11話 ソロ3
フライこと飛田聡太は、ゲーマーである。親がゲーマーだった事もあり比較的多くのゲームを買い与えて貰い、聡太自信もゲームを趣味として多くのゲームをやり込み愉悦を得ていた。
しかし、ガチ勢というわけではなく、エンジョイ勢だった。
エンジョイ勢とは何処まで行ってもハイスコアや勝ち負けよりも楽しければ良いという考えである。
本来リソースの奪い合いであるujでも初心者のレクチャーを行いトッププレイヤーになる事より、リアルのフレンドと冒険する事を優先する。
それが、飛田聡太のゲームのプレイスタイルだ。
目の前の薬草を片手に走りながら回復しても片手間の剣では、攻撃を捌ききれず回復した側から減っていく現状。
キルの戦いをエリア外から観戦していたフライにはこの状況は、想定していた状況の内の1つだった。
それだけ無茶な挑戦なのだ。現実で特別強いわけでもフルダイブにゲームに慣れてる訳でも無いビギナーが、あのエリアモンスターを1人で倒すというのは、それだというのに
「俺はなんでこんなに、熱くなってるんだ?」
フライの手に力が入る。綱渡りの様な苦し紛れの凌ぎが、繰り返される度にやられないかとヤキモキする。
「いつもは、こんなに胸の奥が熱なる感撹は、しないのに、何でアイツの戦う姿を見ると応援したくなるんだ?」
自問に近い独り言を溢しながら自分のゲームへの向き合ってきた過去を振り返る。
何度思い出しても自分は、エンジョイ勢で今まで幾つもゲームをプレイしてきたが自分がここまで此処まで熱くなる事はなかった。
いや、多少は熱くなることはあってもいつもは、愉悦が上回るその程度の極々小さいものだったと結論がでる。
それだというのにおかしな事に自分では無い他者の姿を見て熱くなっている。そのいつもと違う感情の高まりに戸惑うフライだったが、声を荒げながら必死に剣を振るう姿を見て腑に落ちる。
「あいつはいつも、ガチなんだ。成りたい自分の為にどんな事でも必死にやる。そんなアイツの顔をリアルでも仮想でも見てきたから、だから応援したくなるんだ」
だが、現状は手を貸すなと言われた以上手を貸す事が出来ない。貸してしまってもそれはキルの望む勝利とはかけ離れている事は容易に存在できてしまったからだ。
フライが、大人しく静観するしか無いと諦めかけたその時、キルと颯イタチの戦況が動いた。キルの初期装備の長剣がとうとうエリアボスの筋力に耐久力を削り切られ折れたのだ。
フライはこの瞬間で大いに悩んだ。加勢するのか?だが、止められている。何処までなら良いのだろうか?口出しは止められていなかった。と自分が力を貸せるラインを見極める。
そして1つの回答に行き着く。フライは、過去今までプレイしたフルダイブゲームの中で最速のアイテムウィンドウを開きを披露し、一振りの武器を実体化させる。形は刀しかし、鞘はなく抜き身の刃となっている刃元も少しぐらついていた。
「キルーーーーーー受け取れぇ!!」
そんな刀を迷う事なくフライは、戦場に投げ入れた。
ーーーーーー
僕はあの吹っ飛ばしを喰らってから戦況を立て直せずにいた。理由は簡単だ、単純な技量不足この一言で片付けられる。
素早く薬草を口に入れる事が出来たら剣を片手で扱いパリィが出来たら、ノーダメージで奴が怯むまで攻撃を加える事が出来たら、僕は戦況を立て直せたかもしれないだが、現実は残酷でこの苦しい現状がお前の実力なのだと言い聞かせてくる。
走らないと初手の囲いからの攻撃を喰らう為走りながら薬草を頬張り回復を試みるが、走っていると直ぐにスタミナが切れて足が止まる。そして足が止まった獲物を仕留めに懸かろうと伸びてくる爪牙を雑に受けるとガードしきれず攻撃を喰らう。
この繰り返し、このままでは、アイテムか、僕の集中力かそれとも別の何かが、切れてやられるという確信がある。速く何とかしないと、僕は猛り狂った様な大きな声を出しながら片手で剣を振るいパリィを狙う。
此処で、此処で自力でパリィが出来ればクールタイムがもう少しで終わるリジェクトと合わせて回復し切る時間が出来る。狙いを済ませ何度も見てきた何度も振るわれた爪に合わせる。
「出来っっ!!」
弾く事は出来た。だが代わりに等々雑に剣で受けてきたツケが回って来たのか、この世界に来てからずっと一緒だった愛剣が、刃の中程で折れたのだ。
もう負けなのか、フライにあれだけの啖呵を切っておいて負けるなんてカッコ悪い結果しか出せないのか?
