7話同盟締結
ただ突っ込んで来るそいつを覚えたてのパリィを使って弾く。そして隙だらけのそいつを踏み込み切る。だが、休む暇などなく次の奴が、右から来る。なんとか奴の攻撃を剣で受け、囲まれる前に大きく後ろに下がり体勢を立て直す。
「ちょっ、姉御?!なんなのこいつらめっちゃ数が多いですけど」
「何って、モンスターの上に名前が出てるでしょ?アルミラージだよ」
アンネロゼの言ってた通りこのアルミラージこと、黒とかオレンジとかいろんな色の個体がてんこ盛りのウサギ達だ。見た目は普通のウサギで可愛いが、唯一額に可愛くない物が着いている。
そう額だ。30センチ程の立派で凶悪な角をつけたこのモンスターは、集団で僕の身体を穴だらけにしようとひたすらに突っ込んで来る。
「本当にこれ僕1人で倒せるの?!」
「大丈夫でしょ。囲まれない様にさえしてれば、攻撃手段が真っ直ぐ突っ込んで額の角で体に穴開けようとしてくるっていう単調な攻撃なんだからタイミング測って上手くパリィしなさい」
「そ、そんなぁー」
「がんばれ切る!!お前なら出来るぞー」
アンネロゼのスパルタ教育に悲鳴をあげていると、何やら何1つ為にならない声援を送ってくれる。
「まぁ、いいやこれも授業だ。足腰は上下させない、ぶつぶつ」
切り替えた僕は剣道動画に載っていた。基本を口ずさみしながら今日の夜練でも何度も何度も練習した踏み込み足で打突を決める。
レベルアップした事で段々と上がってきたアバターの肉体性能が、現実より早い技を放ちアルミラージを光の塵に変える。
「よし!!」
喜びの声は出しても、決してガッツポーズをしてる暇はない。そのまま横腹に穴を開けようとしてくるアルミラージをリジェクトで跳ね返し様子を伺っていた別の個体を切り倒す。
その場に留まっていては蜂の巣にされる為、直様走り出す。直ぐ後ろで地面が爆ぜる音が聞こえ、背筋が寒くなる感覚を覚える。
だが、地面にめり込んだアルミラージを見逃すほど優しくない。
僕は、アルミラージに追いかけられ、走って走って走りまくっていたらいたらいつの間にか会得していた数秒間AGIを上げてくれるスキル、スプリットを使用し間合いを詰めてとどめを指す。
当初は沢山いたアルミラージも今は残りも3匹迄に減った事を確認した僕はラストスパートをかける。
同時に飛びかかってきたアルミラージ2匹の攻撃を屈んで交わし、そのまま低姿勢で走り出し攻撃モーションに入ろうとしていた。1匹を突きでたおす。
残りの2匹は2手に分かれて僕の死角に移動しようとしたので、その内1匹に迫り首刎ねる。そして、最後残り1匹になった時点で勝負は決まっていた。普通に正面からタイミングを測りパリィして倒した。
「やったぁー倒せたー」
「やったなキルいい感じに動けてたぞ!!」
「うんやったよーフライくん僕はやったよー」
沢山いたアルミラージを倒せた僕は達成感で、喜びの声を上げる。ずっと声援だけは沢山送ってくれていたフライくんも、僕の狩りを褒めてくれ僕のテンションは上がりまくりだ。
だが、まだ僕に厳しいあの人から何も言われてない事に気づきアンネロゼの方に顔を向ける。
「ど、どうでしょうか姉御?」
「なんレベになったの?」
当初の目的がレベル上げ目的だった事を思い出し慌ててウィンドウを開く。
「なんか3つぐらい上がりました」
「そう、じゃあ頑張ったね」
「やったー」
散々厳しい顔をしていたアンネロゼが、笑顔で素直に褒めてくれたのだ。僕は今度こそ手放しに喜んだのだった。
あの後も町への帰還途中も僕中心でモンスターを倒させてもらい、更にレベルも1つ上がった。
「今日はありがとうフライくん、アンネロゼさん」
「はは、まぁ気にすんなよ。また一緒に冒険しようぜ」
「あんた、今日碌なアドバイスしてないでしょ?」
厳しいアンネロゼさんの突っ込みに再び落ち込むフライくんをヨシヨシと慰めていると不意にウィンドが開かれる。
「アンネロゼさんこれは?!」
僕が驚きの声を上げるのも無理はない、僕に良々されているフライくんも驚きの表情を浮かべている。
無理もない、だってこれはフレンド申請のウィンドウだからだ。
「フレンドの存在は知ってるでしょ?どうせ又一緒に冒険するだろうしこっちの方が効率的でしょ?」
「うん、よろしくねアンネロゼさん」
「それでえっとその、」
「?」
アンネロゼさんはフライくんも一瞥して顔を赤らめたあと「何でもない」慌てていいながらログアウトしてしまった。
「なんだったんだ?」
「さぁ、」
こうして僕は新たにスキルとフレンドを手に入れたのだった。
翌日お昼休みで日課の筋トレをしに行くべくショウちゃんと階段を降りようとしていたとき、意外な人に話しかけられた。
「ちょっといい?」
「どうしたの杉原さん?」
「えっと、昨日話しそびれちゃったから」
「昨日?」
普段はクールな人なのになんでこんなに焦ったそうにしているのだろうか?何が何やら分からずショウちゃんを見るが、面倒っていうのを隠しもしない顔をされ1人で先に行ってしまう。どうすればいいんだこれ?
