う」
「はい、戦闘準備は完了しております。また、より奇襲効果を高める為に、ミレアとファラの二名の霧魔法使いを動員しております。二人の能力で、霧の谷の霧はより濃いものになるでしょう」
デモニオはゆっくりと背もたれに体を預け、目を細める。
燭台の炎が、彼の顔を赤く照らし出す。
「フフ、霧の中で何が起こっているのかもわからずに命の灯が失われていく……哀れな人間らしい末路だ……」
「まさにその通りでございますね」
一瞬の静寂。
炎の揺らめきだけが、部屋を満たす。
――そして。
突然、謁見の間の巨大な扉から、爆発するかのような蹴破られるような音が響き渡った。
木片が飛び散り、埃が舞う。
デモニオの体がビクッと跳ね上がり、王座から半分立ち上がる。
「勇者か!? もう来たのか!?」
しかし、扉の向こうから現れたのは、
予想外の人物だった。
「おい、コラ!お前、何やっとんねん、ゴラァ!滅茶苦茶やっとんのぉ!?」
現れたのは、先代魔王バルバトス。
白髪交じりの角、筋肉質の体躯に古びた黒いローブ。
目は真っ赤に充血し、拳を握りしめている。
デモニオの顔から血の気が引く。
王座に座り直そうとして、尻が滑りかける。
「お、親父……!?」
バルバトスは大股で近づき、謁見の間全体に響く声で唸る。
その眼光は、まるで獲物を睨む獣のようだった。




