雲間の中に青空一つ
「今日の分の放送が始まるぞ!」
父親の声に子どもたちや母親もテレビの前に集まる。そして一家は画面を食い入るように見つめた。
一秒、二秒。
不意に画面に色が付く。
広く広く続く青い空の中では白い太陽が輝き、その下には青々とした草原が広がっている。
緑の絨毯の向こうに見える黒ずんだ小山のようなものは朽ちた建物の残骸だろうか。
そんな景色を映しながらゆっくりと映像が動く。そして地上を観測しているAIの言葉が流れた。
「このような清浄の地は増えています。地上の汚染濃度は順調に下がっています。皆様、もうしばしの辛抱です」
その言葉が繰り返されるとともに徐々に映像が乱れ始め、やがて途切れてしまった。今日の放送が終わったのだ。
「もうしばらくしたら私たちもまた太陽の光を浴びれるのね」
「ああ。地上はいまロボットたちが洗浄をしてくれているからな」
全世界を巻き込んだ戦争のあと、汚染された地上から地下に逃れてきた生き残りの人間たちは、毎日送られてくるロボットたちからの映像のおかげで希望を無くすことなく今日も暮らしていた。
人々に生きる希望を与える放送が終わったあと、ロボットは再び地上の汚染を取り除く作業を再開する。
死んだ大地には緑の気配などなく、黒く重い雲が常に太陽の光を遮ることで常に暗い。人間たちにあの映像のような本当の景色を見せることが出来るのはまだまだ先になりそうだ。
遠くの空ではほんの少しだけ雲が切れて光が差し込んでいた。