そうやって身動きが取れないでいると、杉原さんは「ああもぉー私よ昨日一緒にujでレベリング手伝ってあげたでしょ?察してよ」
「嗚呼ごめん」
彼女の告白によって漸くほぼ初対面の杉原さんと、フライくんの後ろにくっ付いていた塩対応のアンネロゼさんのキャラが繋がり合点がいく。
「もしかして姉御ですか?」
「さっきからそう言ってるじゃん」
「昨日は、お世話になりました」
「それは、まぁいいの。それよりその……あんた好きな人とがいないの?」
「いきなり何いってんの?!」
「いいから教えてよ!!」
「やだよ何いってんの?!」
脈絡もない、いきなりの展開についていけず騒いでいると、下から聞き覚えのある声が上がってくる。
「あれ?里香と宮地くんじゃんそんなとこで何やってんの?」
「お姉ちゃん?!」「こ、こんにちは」
下から上がって来たのは同じ剣道部一つ上の先輩で、杉原先輩だった。リコーダーや音楽の教科書を持っているあたり5時間目が、この階にある音楽室に向かう途中なのだろう。
「栗花落も、後輩が挨拶してくれてんだから無視しないであげなよ」
「こんにちは」
「あ、いえ、こちらこそ?」
この2人姉妹だった事実にも驚いているが、僕がそれ以上に杉原先輩の隣にいる女神に僕の心は乱され、声が裏がわないようにするのに精一杯だった。
「こちらこそってなぁに?てか里香あんた飛田君以外の男子といるとか初めて見るんだけど」
「全然そんなんじゃないから邪推しないでよお姉ちゃん!!」
「ごめんごめん。じゃ私達はもう行くねー。いこ皐月」
栗花落先輩はこちらにペコリと会釈した後杉原先輩の後に着いて行き角の端に消えていく。さっきまで騒がしかった階段がとても静かになる。
最初に静寂を破ったのは杉原さん「皐月さん」ビク!!僕の身体が、悪寒と共に跳ね上がる。
「へーそうなんだー」
何故だろう杉原さんの顔を見れないのにニヤニヤしているのがわかる。
「あの、別に、」「大丈夫大丈夫別に言いふらしたりしないから、フフフフフ」
不味いぞ早くなんとかせねばとんでもない人に弱味を握られたのではと焦りに焦っている間に彼女のプランが完成したのか意気揚々と取引を持ちかけられる。
「取引しない?宮地君」
「取引だと?」
「そう。さっきの通り私の姉は栗花落先輩とマブダチでよくお泊まりにも来る」
「おおあお、お泊まり?!」
「そうお泊まり」
ダメだパジャマ姿の先輩を想像しそうになるが、今がそんな時ではないと心の中のショウちゃんが現実に引き戻す。
「つまり?」
「つまり貴方の知らない栗花落先輩の情報を私は沢山提供出来る立場にあるのだから宮地くんは、」
「僕は、飛田くんと仲良くなって主に女性のタイプなんかの情報杉原さんにそれをリークすると」
「わかってるじゃない。で私と組む?」
悩む時間は無かった。僕は気付けば彼女の手を取り初恋同盟を結成させていたのだった。