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廃墟巡り

作者: 通りすがり

大学生の智治は、大学の友人グループ、男3人、女3人の計6人で廃墟巡りをするのが趣味だった。彼らはスリルと好奇心を求めて、各地の廃墟を訪れていた。

ある日、智治たちはいつものように廃墟巡りを計画した。目的地は、彼らが住む街から車で2時間ほどの距離にある山奥の廃村だった。そこはかつて数十軒の家が立ち並ぶ村だったが、過疎化が進み、今では誰も住んでいない。村全体が廃墟と化しており、その異様な雰囲気が彼らを惹きつけた。

昼過ぎに車で出発したが、道に迷ったり、途中で休憩を挟んだりしているうちに、予定よりも大幅に時間が過ぎてしまった。廃村に到着したときには、すでに日は傾き始めていた。

廃墟の中は荒れ果てており、物が散乱していることも多く、暗くなると怪我をする危険性が高まる。そのため、彼らは基本的に明るいうちに廃墟を訪れるようにしていた。しかし、せっかくここまで来たのだから、少しだけでも見て回ろうということになり、各々が懐中電灯を手に、廃村へと足を踏み入れた。

数軒の廃屋を探索したが特に変わったものは見つからず、ただ不気味な静けさだけが村全体を包んでいた。辺りが完全に暗くなったため、彼らは早々に引き上げることにした。


車は7人乗りのバンで、運転は孝志、助手席に浩紀、真ん中の列に美佳と愛華、後部座席に智治とその恋人の皆実が座った。道中、他愛もない話で盛り上がっていたが、皆実だけは黙り込んで何か考え込んでいるようだった。

智治が心配して声をかけると、皆実は彼にだけ聞こえるように小声で言った。

「私、まずいことしちゃったかもしれない」

智治が詳しく聞くと、皆実は探索中に一軒の廃屋で見つけた仏壇から位牌を持ち出し、愛華のバッグに入れたことを告白した。驚かせようとしただけのつもりだったが、言い出すタイミングを逃してしまい、今に至るという。

智治はさすがにまずいと思い、何故そんなことをしたのかと皆実に訊いた。皆実は今にも泣きだしそうな顔で、前に愛華にされたことの仕返しをしただけだと言った。たしか以前に行った廃墟ではみんなで隠れて皆実のことを驚かせたことがあったが、その首謀者は愛華だった。

智治は皆実をなだめ、愛華には絶対に言わない方が良いと言った。愛華は気が強く、正直に謝っても許してくれるとは思えなかったからだ。


しばらくして、一行は街中に出ると、近くにあったファミリーレストランに立ち寄った。愛華がトイレに行っている間に、皆実は智治に「やっぱり言うべきかな」と葛藤を打ち明けた。智治は「今はまだダメだ」と皆実を止めた。

そこへトイレから愛華が血相を変えて戻ってきた。彼女はバッグから取り出した位牌をテーブルに叩きつけるように放り出した。その勢いで位牌は真ん中から二つに割れて転がった。

「誰よ、こんなもの入れたのは」愛華は凄い剣幕で怒鳴った。

一同は驚き、皆実は青ざめた。愛華は皆実に疑いの目を向けたが、皆実は震える声で「私じゃない」と否定した。騒ぎに気づいた店員が駆けつけてきたので、智治は咄嗟に位牌を隠し、その場を収めた。

だが愛華は怒りが収まらずに店を飛び出すとタクシーに乗って行ってしまった。

残された5人の間には気まずい空気が流れた。

誰が位牌を入れたのか、疑心暗鬼になりかけた時、智治は話題を変え、この位牌をどうするかを皆で話し合った。

結局、翌日智治と皆実が廃村へ戻しに行くことになった。



その夜、智治は夢を見た。

白髪の老人が怒りの形相で彼を睨みつける夢だった。

翌日、皆実に訊くとまったく同じ夢を見たという。

廃村を再び訪れた二人は、位牌を元あった仏壇に戻し、心よりの謝罪をした。

帰り道に、智治は愛華に正直に謝ろうと提案し皆実もそれに同意した。

しかしその後、愛華にいくら電話をかけても繋がらなかった。

そして、その日の夜に美佳から愛華が行方不明になっていると智治に連絡が入った。

その後、家族が捜索願いを警察に出した。

警察の捜査では、愛華がファミリーレストランから出た後にタクシーに乗って廃村へ向かったことまでは判明したが、その後の足取りはまったく掴めなかった。

愛華が何のために廃村に再び向かったのかみんなが疑問に思っていた、唯一智治を除いては。



実は智治は位牌を返した夜にもう一度夢を見ていた。

夢であの白髪の老人は険しい表情でいった。

「位牌を投げたあの女だけは許さない」

智治は皆実にそのことを話さなかった。老人の言葉が現実になったとしたら、愛華の失踪は自分たちのせいかもしれない。智治はそう考え誰にも真実を告げられなかった。

そしてそれ以来、智治たちは2度と廃墟巡りに行くことはなかった。

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