体力が回復しているが、単純に攻める手段がない。
諦めるそんな思考がチラついてくる。自分の心の弱さに落胆する。思考が回らない、打開策が思いつかない。そんな半ば思考停止状態に陥りかけた僕に友人の大きな声が届く。
「キルーーーーーー受け取れぇ!!」
えっ、それは受け取っても大丈夫なのか?手を借りていないだろうか?そんな思考がチラつき宙を舞う刀を放置し、受け取りてのいない刀は草原に刀身を刺さる。
「武器が無い事を言い訳に格好付けんな。最後まで戦えぇ!!」
その必死な彼の言葉が再び僕の闘争心に火をつける。意地を通しきれない自分に腹が立つ。
それでも再炎し、強く燃え続ける勝利への執着が迷う事なく次の行動を起こさせる。
耐久値がもうなくアイテムロストの警告ウィンドウが表示されるが、僕は後一撃で全損するであろう刃が中程で折れた剣で『リジェクト』を発動し今度こそ此方の体力を、削りきろうとする颯イタチの爪を跳ね飛ばす。
耐久値が0なり砕けて光になっていく愛剣横目に僕は『スプリット』を発動させ草原に刺さった刀を抜き取った。
これが刀?先ず初めにこの刀を握って思ったのが、そんな感想だった。現実ではあり得ないほのかに赤い光を放つ長剣とは明らかに違うそんな刀だ。
「これなら戦える」
重さも長さも違うこの刀使いこなして僕が勝つ。僕は刀を中段に構えて斬るべき相手を見据える。
「お前をキル」
宣言と同時に両者動き出す。長剣越しに既に何度も味わった爪を袈裟斬り今度も完璧にパリィし、跳躍今度は左逆袈裟斬りで颯イタチの顔面に一太刀浴びせる。
フライ君云くこのゲームは攻撃が綺麗に当たるか、急所に当たるなどした場合、通常ダメージより与えるダメージが多いcriticalを発生させる事が出来る。
「頭は基本的にどの動物も急所だろう?」
僕はこの戦いで初めて貰ったcritical判定に心の中でガッツポーズをしながら、反撃を開始する。
颯イタチは自慢の俊敏性を活かし、再び縦横無尽に走り回りからの飛びかかりをしてくるが、目も慣れてきた。
翻弄される事なく。ジャストパリィを成功させ再び反撃の一太刀を浴びせ、2度目のcriticalを叩き出す。1度目と違うのはクールタイムが終わり使用可能となった『スラッシュ』を使ったこと。
その差は歴然で喰らった颯イタチがノックバックを起こす。この行動不能時間を利用し颯イタチの懐に間合いを詰め、何としても削り切ると攻撃を重ねる。
颯イタチのお腹を切った後に連続して表示されるcriticalのマークの威力とフライが貸してくれた刀を信じながら此処で削り切ると覚悟を決める。
「アァーーーーーー」
声をだし全身全霊で身体を動くまで刀を振る。削り切られろ間に合え!!HPゲージは、自分とフレンドしか見れない為本当にこれで良いのか、後ろに下がった方が良いのかと湧いてくる迷いを無視して刀を振る。
視界の端に爪の存在を認識し慌てて刀で受けて下がる。時間にして3秒の間に8度斬撃を叩きたこんだが、未だエリアボス颯イタチは健在だ。
「良いよ。倒せるまで何度でも叩き込むよ」
僕は刀を中断に構えて颯イタチに宣言する。すると後ろにからフライ君の助言が聞こえる。
「キル!!腹だ腹を狙え。お前の連撃で腹に損傷エフェクトが出てる。今ならそこがアイツの弱点だ!!」
フライの言う通り仁王立ちするイタチの腹には赤い傷を受けたときに出るダメージが、まだ残っていた。
腹を狙うと僕は決めて走り出す。当然今度は素早い軌道で腹には行かせないと言わんばかりの噛みつきを受ける、のではなく受け流す。力を逃す所を作り弾かず最短で腹に近づく方法を取る。
「言ったでしょ。慣れたって」
1歩強く踏み出し僕は『スラッシュ』を発動し刀を颯イタチの腹に突き立てた。




