日沈む国
オロガルド:水神が収めていた国。500年前の大戦に敗戦した。戦勝国の国々の要求によって,水神は直接政治に絡むことができなくなり,国民から選ばれた首相が政治を行い国を統治することとなった。水神はこの国の象徴としての立場のみ有するものとなった。近年では,様々な社会問題が引き起こされている。
「判決を言い渡す。主文,被告人を死刑に処する」
「ふざけんな,俺が何をしたってんだ,ただ俺は…」
「静かに,警備員取り押さえろ」
…
春のやわらかな風が吹く一年前,俺のおやじは死んだ。
「…,もう朝か…,」
エミールは,この一年間ずっとこの悪夢を見る。エミールの父親は3年前,国家転覆罪で捕まり,1年前処刑された。この件によってエミール一家も没落してしまった。
エミールはパジャマから作業着に素早く着替え,
キッチンに向かい,朝食の準備をする。
「…」
「おはようございます。クラウス様」
「おはよう,今日の予定は?」
「はい,本日のご予定は
9時から12時まで議会での答弁,
12時から14時までダルガリ共和国のアルデバラン様との会食…
…となっております。」
「答弁内容は考えたか?」
「はい,こちらにまとめております。」
「そうか…」
_クラウス・エルトルト
民主国家オロガルドの由緒正しき家系クラウス家の第18代当主にして,この国の首相。父が亡くなり,悲しみに暮れていたエミールに娘の家庭教師兼雑用として屋敷に住むことを許してくれた人だ。
「そういえば,イレーネの勉強の調子はどうだ。」
「はい,熱心に取り組んでいます。」
「それは良かった,期待しているよ。」
「クラウス様,朝食は…」
「いらない,捨てといてくれ。では」
クラウスはそっけなく書類を抱えて,部屋を出ていった,朝食のにおいが鼻をかすめる。
「(ノックをする音),イレーネ様おはようございます。学校に遅れてしまいますよ。」
「うるさい…あんたお父様の召使でしょ,毎朝起こしに来なくてもいいじゃない,真面目すぎるのよ」
「これも仕事のうちです。起きてください。」
「分かったから,どっか行って」
「承知しました。」
数分後イレーネは身支度を整え,食卓に現れた。
_イレーネ・エルトルト
クラウス・エルトルトの娘。幼いころから,英才教育を受け,オロガルドの名門学園であるウェスト学園に小学部から通い,1年前のテストでエミールに譲るまでは,常に学年トップの座を守り続けた、才色兼備のエリートである。
イレーネは朝食をたべ終わると,すぐ家を出ていく。エミールは片づけを行ったあと,屋敷を後にした。
屋敷の花壇には一輪だけ枯れた花が混じっていた。誰の目にも留まらぬまま、朝の光に溶けていた。
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