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アルナイル~光を求めて~  作者: 伊藤おかし
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19話 視線


 僕は余り視線に敏感な人間ではない。だが、全く感じられない程鈍感ではないのだ。


 冷や汗を流しながら、稽古の合間合間に感じる視線を無視して稽古に没頭する。


 僕が出来る事はチラチラ飛んでくる視線を忘れるぐらい稽古を全力でやる事。決して初恋の先輩からのどんな感情が乗っているか分からない熱視線にビビってるとかでは断じて無いのだ。


 集合時間前に挨拶して以降何故だろか、ショウちゃんも間違いないと言っていたが、暇さえ有れば栗花落先輩の視線が飛んでくるのだ。


 好きな人に度々視線を向けられる。文面だけ見れば良い事だろうけど僕の場合は違う。昨日の居残り稽古の件という爆弾がある以上この視線は好意ではないのだ。


 そう、この視線はの名は軽蔑。よくもまぁ顔を出せたもんだよ、という彼女の強い軽蔑があの完璧なポーカーフェイスを生み出しているのだろう。


 あぁやばい。想像するだけで目から大粒の涙が流れ出す。

「どうした宮地?!どっか痛いのか?!」

「先輩、これは汗です。僕は目から汗を流せるんです」

「汗?!」

 休憩時間中に1つ上の先輩の追求を華麗に交わしながら、次の稽古の準備を進める。今は稽古に全力で没頭するのだ。


 そのまま栗花落先輩の視線攻撃は続く。昼休憩に自販機に飲み物をショウちゃんと買いに行った時も、弁当を食べる時も、午後の稽古が始まった後も、視線は向いて来る。


 そして時間経過が経過する度に視線に乗る感情が強くなっている気がするのは、気のせいだろうか?マジで怖いんだけど。


 やがて、昨日と大体同じ時間に稽古のメニューが消化されミーティングが開かれる。


 此処では生徒が中心になり全体的な改善点や個々人が気になった点を話す事となっているが、締めの最後に今日も居残りするのか顧問の先生が聴いてくる。


「宮地今日も居残りするか?」

「ヘッ?!あー」


 やりたいのは山々だが、やってくれる人が居ない。昨日一緒に稽古してくれた栗花落先輩には、キツイ御言葉と視線を食らっている為また彼女に頼む訳にはいかないのだ。


 周りをチラッと見渡すと1人を除いて2、3年生の誰とも視線が合わない。何故だろう僕は彼等と上手く人間関係を築けてる自負があったのに視線すら合わないなんて、悲しすぎてまた目から汗が出そうだ。


 いつまでも顧問の先生からのいきなりのキラーパスに答えあぐねていると、「2、3年で誰か残りたいやついるか?」と先生の声が飛ぶが、沈黙が答えとなって帰ってくる。


「じゃあ各人掃除とー」


 先生が、ドンマイと言いたげな顔をした後、解散の言葉を言おうとして止まる。プルプルと若干震えた。細くすらっとした手が上に伸びていたからだ。


 僕はショウちゃんと顔を見合わせて驚愕の表情を浮かべるなか、周りの部員達はというと、名乗りでてくれてありがとうという。安心した顔を浮かべていた。


「おお、栗花落今日も残るのか、良い先輩だな!!」


もうわかんなーい。と僕は思考をフリーズさせた。



ーーーーーーー


 私は後輩を泣かせてしまった。理由は考えれば、直ぐにわかった。あの言葉のキャッチボーだけでは、誤解されるのも無理もない。


「謝らないと」

 誤解は、早くに解かねば大変な事になると身をもって知っている私は、明日何とかして謝罪して誤解を解く決心を固めている。


 ふとスマホを確認すると同じ剣道部の親友、杉原千佳からの、怒濤の質問が送られていた。内容は勿論

宮地君との居残り稽古についての質問だ。


私は相談の意を込めて『誤解させて、泣かせちゃったんだけど、どうやって謝ったら良いかな』と送ると即既読が付き返信が返ってくる。


『宮地君はいつも誰よりも朝早くから来て練習してるって顧問が褒めてたし、皐月も早く言って謝ってみたら?』『どうせ、周りに人がいたら上手く喋れないでしょ?』と自分の性格を良く理解してる千佳からのアドバイスにありがとうのスタンプを送り、スマホの目覚ましアプリを起動する。


 早朝誰よりもも早く着く事に成功し、宮地君が来るのをモップを掛けながらルンルンで待っていると、誰かが道場に入ってくる音とが聞こえ、気合いを入れ直す。


 千佳の予想通り宮地君が1番乗りに到着する。だけど私は失念していた。彼には相棒という名のひっつき虫がいたのだ。


 問題の彼と一緒に来た進藤君。彼のせいでコミュ症の私は、早朝の謝る機会を失った。


 その後も何かと稽古中だけでなく休憩中の間、宮地君が1人になる機会を探ったが、ものの見事に彼の周りには常に人がいてコミュ症の私が話しかけるタイミングが無かった。

 

 お弁当の大好きな卵焼きを食べながら勝負は、もう今日の居残り稽古しかないと気合いをいれる。


「なんか私、今日栗花落先輩から闘志みたいなものが見えるんだけど」

「うん、私も」

「はぁ、どうなることやら」


 後輩の女子部員から変なことを言われ、親友の千佳から呆れたため息を頂戴されるが、私の闘志は依然として燃え続けた。


 勝負の時がやってくる。ミーティングが終わり、予想通り顧問の先生が、提案した居残り稽古だ。だが、予想だにしなかった事態がおこる。


宮地君が、居残り稽古をやるのを答えあぐねているのを見て愕然とする。そうだった。今の私は頼まれる程心象が良く無いし、他の2、3年生は、居残り稽古したく無いんだった!!


もし居残り稽古がなかったら、もう今日誤解とか無い?それはやばい。明日になったらもう絶対気まずさ倍増してはなしかけられないよ!!


 私は、彼に視線を送りまくったが指名される事もなく先生が締めの言葉を喋り始めたの為、慌てて手を挙げる。


 知ってる人達でも注目されるのは、少し恥ずかしく手がプルプル震えるが、スポーツ根性を全開にして意思を表明する。


隣にいた千佳も根性見せた私に驚いた顔をしつつも肩に手を置き労いの優しい表情を向けられる。先生からも良い先輩だなと褒められ、ちょっとは誤解も解けたのではと宮地君の方を見る。


彼の顔はなんと言えない、心此処に有らずといった感じで、惚けていた。


あれ、なんで?!



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