16話 現実逃避
「それでね、五体投地したら迷惑だって言われんだよぉーーーーーー」
店内に若い男の子の悲壮感たっぷりの声が木霊する。しかし、此処にそれを咎める者はいない。此処にいるのは、話を聞き同情する同盟者と寡黙にただ美味しいノンアルコールの飲み物を差し出すマスターだけであった。
「今日はのみなさい。此処は私の奢りだから」
「姉御ー」
バーの場所は、unknown journeyオンライン通称ujゲーム内の街ナイトレラの路地裏の中にひっそりと営まれている穴場の店、バーの名をティアという。
キルの初のエリアボス攻略を聞きナイトレラに移動したアンネロゼは、前に偶然見つけたこの店で討伐のお祝いとお互いの恋の情報交換をすべくゴールデンウィーク前にこの日に落ち合う約束をしていたのだが、いざ会うと泣きながら来た悲壮感ダダ漏れのキルを見て、話を聞いてあげていたのだ。
「落ち着いた?」
「ゔん」
「失恋……まだ負けてない私にはわからない事だけど、辛い事だよね」
「えっ、これやっぱり失恋してます?」
「逆に聞くけど、こっから挽回する手ある?」
「ですよねぇーーーーーー」
急にまともになったが再び、失意の底へ叩き落とされキルはアルコール入ってないグラスを一気飲みし突っ伏す。
そんなキルを見ながら自分もグラスを煽るアンネロゼは、栗花落皐月らしくない対応に疑問を覚えていた。
(なんか、お姉ちゃんに誘われて家に来たときに話した感じと違うなぁ、無愛想だけどそんなに冷たい人だとは感じなかったんだよね。でも、さしたらなんであんなに冷たい態度を取ったんだろう。聞いた感じ宮地君は、別に変なことしてないよね。後でお姉ちゃんに探りを入れてみようかな)
少しの違和感を覚え、可哀想な弟分の探りを入れてみようと考えつつ、いつまでも落ち込まれると面倒なので吹っ切れさせようと発破をかける。
「さぁ、それ飲んだらいくよ!!」
「……どこへ?」
「折角ゲームしてるんだもんやる事は1つ、遊ぶ事でしょ!!」
数十分後、ナイトレラの人気フォトスポットでもあり、多くのNPCと生産職プレイヤーが様々な店を経営しているメインストリート、ナイトロードで楽しそうに買い物する少女と荷物運びがいた。
「って、お前が遊ぶんかい!!」
「当たり前でしょ?遊ぶ気がない奴が遊べるわけないの!!だから、あんたは私が楽しそうにしてるのを見て釣られて笑ってな」
「なっ、暴論すぎるでしょそれ…」
「なら、キルもなんか買って楽しみなよ。エリアボスでドロップしたアイテム売って纏った金待ってるでしょ?」
あの後ドロップアイテムを素材に何か作れるとか聞かされてた為、大事に取っておこうと考えていたキルだったが、所詮チュートリアルのエリアボス、大した装備にしかならないから、金に変えて他の物を揃えろと思い出より実利と指導をくらい今キルの所持金は4500ゴルとかかれている。
彼女は彼女なりに自分を励まそうとしてくれてるんだと少し前向きになった。キルは、なんか豪華な外装をした武器屋に向かって歩き出そうとして、アンネロゼに服の襟を掴まれる。
「よしこれで、僕も大人買いしてやろう」
「なに、無駄遣いしようとしてんの、装備整えんの!!」
「えっ?!」
「はぁっ?!」
「はい…初期装備脱却だー」
失恋をたらたら引きずり、無駄な買い物をしようとした荷物持ちは姉気分の圧に負け装備が売られている場所に向かって歩きだした。
キルとアンネロゼがやって来たのは、多くの露店が道の端に点在するナイトロード露店エリアの1つ。露店でありながら商品が置かれておらず、フードを被った怪しげな人が服飾屋ですと看板を立てているだけだった。
「どう?リンナ最近儲かってる?」
「あっ?!アンネロゼさんお久しぶりです。もう折角色々揃えたのに全然人が来てくんないので赤字ですよー」
「もうちょっと外装に気を遣ったら?」
「私のコンセプトとちょっと違うのでいやです。って今日はフライさん以外の連れがいるなんて珍しいですね」
「そう、うちのギルドの新入り何だけど。まだ初期装備だから装備整えて上げたいの」
「なら、お任せください。高性能で良いビジュの服が揃ってますよ!!」
アンネロゼのと面識があるこの灰色髪の少女は、フードをとる。見た目は10代後半で、フレッシュな顔立ちに黄色の瞳を覗かせる。
キルはコンセプトとは何ぞやと頭にはてなを浮かべて首を捻っていると、アンネロゼがそれに気付き説明してくれる。
「彼女、怪しげ満点なのに興味本位できたプレイヤーに良い装備を売りつけて、あいつは一体なんだったんだ…っていう謎のベールに包まれた美少女ムーブをやりたいんだって」
「ん?」
「ひどいなーアンネロゼさんフルダイブゲームでのロールプレイングは、醍醐味の1つでしょ?」
「んーー?」
「自分の理想を演じてるって覚えとけばいいよ、まぁ騙されそうになったら止めてあげるから自分で交渉してきな」
「オッス!!」
キルは、一歩下がって見守る姿勢をとったアンネロゼとは、反対に露店商リンナの前でしゃがみ同じ目線で話しかける。
「キルといいます。よろしくお願いします」
「オッケーキル。リンナだ。ジョブとステフリ、今日の予算を教えてくれるかな?」
「まだポイントは、最低限しか降ってなくて、あまり尖ってないです。あっ、ジョブは戦士で予算は4000ゴルです。」
「んーなら、どう言うアバターにしたいとか願望はある?」
「どうっていわれてもなー」
「それは自分で考えないと楽しくないでしょ?なりたい自分を想像してみたら?」
その質問に具体的な答えが出せず、アンネロゼを見てしまうが、彼女は首を横に振りキルに自主性を促す。
キルは、少し考えたあと、答える。
「僕は全部ぶった斬る侍になりたいです!!」
「オッケー侍ね!!ならこの和服から来て見て」
キルの着せ替えショーが始まった瞬間だった。
誤字脱字のご指摘ありましたらよろしくおねがいします。高評価はモチベーションに繋がるので宜しくお願いします




